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北京秋天

11月10、11日と北京で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催されます。
かつて勤務した中日友好病院開院30周年にお招き頂き、10月下旬にその北京に参りました。
約30年近く昔ですが、10月から11月の彼の地の空は吸い込まれるような青一色でした。古く11世紀に造られ、中国で一番大きな宮廷公園という北海公園の、チベット風仏塔のある小高い丘に上りますと、南東に位置する故宮の瑠璃瓦(釉薬を施した色つきの瓦)が、澄み切った秋空の下、それは、それはきれいに輝いて、紺碧の空に映えていました。「北京秋天」とは、梅原隆三郎画伯の1942年の作品の題名ですが、その言葉どおりでした。
開発に伴う工業化が進むと、どの国、どの地方でも環境汚染が始まります。
18世紀の産業革命で、世界初の工業化国となったイギリスでは、石炭使用が増えた世紀末には酸性雨がはじまりました。環境汚染の最初です。近代では、煙突からの排気もあったのですが、1950年代には、多数死者が出るほどの大規模環境汚染がロンドンで発生しました。わが国では、先進工業化を進めた結果、1950代から60年代にかけて、各地で環境問題が生じたことは、まだ、記憶に新しいところです。80年代には東欧諸国での河川汚染が広がり、現在は、中国やインドで環境汚染が深刻化しているのです。
10月19日の北京マラソンでは、マスクやタオルで口や鼻を覆った大勢のランナーの写真が報じられていましたが、体調不良での脱落も多かったとか。私は、その直後に訪問したのですが、確かに、かつての青空の片りんもなく、曇天の所為もあったかと思いますが、大通りの向こう側のビルの上部がかすんでいました。当然、かつて天安門への大通りを埋めていた自転車に代わり、車、車、車・・・
現地では1週間前から、APEC首脳会議にむけて大気汚染対策が始まったそうです。以前からも云われていましたが、北京市内では、車のナンバープレートの偶数奇数で、市内中心部乗り入れが制限されたり、近郊の工場の操業停止や、地域によっては暖房も制限されたりしていますし、老朽化した自動車の強制廃車も行われたとか。
「政府の面子で生活を犠牲にする」との不満の声もあるそうですが、考えようによっては、制限すれば空気がきれいになる・・・のなら、制限は有効で、必要ではないでしょうか。通常、人は外国に行く場合、国境を超えるには、パスポートを提示しますが、空気中の汚染物質は黙って、遠慮なく、押し寄せます。しかし、私たちの健康を脅かす物質は、当然、その原産地の人々の健康をも侵しているはずです。
長らく膠着状態にある隣国との関係は、どちらの国の住民の健康にとっても、良いものではありません。政府の強硬な手段のお蔭で、束の間でも、北京秋天が回復しているとの報道、それが永からんこととともに、一衣帯水の関係回復を切望します。