起業家育成事業が目指すもの

「看護師が社会を変える」ことへのチャレンジ

笹川保健財団は、日本財団の助成を受け、2014年度から2021年まで「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業を実施しました。本事業は、10年程度の経験のある看護師を対象に、在宅看護センターの起業に必要な経営スキルや、地域と連携するために必要なスキルを学ぶことが出来る8ヶ月間の研修を実施しました。在宅看護センターは、訪問看護を主な事業とし、地域の中心となって人々の健康を看・護ることを目指します。

なぜ看護師なのか

■日本の医療保険制度は持続できるのか

2000年、WHOは日本の医療保険制度を「世界的に総合点でNo.1」と評価しましたが1)、わが国の国民医療費の総額は毎年1兆円を超えるペースで増え続けています2)。
人類史上初めて、超高齢社会に突入し、世代間格差、地域格差が広がる中、これまでのように「何でも病院、念のため受診」が許される状態ではなくなってきています。しかし健康であること、健康を守るための手段を確保することは基本的人権の一つです。
“Health for All(全ての人に健康を)”を実現する為には、どのようにしたらよいでしょうか。

1) 政府開発援助.“保健医療・人口分野をめぐる国際潮流”.外務省.2013-06-07. (参照2022-03-28)
2) 政策統括官付参事官付保健統計室.“平成30年度 国民医療費の概況”.厚生労働省.2020-11-30.(参照 2022-03-28)

出典:厚生労働省 平成 28年度 国民医療費の概況

■地域の健康を護る・・・

看護師は、「医療」の場だけでなく、「生活」支援にも関与できる最大多数の保健専門家です。人々が自らの健康を考え、地域で実践可能な、健康行動を行うプライマリ・ヘルスケア(PHC)の提供は、地域で活動する在宅/訪問看護師の重要な仕事の1つです。地域住民に最も身近に存在する保健専門家として、地域でのケアや予防など、人々が自らの健康を考えられるような看護活動が最重要になると考えます。

日本財団在宅看護センターとは

本事業の8か月の研修を受けた看護師が運営・管理する在宅看護センターです。
適切なフィジカルアセスメントを用いた全人的ケアで地域の人々の健康を看・護り、地域包括ケアのハブ的存在を担います。
また、全国に修了者によるネットワークを構築し、情報共有や情報発信を行っています。

このセンターの特徴は、地域の医療施設、診療所、開業医、その他介護・老健施設などと連携する他、薬局、給食、リハビリテーション施設との連携、さらに地域外の施設とも連携すると共に、地域住民の理解と協力のもと、独居住民や退院直後、容態不安定期の人々、看取りを必要とする人々のための在宅ホスピス機能も備えた体制を目指します。また、地域のニーズ・特色に合わせ、地域に根差した柔軟なセンターも目指します。

訪問看護ステーションと在宅看護センターはどう違うのか

「訪問」は看護師主体の言葉であるの対し、「在宅」は利用者や家族を主体とした言葉です。
病院や施設では、食事や睡眠時間、治療の時間等、医療者主体のレディ・メイド(既製)の医療・看護を提供せざるを得ませんが、自宅では医療者が利用者のそれぞれの日常生活に合ったオーダーメイドの医療・看護を提供します。主体が利用者や家族なのです。
また、「ステーション」ではなく「センター」を使っているのは、地域の中心的存在であって欲しいという願いを込めています。

【対談】看護師が社会を変える

日本財団 会長 笹川陽平
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笹川保健財団 会長 喜多悦子

喜多

この度の日本財団支援で始める「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業への過程を説明しますと、当財団は十数年来ホスピス緩和ケア事業として看護師及び医師の研修をやってまいりました。これは医療施設内のケアプロバイダーの機能強化でした。今、日本は人類史上初めての高齢社会に入っています。健康が壊れた場合は医療で解決しますが、多くの高齢者の健康は壊れてないけれど少し質が悪くなっている、それをどこで看るかは国際保健の現場にいた時から気になっていました。さらに看護教育に携わったなかで、このような事業をどこかで出来ないものかと考えていました。

笹川

私は、組織も人も変化し、時代のニーズにきちっと合ったものは何か、それにどう対応できるかが大事だと考えています。笹川記念保健協力財団と日本財団が協力して行った緩和ケアや訪問看護の専門家であるホスピスナースの養成は3,000人にも及び、これは大きな組織力です。これらの組織も活用し、ご指摘のように、世界で最も早い高齢社会を迎える日本ですが、この事業は日本のみならず、高齢化を迎える他の国々にとっても一つのモデルケースになりうるようなチャレンジングなことで、喜多理事長の長いご経験の上で実行していただけるということで、大いに期待しております。

喜多

高齢者が多くなった日本の健康をどうするかを考えた時、看護師だと思いました。多くの医師は医療施設で働いており、地域を看ることに関しては、医療施設の医師を即地域に持ってきても効率も機能もうまく合わないと思います。その点看護師は人々と近く、これからも増えてくる高齢者対策という社会のニーズに対し、その機能で対応する方針でやっていきたいと考えます。

笹川

今回の計画は二つの点で大変ユニークだと思います。一つは、国民の側、医療の受け手側からすれば在宅ケアが理想ですが、これに対して積極的にアプローチしようとする取り組みだということ。もう一つは、ケアをする側、看護師の関わり方です。多くは病院を中心に医師からの指示の範疇で活動している状況から、在宅に近づいていくに従ってインセンティブも変わってくるでしょうし、自分たちが一つの事業を行いながら国民生活で最も重要な健康管理を積極的に支えていくということで、従来の考え方からもう一段飛躍し、表舞台に出て起業マインドで仕事をする。これは長い看護師の歴史の中でもエポックメイキングになるような出来事ではないでしょうか。喜多理事長はどうお考えですか。

喜多

おっしゃる通りだと思います。看護師は自立を願いながらも起業マインドが弱い。このコースでは管理的ノウハウを勉強していただく場とします。世界的にも看護師は医師のスーパーバイズのもと、というのが出来上がり過ぎて、それを突破するのが非常に難しいと思います。また、看護でなく介護という意見もありますが、私は看護師の健康評価機能を重視し、「日本財団在宅看護センター」は勤務者全員が看護師である必要はないのですが、管理者は看護師が担います。全国各地で日本財団マーク入りの車を見ますが、このセンターはそれらをきちんとつなぐハブの役割を果たしてほしいと思っています。日本財団から開業時の支援もいただけることは大変心強く、数年内に津々浦々とはいいませんが、それなりの地域にネットワークが広がってほしいと願っています。

笹川

いくつかの成功例ができれば大きく変わっていくと思いますが、このようなチャレンジングな仕事は、最初は抵抗が強いかもしれません。しかし世の中の変化を呼び起こすのは常に少数意見です。昔、日野原重明先生と共に予防医学を充実させなければならないと「ライフ・プランニング・センター」を立ち上げた頃は、血圧計すら看護師に持たせなかった時代でしたが、今や隔世の感があります。ホスピスナースを見ても、看護師は非常に志の高い方が多く、病人あるいはケアの受け手にとって精神的にウエイトが高いハートの部分は看護師が背負っておられます。日本の看護師は質・量ともに世界有数ですので、在宅でやってみようという優秀な人たちが相当いらっしゃるのではないかと期待しています。

喜多

医者はどうしても技術を使う方に気持ちが傾くのに対して、看護師は踏みとどまることができます。自立して評価に耐えるような、成功モデルを作らなければなりません。日本財団の協力の下に笹川記念保健協力財団の全力を注いでやってまいります。

笹川

是非、よろしくお願いします。ワンパッケージで充実した支援ができるような強力な支援体制ができると思います。

喜多

その体制を活かし、社会を変えていきたいと強く思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(2014年1月対談)