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ハンセン病とは・ハンセン病と人権

ハンセン病とは

病原

ハンセン病はらい菌(Mycobacterium leprae)による慢性の感染症です。
感染後平均5年、長い場合には20~30年という時間の経過後に、まず皮膚や末梢神経に症状が現れます。しかし、らい菌は毒性が極めて弱く、95%以上の人がらい菌に対する免疫力を持っているので、たとえ感染しても自然治癒し、発症することは極めて稀です。免疫力が不完全な乳幼児や身体が衰弱している人が、未治療の患者と緊密で頻繁な接触を長く続けた場合以外では、ほとんど感染・発病にはつながらないとされています。

初期症状

一般的な初期の症状は、皮膚に現れる斑紋です。
この斑紋は身体のどこにでも現れ、白または赤・赤褐色で、平らなものと、隆起したものがあります。この斑紋には知覚(痛み、温度、触れる感じ)がなく、この特徴が、草の根レベルの保健職員がハンセン病を診断するときの判定基準となっています。

治療法

リファンピシン、ダプソン、クロファジミンの3剤を併用する多剤併用療法(MDT)がWHOより標準治療法として推奨されています。MDTは1か月分(28日分)の服用量が1枚のブリスターパックに包装され、裏面には服用する順番に番号が記され、間違わずに服用できるように作られています。

予防

患者本人の合意がある場合には、感染リスクの高い同居家族等に対して、リファンピシンの単剤投与がハンセン病の予防法としてWHOにより推奨されています。また、ワクチン開発の研究が進められています。

後遺障害

治療の開始が遅れたり、治療の経過中にらい反応が起こってしまった場合には適切な対処をしなければ、抹消神経が障害を受け、知覚麻痺や筋力が失われ、身体的な障害につながります。そのため、治癒後に障害を遺さないために、ハンセン病の早期発見と、治療開始後に起こりうるらい反応に早期に気が付き、早期治療を実現することは極めて重要です。

ハンセン病制圧活動の進展

制圧目標の設定

1991年5月、第44回世界保健総会において、「人口1万人あたり患者数が1人未満」になることを「公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧」と定義し、これを2000年末までに達成することが満場一致で採択されました。

明確な目標を設定したことにより、蔓延国の政府はハンセン病対策を国の保健政策の上位に位置づけ、必要な予算と人的資源を投入するようになりました。また、NGOも共通の目標の下で政府やWHOとの連携を強化し、早期発見診断活動が促進されました。

治療薬の無償配布

ハンセン病制圧活動の世界的な展開に一層の推進力を与えたのは、治療薬MDTの無償供与が全世界的に実現したことでした。

笹川保健財団は、MDTの研究開発支援を行うと共に、開発後には蔓延国政府がこれを導入するよう、その試験的実施を財政面と技術面の双方から支援し、多くの国で普及されるように推進してきました。

1994年7月には、第1回ハンセン病制圧国際会議(於ハノイ)で、笹川陽平日本財団理事長(当時)が、1995年から1999年までの5年間、毎年1,000万ドルずつ合計5,000万ドルを、MDT購入資金としてWHOに供与し、世界中のどこでもハンセン病治療薬が無料で入手できるようになりました。2000年より、製薬会社ノバルティスが治療薬の無償供与を引き継いでいます。

正確な記録のある1985年時点で世界の患者数は500万人を超えていましたが、制圧目標の設定、MDTの無償配布によって、2000年末には、患者数を約60万人(*)まで減少させ、世界レベルで公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧が達成されました。

*注:2001年初頭の登録患者数

ゼロ・レプロシー(Zero Leprosy) を目指して

現在、多くの国で公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧を達成しましたが、依然として世界全体では年間20万人の新規患者数が記録されています。

そのため、WHOは公衆衛生上の問題としての制圧達成後の更なる対策活動の推進を目指して、民間のイニシアティブにより掲げられたゼロ・レプロシーという標語を採用し、2021年4月にはグローバルハンセン病戦略(2021-2030)『ゼロ・レプロシーに向けて』を発表しました。長期ビジョンに「ゼロ・レプロシー:感染と病気ゼロ、障害ゼロ、スティグマと差別ゼロ」を掲げ、「ハンセン病の制圧(感染の停止: interruption of transmission)」を目標として、次の2030年までに達成すべき指標を設定しました。

・自国民の新規患者数ゼロの国が120ヵ国となる。

・年間の新規患者数が70%減少する。

・目に見える障がいのある新規患者数の割合(人口100万人あたり)が90%減少する。

・子どもの新規患者数の割合(子ども100万人あたり)が90%減少する。

※上記の指標は、2020年の患者数を基礎として算出しています。

また、戦略の柱として、①全ての蔓延国でのゼロ・レプロシーロードマップの実施、②早期発見診断活動と合わせたハンセン病予防内服の拡大実施、③ハンセン病の合併症に対処し障害を防ぐ、④スティグマと闘い人権尊重を確保する、の4つを提唱しました。

ハンセン病と人権

ハンセン病が治療により治る病気となっても、なお、ハンセン病患者、回復者やその家族に対して根強く残る偏見によって、当事者が教育、結婚、就職の機会を奪われ、社会から排除されているという状況に対し、2003年に笹川陽平WHOハンセン病制圧大使(当時日本財団理事長)は、国連人権高等弁務官事務所を通じ、ハンセン病をめぐる差別問題の解決に向けた働きかけを開始しました。2005年8月には国連人権小委員会で回復者自身が発言するという大きな成果を達成しましたが、2006年、国連人権委員会が改組されて「国連人権理事会」になったことに伴い、それまでハンセン病問題に理解を示してくれていた委員たちはばらばらになってしまいました。そこで、新しい人権理事会で各国政府代表の権限が強化されたことに着目し、日本の外務省に働きかけ、2007年に日本政府は「ハンセン病による差別解消を国際社会に対して訴える」ことを外交の柱としの一つとすると新たに決定しました。そして、その活動の中心となる「日本政府ハンセン病啓発大使」に笹川陽平氏が指名され、積極的な活動を展開しました。こうして国連への働きかけは、日本政府外務省の協力のもと、2010年12月の国連総会本会議において、加盟192カ国(当時)の全会一致による「ハンセン病の患者・回復者とその家族に対する差別撤廃決議」と「原則及びガイドライン」の採択につながりました。日本財団はその後も、2012年から2015年に5回にわたり「ハンセン病と人権シンポジウム」を開催する等、「原則及びガイドライン」が各国レベルで適切に実施されるよう働きかけを継続しました。その結果、2017年11月に、各国における「原則及びガイドライン」の実施状況や偏見・差別にかかわる調査を行う特別報告者(Special Rapporteur)が任命されました。

外務省HP ハンセン病差別解消にむけて国際社会における日本政府の取り組み

回復者・当事者主体の活動の確立に向けて

特定の病院や療養所でのみハンセン病の治療が可能であった時代、あるいは隔離政策の結果として、多くの患者たちが家族や故郷を離れ、治療を求めて各地から集まり、病院や療養所の周辺に定着しました。それらはやがてコロニーや定着村と呼ばれるようになり、今日に至るまで世界各地に残っています。そこで暮らす人々の中には障害を持つ人も多く、今なお偏見や差別に苦しむ人々が多くいます。

一方、ハンセン病の医療サービスは長く他の一般医療サービスとは区別され、特別の部門で閉鎖的に提供されてきた例も少なくありません。社会のハンセン病への認識は、疾病管理政策、隔離政策、慈善、宗教、報道、社会各層の無知や無関心を含むさまざまな要因が組み合わさって作られたものであり、患者は長い間、慈善・治療・研究などの対象という受け身の存在でした。

このような中でも、自らの存在、生き方を他人に決められるのではなく、自ら声をあげていこうという取り組みが始まりました。1951年に設立された日本の全国国立癩(らい)療養所患者協議会(現 全国ハンセン病療養所入所者協議会:全療協)や、1946年に設立されたマレーシアのスンゲイ・ブロー療養所委員会、1981年に設立されたブラジルのMORHANは、自らの尊厳と権利を求めて、早くから積極的な活動を行ってきた団体の一例です。こうした動きは、国際的な回復者ネットワークであるアイディア(IDEA:共生・尊厳・経済向上のための国際ネットワーク)が1994年に設立されたことをきっかけに、世界各地に広がり、貧困からの脱却、教育や就労機会の獲得、障害等の治療へのアクセス確保、尊厳の回復を目指し、積極的な活動を展開するようになりました。

このような当事者主導の動きに呼応するように、ハンセン病対策全般に、患者・回復者・その家族らの参画を重視する動きが生まれました。ハンセン病対策をより効果的に展開していくためには、当事者主体的の参画が欠かせないという認識がハンセン病専門家・NGO・当事者組織らの間で浸透していきました。そして、従来から強調されてきた、社会啓発や人権問題に限らず、患者発見、治療、障害予防、教育、権利の確保など、ハンセン病対策のあらゆる過程で回復者の役割を強化する「回復者参加型ハンセン病対策」への取り組みが始まりました。

その結果を受け、WHOは、2011年に「ハンセン病サービスへの当事者参加を強化するためのガイドライン」を作成しました。このガイドラインの作成には回復者が主体的に関わり、ハンセン病サービス全般において、回復者の積極的な参画を推奨しています。

笹川保健財団では、1995年からこうした当事者団体の基盤強化や当事者のエンパワメント、啓発活動、政府へのアドボカシー活動等を支援しており、これまでに支援した団体は22カ国37にのぼります。2019年と2022年には世界の当事者団体が一堂に会し、ハンセン病患者、回復者、その家族の尊厳を促進するための組織の役割や能力強化の促進等について話し合うために、「世界ハンセン病当事者団体会議」を主催しました。 当財団が支援している回復者団体一覧はこちら

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