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Monkeypox サル痘 と云う病気で思うこと

最近、アフリカ中央部のナイジェリアでmonkey(モンキー:サル)のpox(ポックス:痘=天然痘、水痘ミズボウソウなどのプツプツをいう)が広がっていると報じられています(Monkeypox: Suspected cases in Nigeria spread to 11 states – Minister Times)。

モンキーポックスという「病気」を初めて耳にし、実際に見たのは、1998年、WHO本部の緊急人道援助部勤務時です。毎週とは云わないまでも、月に2、3度はアフリカに出張していた頃のコンゴ民主共和国でした。この国は、1997年に就任したローラン・カピラ大統領によって新たな国名を名乗ってはいたのですが、それまでの30年以上、権力を掌握していたモブツ前大統領(本名モブツ・セセ・セコ・クク・ンベンドゥ・ワ・ザ・バンガ 覚えるのに苦労しました)による国名ザイールが行き渡っていた上、アフリカ随一の大河コンゴ川西側にはコンゴ共和国が存在することもあって、しばしば混乱をきたしていました。「前のザイール」とか、首都名をつけて「キンシャサコンゴ」とか、新国名の頭文字をとって「DRコンゴ(ディ・アール・コンゴ Democratic Republic of the Congo)」とか、公的な書類でもさまざまな名前がありました。

写真は、当時のWHOのDRコンゴ事務所長Dr.ムディから頂いたものですが、そもそも、poxとはpockプツプツの複数形ですから、・・・poxという病気では、プツプツは複数あるはずですね。最も有名なpox病はsmallpox天然痘です。Small小さいがあるのなら、large大きいpoxもありそうですが、それはないようです。いずれにせよ、天然痘は地球上で人類が制圧した唯一の感染症です。ついでに少し解説しますと、1955年のWHO総会が「世界天然痘根絶決議」を合意、地球上の全人類に種痘を行う方針でした。が、今から60年も昔、まだ、日本も、第二次世界大戦後の復興途上時代です。世界の多くの途上国では、保健医療設備も交通網も発達しておらず、予防接種の考えも行き渡っていない時代に、あまりにも野望的な計画であり、非現実的でした。後に、患者を見つけ、その周囲の患者接触から感染の危険があると思われる人々だけに徹底的に種痘する、「封じ込め作戦」とよばれた方法に切り替えられました。当時1,000万とも1,500万人とも云われた患者は、10年、20年の間に激減し、地球上の最後の患者とみなされるソマリア(エチオピアとも云われますが、地続きのお国柄で血続きの人々も多い)の青年を最後に、3年間、新たな発症がなかったことから、1980年に、WHOから天然痘という病気は地球上から撲滅されたと発表されました(注)。

さて、私の経験したサル痘は、一見も二見も天然痘のように見えました。と申しても、私は天然痘のプツプツの実物はみたことがありません。教科書で見たのと同じ!!と思ったのです。
Dr.ムディも、エボラで有名なDRコンゴの国立生物医学研究所所長のDr.ムエンベも、二つの「疾患」は、「見かけは似ているが原因のウイルスは異なるから、違う病気だ」と断言されていました。ちなみに、天然痘は、感受性を持っている人が感染すると致死率(ある病気に罹っている人の中で、その病気によって亡くなる人の割合。死亡率は、人口に対する死亡者の割合)は50%以上なので、感染者の半分は亡くなるとされていますが、サル痘は、2、3%程度、つまり100人の感染者で一人か二人が死亡する危険があると聞きました。最近のサル痘流行に関して、実際に死者は出ていませんが、より高い致死率を唱えている人もいます。

それらアフリカからの報告では、ナイジェリアの11州で74人の感染者が見つかった、つまり同時に違う地域で数名以上が感染していること、セネガルの首都ダカールに設置されたWHOの研究センターでの検査では、その中のたった3例しか、サル痘と診断されていないなど、見かけは今までどおりのサル痘で、根本的治療法はないものの、きちんと治療を受けた人々は誰も命を失ってはいない。けれども都市開発のために、より多くの人々が熱帯雨林近くに居住するようになった現在、自然界あるいはサルから人へのウイルス感染の際に、何か異変が起こってはいないかとの議論もあるようです。

一方の大陸アメリカでは、10日間以上も続いているカリフォルニアの山火事では、40人以上の命が失われ、約8万人が避難しています。そして、ワインで有名なナパ・バレ一帯を含め88,000ヘクタール(東京ドーム18,000個分以上)が焼失していますが、大半は森林地ですから、野生動物や色々な微生物の移動が起こっているはずです。

生き物の仲間であるウイルスも、生き延び、変異し、他の生物に悪さを仕掛けます。色々な生活環境の変化が、人間を変え、ウイルスを変性させ、新しい病気を作る・・・それが自然界であるのだと、改めて認識しておかねばならないように思いました。

(注)天然痘ウイルス:天然痘という病気は撲滅されたが、その原因ウイルスはまだ存在する。この病気はヒトーヒト以外に感染しないので、人での病気がなくなればウイルスも消滅するはず。が、撲滅宣言後の1984年、WHOでの合意に基づき、米ソ(現ロシア)2ヵ国の最高管理レベルの研究施設(アメリカ疾病予防管理センター:CDCロシア国立ウイルス学・生物工学研究センター:VECTOR)だけが天然痘ウイルスを保存している。実は、2施設のウイルスも破壊することと一旦合意されたが、諸般の事情!!で実施されていない中、2001年同時多発テロ後、テロでの生物化学兵器使用の危惧から、アメリカが廃棄反対を強調し、保存継続されている。
わが国も一定量の天然痘ワクチンが製造保存され必要に応じ使用できる体制にあるとされています。

サル痘