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『シエラレオネの真実』 遠い国の話のようですが・・・

長らくUNICEF東京事務所広報官として活躍され、また、私の国際保健稼業時代のブレイン兼ご意見番的知人の澤良世氏が、『シエラレオネの真実 父の物語、私の物語』を亜紀書房から出版されました。

シエラレオネ、国際分野の人間なら、最悪の保健状態と最短平均寿命の国、紛争関連に関わったものなら、長い内戦と子どもたちの四肢切断という醜悪な報復で、または数年前のエボラウイルス病が猖獗を極めた西アフリカ3か国のひとつとして、あるいはレオナルド・デカプリオ主演映画「ブラッドダイアモンド」の国としてご存知の方がおいでかもしれません。

15世紀半ば、この地に寄港したポルトガル人に、ライオンが吠えているような声?音?が聞こえたため、ポルトガル語で「ライオンの山」と呼んだのが国名の由来です。その後、奴隷制廃止を進めたイギリスが、元奴隷の居住地とし、1808年にイギリスの植民地となりました。以来、イギリスとの縁は深く、著者の父、後に財務大臣になるモハメド・フォルナが留学するのも英国スコットランドのアバディーン大学、そこで著者の母親と結婚します。

第二次世界大戦後の混乱が一段落した1960年代、アフリカは希望の大陸ともよばれ、多数の国が独立しました。シエラレオネは1961年です。しかし、現地人の養成に意を用いなかった宗主国が去った後、西欧型の社会制度は機能せず、国を担うべき人材は育っておらず、しばしば「同じ肌の色の・・」と形容される現地の新興為政者が権力をふるいます。豊富な自然資源が見つかった国々では、外部資本に取り込まれ、不正取引が当たり前、そして汚職、資源からの利益は権力維持と武器輸入に回り、武力行使・・・内戦時代が始まりました。

私は、本の後半を主に「父の物語」と読みましたが、改革派の父が権力者に抹殺される経過を追跡している中、付和雷同する知人や大衆の弱さ、無責任さが際立ちます。一方、「私の物語」的に読めた前半には、留学先の白人女性との結婚、3人の子ども、希望に満ちた帰国、開業、途上国エリートの華々しい成功譚の中で育った混血の少女の話でもあります。その間をつなぐのは、アフリカの黒人の父と、先進国白人の母のDNAを受けた著者でありますが、その芯の通った生き方は父が再婚したアフリカ女性に共通すると思いました。一面、特異な環境下の家族の物語でもありますが、ある国の内部崩壊に巻き込まれた家族がそのエビデンスを明らかにしてゆくドキュメンタリーでもあります。

1964年生れの著者アミナッタ・フォルナは、現在、英国拠点の作家、ジャーナリストですが、やはりシエラレオネのエリート家族の一員、そして今は生母の国イギリス国籍ではないかと思います。

残念なことですが、今でも、途上国には、形は西欧式だが、中身はこてこての現地の伝統が生きています。後半の父の裁判に絡んだ人々の追跡は、国家反逆罪として絞首刑にするための証言をした人々へのインタビューでもありますが、ハンナ・アーレントが『イスラエルのアイヒマン』で述べている「陳腐な悪」でもあります。つまり、どこにでもいる朴訥なシエラレオネの人々が、流れを作ったように、このような事態は、いつでも、どこでも起こりうる、誰でもやりかねないことを示しています。

「父の物語、私の物語」と副題がついているこの約450頁、厚さ約3㎝の大冊は、大いに興味深い一方、なじみない地名、人名、政治グループ名などなど、読み切るのは相当シンドイでした。が、それを超えて読める面白さを私は感じ、週末1日半をかけて、一気読みました。ここしばらく読んできたイギリスの歴史と明治維新との対比もしながら・・・イギリスと日本は、シエラレオネと本質的に何が違うのでしょうか。どの国も国造りの歴史には、武力あるいは権力にしがみついて横暴を極める為政者や権威と戦う改革者が生まれます。そして、いったん権力掌握すると・・・・歴史は、また、繰り返される。

さて、私たちは、幸か不幸か、国造りに関与する機会はほぼありませんが、新しい組織を作ることは日常茶飯事ではないでしょうか。西欧のまねをした形だけのシエラレオネの裁判が機能しなかったように、新たに導入する仕組みをきちんと稼働させるには、制度、用語、言葉の意味を、全員がとは申しませんが、多数者が理解できていない、理解しようともしないでは、うまくは行きません。

自分の国、いえ組織は皆で作り、皆でまもるもの。

その他大勢の無責任モブ(大衆)になって、誰か良いことをしてくれるのを待っていても、あるいは露骨に勝ち組に乗って甘い汁を吸うだけ…では、何も変わらない、とそんな卑近な感想も抱きました。

澤さんと懇意な黒柳徹子氏の推薦の言葉、最後に、しっかり読みました。

シェラレオネの真実
アミナッタ・フォルナ/澤 良世=訳