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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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ロンドン その3 ロンドンの三線<サンシン>

今回のロンドンは、2日間のCTB会議後の週末も滞在しました。直後、ニューデリーでの会議に立ち寄ったためですが、その間、博物館と古書店をめぐり、ハンセン病の歴史情報を探したいと思ったのです。かつて、「ロンドンの失われた病院:ハンセン病療養所(The Lost Hospitals of London:Leprosaria)」という講演がロンドン市立博物館で行われたこともあって、3つの博物館を訪ねましたが、「病気」関連の展示はあっても、ハンセン病はなし。ちなみに、同博物館では、中世、猛威を振るったペストに関しては興味深いビデオや資料がありましたが、ハンセン病はなく、この病気がforgotten<忘れ去られた>と云われる所以を垣間見ました。

さて、ロンドン報告最後は、旧職看護大学卒業生の久代さん・・・現地ではSayoサンご一家との対面です。

2001年開設の大学一期生、つまり18年前に初対面したSayoサンは、イギリス人のMark氏と結婚して以来、ロンドン在住です。こちらで会うのも2回目ですが、前回は、まだ赤ちゃんだった嬢ちゃんが5歳、そして2歳の坊やも増えて、二人の雰囲気は何となくロンドンっ子風、イギリスでは5歳から小学校が始まるので、その影響もあるのでしょうか。とは申せ、二人の間に、常に和平があるわけではありません。Sayoサンは、日本語と英語でほめたり叱ったり・・・といっても、頭ごなしにではなく、きちんと話して納得させる姿は、これは万国に通じて欲しい立派なママさんでした。

さて、パートナーのMark氏は、公立学校で英語を教えるプログラムで来日、2006年にSayoサンの郷里熊本の小中学校で教鞭をとられました。英語弁論大会に出場する生徒の指導をなさる間、単に表面的な発音や訳でなく、言語を通して子どもたちと協働すること、言葉を手段に子どもの才能を発展させることに興味を覚えられたそうです。3年後、イギリスに帰国しSpeech and Language Therapyの修士コースに進み、日本式には言語聴覚療法士に類する修士号を獲得された後、国家保健制度NHS(National Health System 日本の国民皆保険制度と同様の仕組み)に就職され、以後、自閉症や言語障害を持つ子どものコミュニケーション能力を高める専門家として働いておられます。

今回、直々にうかがったところ、その活動範囲と程度は、日本の言語聴覚療法士に比し、はるかに広く深いようで、言語を手段に積極的に子どもの才能を開発する、特殊な教育家の仕事と理解しました。

閑話休題。

実は、Mark氏が、三線<サンシン>が上手だということは知っていましたが、上手とか下手といった趣味の段階ではなく、恐らく、現在のイギリス国内では第一級の演奏家だと判りました。

沖縄の三線<サンシン>は、三味線の先代?ですが、15世紀頃に中国福建省から当時の琉球にもたらされたとされています。動物愛護者、特に愛猫家の私は聞きたくない話ですが、三味線の胴部分は猫・・・最近では犬も使われているそうです・・・に対し、三線は蛇の皮なので、蛇三線<ジャミセン>とも呼ばれます。いずれも、撥<バチ>で弦を弾いて音を出す、いわゆるリュート楽器に属します。わが国では、例えば源氏物語の中に楽器を奏でている姿が描写されていますが、これは弦の数が多い琵琶です。これも同様の楽器です。琵琶は、ややおっとりした感じ、あるいは平家物語の語りなど、悲壮感を醸すのに対し、三線はポップな楽器だと私は思っていますが、その昔の琉球王朝では、教養ある男性の嗜みの一つが三線を奏でることであったとか。

さて、Mark氏は、熊本ご勤務時代に、三線を弾く日本人にあったと思召せ。それが沖縄への興味に繋がり、持ち歌三線練習を始められた・・・多分、ある時期、わが国のどこかでは、「変な外国人」だったのかもしれませんが、現在、ロンドン沖縄三線会の紛れもない立派なリーダーです。と、ここまでは、個人レベルの嬉しいビックリでした。

もっとびっくりは、日本語が堪能なMark氏が、「ワタシィ、ササカワにご縁がありまして・・・」とおっしゃる。笹川記念保健協力財団は、生憎、三線にも言語学にもご縁がありませんので、当然、私は「??」

が、お話をうかがって納得。ササカワはササカワでも、彼のおっしゃるササカワは、グレートブリテン笹川財団(The Great Britain SASAKAWA FOUNDATION, GBSF)でした。

実際に、申請書も見せて頂きましたが、2009~2013年の間、Markが指導的立場を務めるロンドン沖縄三線会、英国沖縄県人会が毎年6月に主催する「沖縄day in London」の資金の一部がグレートブリテン笹川財団からだったという次第です。なるほど、YouTubeのLondon Okinawa dayを検索しますと、懐かしい沖縄民謡が流れています。

私のお願いに応え、Mark氏が三線を弾き謡い、Sayoサンが手踊りを、5歳と2歳のジュニアが小さな太鼓と手拍子をあわせてくれました。音楽・・・芸術に国境はないと、実感しました。

お手製の夕食は、とても美味しいイギリス伝統料理シェパードケーキでしたが、Sayoサンご一家には、こうしてロンドンっ子部分と、Mark氏のご両親のルーツの一方であるスウェーデン部分と、熊本と沖縄が混在した多文化が心地よく調和していました。

日本の看護師助産師資格を持っているSayoサンは、いずれ、この国でその専門性を活用するでしょうが、ご夫婦の多文化が適切に混和されつつ継続し、新たな文化を生み出すこと、そのような変容が民族の和、そして世界の平和を強化することになるのだろうと、スーパームーンの道をMark氏の車に送られながら、とても幸福感に満ちた一夜でした。

※)とても「美味しいイギリス伝統料理シェパードケーキ」について、Sayoさんから注意がありました。ケーキではなく、シェパードパイですよっと。料理下手で知識もない・・・私のミスです、失礼しましたとお詫びしました。