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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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二人のシリア少年

「救急車の中の少年(The Boy in the Ambulance)」というタイトルで、ここしばらく話題になっているシリア アレッポの5歳(本当は3歳とか)のオマラン・ダキュネーシュ君を取り上げた記事が英字週刊誌Timeに出たのは8月17日、インターネットでみたそれには動画が付いていました。

爆破された家から、助け出され、救急車の椅子に座らされた埃まみれの少年、タイトルにあるように、ショックで口もきけない(silent and in shock)オムラン君というより、オムランちゃんと呼びたいほどの少年は、サブタイトルのように、空爆されたアレッポの顔(a child rescued after a reported airstrike become the face of Aleppoなどになりたくもなかったでしょう。

救急車の椅子に座ってやおら、何か気持ちの悪さを感じたのか、顔の左をぬぐいます。掌<テノヒラ>を一瞬眺めた後、シートにこすり付けました。恐らく、何だったか良く判らない…けど、気持ちの悪さだけは感じたのでしょう。まるで、いたずらっ子が汚した手を、こっそり、ソファやカーテンで拭うようでした。その、とても子どもらしいしぐさの原因が、寛いでいた一家を襲った爆破であり、手を汚したのが自らの血でなければ、見過ごしたに違いない、ありふれた動作でした。

約1年前の2015年9月3日、同じシリアからの避難民(移民希望者とされていました)を乗せた船が転覆遭難し、トルコ南部のリゾート地近く、ボドルムの海岸に遺体となって打ち上げられたシリア系クルド人アイラン・クルディ少年と同じように、世界中、就中<ナカンヅク>、シリア辺りからの移民、避難民受入れに難渋していたヨーロッパ各国に、再び、衝撃を与えているようです。

国際保健という分野に身を置いてから、もう30年になります。多数の紛争地での仕事にも関与する機会を持ちました。・・・・で、世界はどうなったの?と聞かれると答えに困ります。いえ、困るのではなく、どう控えめに見ても、世界全体が良くなったと云えない・・・と云わざるを得ないことに愕然としているのです。もちろん、個人的な関与、私一人がどう頑張っても何ほどものこともできなかったことではありません。30年だけでなく、それ以前からの国際的な支援を思うと、何故、去年も今年も、昨日も今日も、多分、来年も明日も、こんなことが続いているのか・・・です。

臨床医学的に申せば、私が関与した紛争地の仕事は、あくまで、緊急人道援助、いわば救急外来的な短期的救命的活動でした。自然災害の救援も同じですが、ほとんどの災害のメインの出来事、つまり地震では、これまで本震と云われてきた一番強い揺れ、台風の通過、津波などは、一時的に大きなエネルギーが荒れ狂いますが、通常は一方向的に収まって参ります。それに対し、紛争では、生命をあやめ健康を損なう武力行使が、何度も何度も繰り返されます。つまり、事態は決して一方向に動かないのです。ですから、一生懸命、緊急人命救助をやっている一方で、その原因である戦いは繰り返されている。

国もどきを標榜しているイスラム国もしかり、またまた状況悪化の南スーダン、一部ながら不穏なウガンダ、ルワンダや、過去何年どころか何十年も、国土のどこかに紛争状態が存在してきたシリアやアフガニスタン、イラクなどは、そもそも、大量に継続的に武器製造能力がある国ではありません。では、武器はどこから❓

ある程度の技術を持った工業先進国の武器産業は発達し続けています。が、武器が宙を飛んでどこかの国に出かけることはありません。何らかの意図を持つ国か組織あるいは集団か個人が、何処かの誰かに武器を与え続けている・・・そして傷ついた人々を、緊急人道援助している。こんなことを繰り返してきたのです。同じようなことを繰り返し、らちがあかないことを鼬(イタチ)ごっこと申しますが、鼬が聞いたら気を悪くするでしょう。

Humanitarian人道的・・・という耳に心地良い言葉だけでは、何も解決しないのは、その多くが、医学的に申せば対症的、症状に応じた治療法に過ぎないからだと、その中に身を置いていた時も、今も私は思っています。が、根本的治療は何なのか。例えば、二人の少年の祖国シリアに対しても、ありとあらゆる国際機関が人道的に関与している一方、政府を含め、十に近いほどの派閥的武闘派を支援する国や他の国の組織、集団があります。そんな状況下に、平和平和と叫ぶだけも、また、ある種、政治的な対症的プロパガンダ(宣伝)にすぎないと思えます。

紀元前18世紀の昔にはヒッタイト文化が栄え、その後アッシリア、ペルシャ帝国でもあったシリアの二人の少年・・・・世界は、いえ私は何をしてきたのか、どうすれば良いのか。本当に人類は進歩しているのでしょうか?

16-08-25 二人のシリア少年  16-08-25 二人のシリア少年_2