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民主主義

過日の選挙、予測していなかったので体制が整えられず敗北したとの言がありましたが、政治家という仕事は専門職なのでしょうか?専門職なら、どんな事態にも対応すべき・・・では?
わが国では、「憲法」の下、衆議院解散後の総選挙は解散後40日以内に、任期満了による総選挙(今までたった1回しかなかったそうです)は、任期満了日の前30日以内に行うと定められています。そして衆議院議員総選挙は、少なくとも投票日の12日前に公示されます。
もちろん30日とか40日で政治家になれるとか、それで十分とは思いませんが、政治を担当する専門家として、選挙のために必要な準備期間とはどれ位なのでしょうか。もし、2年も4年も必要なら、担うべき責務と準備はどのようにバランスがとられるのでしょうか。など、ちょっと馬鹿げたと申すか、嫌味を申しましたが、「民主主義」という言葉を思いなおすきっかけでした。
1988年という昔、後に政権復帰を目指す選挙中に暗殺されたベナジール・ブット氏がイスラム圏初の女性宰相に選ばれ、パキスタンに「民主主義 democracy」が喧伝された時代、
PPP (Pakistan People’s Party)党首ベナジール人気が最高潮でした。その頃、住んでいた伝統的な街ペシャワールに、ある日、ベナジールが訪れました。大通りは人ひとヒト…しかしその99%は男性、その人ごみが、ベナジールの「デモォゥクラシィ」の発声の度に、どよめきました。
傍の英語を話せるオジサマに訊ねました。「あなたにとってdemocracyとは何?」
「?」 しばし後に、折り目のついたシャルワール・カミーズ姿の男性は申されました。
「ね、ベナジールは、われわれに、沢山パンをもたらしてくれるのだよ!」
当時、初めて紛争地近傍に暮らしたこともあって国際政治というものを少しかじりました。
当時出版された猪口邦子先生の吉野作造賞受賞の「戦争と平和」を手始めに、それまで読んだこともない分野の書籍を手にしました。モチロン!初めはチンプンカンプン。が、アフター5活動がほとんど不可能な生活環境の所為もあって、帰国の度に、買い求めた書籍を、停電しない限り、繰り返し読めた・・それしかすることがなかったこともあって、用語、言葉も、少しずつ、とは申せ、何となくですが、判るような気がしてきたものでした。
そして一番面白く読めたのはトクヴィル。
この方は、フランス革命でほとんどの一族が処刑された、つまり旧体制派の旧家の出身ですが、そんなことがきっかけで革新的考え…リベラルに関心を持ち、後にアメリカに渡りました。そして新しい19世紀に勃興してきたアメリカという国の民主主義を見聞して書いたのが「アメリカの民主主義」だそうです。生まれたばかりの民主主義の様子が描かれている古典的名著だそうですが、私は、そんな価値は判らず、見聞記のように読みました。ただ、正確ではありませんが、民主主義の先には、混乱があると予測していたと覚えています。
当時、毎夜のように砲声銃声が聞こえる環境では、何よりも平和が欲しい、そしてその平和の中で、人々が安全に安心して暮らして行けるための体制には民主主義が必要だと、ちょっと思いつめた時期でもありました。
民主主義の行き着く先が混乱とは意外な気持ちでしたが、現在の民主制の先進国、就中、ご本尊のアメリカ、そして投票率が52%というわが国の様子、さらに彼我に広がる格差や地方の衰退を思うと、トクヴィルの予想、予言は現実化しているのでしょうか。ただ、トクヴィルは、知識やモラルの重要性も唱えていたように思うのですが、折を見て、読み返さねばなりません。
「戦争と平和」 猪口 邦子著 東大出版 現代政治学叢書17 1989
アメリカの民主政治上・下 講談社学術文庫1987