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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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2冊の『パンデミック』ー最近読んだ本 1.

新型コロナウイルスの勢いが止まりません。

新型コロナウイルスは、正式にはSARS-Corona virus 2(SARS-Cov-2)と呼ばれます。前についているSARSは、2002年11月、中国南部広東省で始まった非定型性肺炎(通常の肺炎とは少し様相が違う激烈な肺炎)がSevere<重症の>Acute<急性の>Respiratory<呼吸器の>Syndrome<症候群>と命名されましたが、その頭文字をとってSARS(サーズ)と呼ばれています。SARSの原因は、本体の周りに小さな突起物をもったウイルスで、電子顕微鏡下に太陽のコロナのように見えることからコロナウイルスと命名されました。

今、世界中に広がり、まもなく1億人もがおかされ、まさにパンデミック(世界的流行)状態にある感染症の原因は、そのSARSの原因となるコロナウイルスの仲間、2番目なのでSARS-Cov-2と命名されました。そしてこの新しいウイルスが起こす病気の名前はCOVID-19(2019年に発生したSARS-Cov-2と呼ぶコロナイルスによって起こされる病気Corona Virus Disease 2019でCOIVD-19<コービッド19>と呼ばれています。

マスク、手洗い、密接密集密閉を避け、そして“Stay Home. 家に居ましょう!” です。

年末年始の休み期間も、例年のような郷里への往復はなく、幹線道路の大渋滞もなかったのに、年が改まって以来、毎日、過去最大はさておいても、何曜日最大との形容詞付き検査陽性者数や重症者数が報じられています。

確かに、感染者=検査陽性者が増えていることは世界的にも事実です。

が、東京都の報告をみてみますと、10月頃には17,000程度の検査数が、年が明けてからは50,000件、約3倍に増えているようです。つまり、検査総数が増えれば、一定比率で存在するだろう感染者=検査陽性者の数も増えるのは当たり前、今までより、より見つけ出されやすくなっていると考えると、過去最大・・・にドキドキすべきではないとも申せます。が、決して、その数に意味がないのではなく、目には見えないまま、ヒタヒタと迫っているウイルスのあくどさに、より真剣に対処することは重要です。個人的また組織的に出来る対策をいっそう強化というより、きちんとまもることですが、パニック化するのは如何かと思います。もちろん、どこかでパニックが起こっているとは申していませんが・・・

年末年始の乱読から、2、3回分の読後感想です。まず、『パンデミック』と題された二冊の本です。

1冊目は、Facebookのザッカーバーグが紹介し、ビル・ゲイツが絶賛した『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』や『サピエンス全史』で高名なイスラエルの歴史学者・・・私は哲学者と思っていますが、ユヴァル・ノア・ハラリの『パンデミック』です。緊急提言と書かれていますが、中身は、昨年3月のタイム誌とフィナンシャル・タイムズ紙、4月のザ・ガーディアン紙への投稿に加え、同4月NHKETVでの緊急インタビュー「パンデミックが変える世界」と、この本のための短い序文です。

ユヴァル・ノア・ハラリは、今までにも何度かのパンデミックをしのいできた人類は、このパンデミックをも必ず生き延びる、そしてその為に必要なことは世界的な連帯と信頼関係だとしています。国家間の、そして科学への信頼を強調する一方、「この数年間、無責任な政治家たちが科学や公的機関や国際協力への信頼を損ねてきた」と指摘しています。残念ながら、同感です。が、この本の内容は、すべてネット上に出ていることもあって、序言にある「私たちが直面している最大の危機はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ・・・」を結論的メッセージと受け止めると、この優れて秀でた歴史学者の新書籍としては、ちょいと感動が小さいと感じました、偉そうに、ですが。でも、おっしゃるだけあって、ユヴァル・ノア・ハラリは、トランプ大統領のアメリカがWHO支援を止めると宣告した後、100万ドルを同組織に寄付し、また、本書の売り上げも、出版元が慈善団体に寄付できるように印税を放棄すると記載されています。

も一冊は、難解な哲学者スラヴォイ・ジジェクの同名の書『パンデミック』です。
ジジェクって??ですね。ちょっとユニークな哲学者だそうですが、名前だけは頭にありました。実は・・・という話ですが、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院同窓生に、旧ユーゴスラビアが分裂して生まれたスロベニアの国会議員になった女性医師Dr.マテヤがいました。ユーゴスラビア・・・バルカン半島の歴史は本当にややこしい。ヨーロッパからは東方アジアへの、また、地中海をはさんでアフリカへの入り口でもあり、キリスト教社会とイスラム文化圏の接点でもあり、さらに西欧文化揺籃のギリシャ、ローマの隣、当然、人種のるつぼでもあります。WHO緊急人道援助部勤務中に担当したコソボ問題では、入り組んだ歴史にお手上げ、Dr.マテヤに色々教えてもらいましたが、そのマテヤ先生が、是非、読みなさいとくれたのがジジェク!

英語の哲学書!ユーゴ問題よりももっとお手上げ。そんな二重三重にトラウマ的記憶があり、逡巡しましたが、スラヴォイ・ジジェク「最も危険な哲学者」による緊急提言!と帯にある『パンデミック』は、ユヴァル本と同じく130頁ほどの薄さだったので、恐る恐る、ついで買いしました。

スロベニアは、今でも人口200万の小国です。常に緊張を強いられる立ち位置のようですが、それなりに存在感があるのは、このような哲学者の所為もあるのでしょうか。と申すのは、ジジェクは、難しくてとっつけないとされるラカン派哲学(これも良く判らないですが・・・)を現代風に適応した方だそうで、日本にもファンが多いとか・・・生憎、私の仲間にそんな人はいませんが・・・・

ジジェクも国際的連帯が必要とされていると理解はしましたが、それはユヴァル・ノア・ハラリ風にがんばろう!!ではなく、この方が説くコロナ後は相当にやっかいな世界だとしており、うまくいくか心配ですが、いくつか保健医療にかかわる指摘を拾ってみます。

「新型コロナウイルスのパンデミックによって、二つの対照的な存在が現れている、一方は医療や介護に携わる過重労働で疲労の限界にある人々と、もう一方は、強制的あるいは自主的にstay homeして何もすることのない人々だ」それが、コロナ後にどうなるのか・・・

「保健医療という労働が過酷なのは、共感を持って働くことが期待され、仕事の「対象」を思いやるように見せることを期待されているからだ」これは今も昔も将来も変わらない・・・

「我々は三つの危機に巻き込まれている。医療の危機<感染拡大そのもの>と経済の危機<感染拡大の結果が何であれ、ダメージは大きい>、そして心理的な危機である。」だから・・・

「感染拡大はこれからも繰り返し、干ばつからイナゴまで、さまざまな環境上の脅威と合わさって襲ってくるだろう。だから、厳しい決断を今下さなければばらない。」・・・

ジジェクは、過激に「共産主義か野蛮か。それだけだ!」と唱えますが、この方のおっしゃる共産主義とは、思想的なものより具体的指摘です。例えば、マスクや検査キット、人工呼吸器など緊急的に要するものを国家間で調整製造配布し、隔離所も政府がアレンジし、パンデミックによって生じた失業者や生活困窮者支援に国家が積極的に働きかけるべき・・・つまりそれらを市場自由主義に任してもうまく行かないと指摘しているように読めました。納得できるのは、「今日の文明の象徴のひとつが、世界各地で様々な戦争を続けることは、完全に狂った意味のないことだという認識の拡大である。」「同時に、ウイルスとの闘争に制限措置が必要だとしても、「戦争」という単語を使うことは問題がある・・・ウイルスは我々を滅ぼす計画や戦略を持った敵ではなく、単に馬鹿みたいに自己複製するメカニズムでしかないのだから。」また、ジジェクは、「制度化された保健医療制度は、高齢者や弱者のケアを地域のコミュニティーに依存せざるを得なくなる」とし、リソースを探し共有するには、「何らかの有効な国際協力を組織しなければならない」・・・これが共産主義だとしています。

哲学者のお考えですが、結局のところ、個々の人間が生きていくことを尊重せずして政治も経済も糞もないのだというのは、昨今の世界の政治・・・政治家?の揺らぎを観て、その影響を少なからず受けているものとしては十分納得です。

他の本は、次号で。