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国境-映画 「サウンドオブミュージック」

ハンセン病関連の会議に参加するデリーへの機上、懐かしい映画「サウンドオブミュージック」をみました。字幕なし英語版、聴きのがしセリフも多かったのですが、何度か見た映画なので、知った物語、気楽に楽しみました、と申し上げたいところですが、色々考えさせられました。
実話に基づくとは申せ、ほとんど創作にちかい物語ですが、あらすじは・・・
第二次世界大戦せまる頃のオーストリア、第一次大戦の軍功著しく、愛国者トラップ大佐に手を伸ばすナチスドイツ。緊迫する国家情勢下に、7人の子持ちヤモメどのの大佐の再婚相手となるのが家庭教師に雇われた修道尼見習いのマリア。謹厳実直、愛情表現無粋な退役軍人の父、その父の関心をもとめる子どもたち、両者の交流をうながす音楽は、迸るように様々な「ミュージック」を扱うマリアさん天性でしょうか。一方、一家を取り仕切る執事はナチスのスパイ、間もなく17歳になる長女と想いを交わす青年はナチス信奉者。美しい自然、近代オーストリアは、中世ヨーロッパを統括したハプスブルグ家の流れもありましょうが、ちょっと豪華すぎる、古き良き中世の近代化版貴族生活(余談ですが、背筋を伸ばして、きちんと食事する美しさもありますが)。そして、主義を曲げてナチスに与することを拒否した大佐一家は、国境を越えて避難する。
意識を現実に戻すまでもなく、現代は、国境があって無いがごとく押し寄せる事態が多くあります。デリーでもPM2.5が話題になりましたが、環境破壊は国境を越えて広がっています。アフリカ西部のエボラ熱も国境超え、いくつかの国の空港でも検査が行われたとか。また、かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群の変形MERS(中東呼吸器症候群)が、マレーシアやフィリッピンまで広がったとか。デリーは42度、これから向かうミヤンマーは47度、南極ではマンハッタン島の何倍かの最大氷塊が遊泳しはじめた・・・世界規模の地球温暖化による異常気象には国境はありません。
映画を見ながら、最近のわが国と近隣国との、ちょっとギクシャクした(政治的)関係と、物理的国境というものが、無意識の中によみがえっていました。「国」を表す英語ですが、私は地理的範囲を示すのがcountry、民族的親和性を示すのがnation、そして政治信条的同一性を示すのはstateだと理解しています。日本は、周囲が海、ほとんどが日本人、いわゆる少数民族が存在しない訳ではありませんが、(この点、ご異論もあろうかとは思いますが、)明治維新後の西南の役と戊辰戦争のほか、あまり気に留めるべき国内武力紛争を持たずに経過した希有な国だと思います。そして、現在は民主主義に価値をおく「地理的民族的自由主義国家」として、海外渡航時のパスポート以外、国境を意識せずに暮らせてこられた有難さにもあまり気付いてこなかったように思います。
陸続きで、周辺に武力に重きを置く国々がひしめき、あるいは多様な疾患が蔓延していたら、日々の暮らしはどうだろうか・・・また、ある信条や立場を「無理やり」押しつけられることがあれば、自分はどうするだろうか・・・トラップ大佐一家が、晴れやかなアルプス地方らしい山岳を越えて行くシーンで映画は終わりますが、私の国境への意識は、機がデリーにつくまで、消えませんでした。