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在宅看護–オーダーメイドのケア

在宅看護を実践されている同輩には、同様のご経験が沢山おありと思いますが、私どもの仲間のホヤホヤ起業家看護師からの便りです。

先般、「日本財団在宅看護センター」の看板を上げたばかりの仲間のところに、ご自宅での「看取り」前提の依頼がありました。在宅医となられた医師ともども、初めて・・・。さぞや緊張の日々だったと思います。しかも、ドクターは、容態からみて、ご自宅での看取りは無理ではないかとのご判断から、緩和病棟を勧められたそうです。が、ご本人もご家族も、「家で逝きたい!」「家で看取りたい!」との強い意志を示されたことで、在宅医と在宅看護師たちは、覚悟を決めざるを得ません。じっくり話し合って、在宅看取り支援体制が出来上がりました。毎日の訪問を要する状態、恐らく、一日に複数回訪問もあったと思います。

決して、ご自宅での長い療養の日々が想定される状況ではなかったのですが、ご家族のお疲れやお気持ちの揺れも想定して、緩和病棟とも連携をとり、(つまり必要に応じて入院出来る)バックベッドを確保しての支援が続きました。

が、ご本人の意思は固かったのです。医学的に妥当であっても余分と思われることは、ご本人の意思で受け入れられなかった・・・「何も(積極的医療を)しないために、家に帰ってきたんだ!!」と明確に意思を表示された上で、余計な・・・ことは断固、拒否されたそうです。そしてご本人のお気持ちをご家族も十分理解納得されていた・・・例えば、点滴はお断り!!ですが、代わりに「私たちが、ちょこちょこ、口から、水分を取らせます!!」とご家族。在宅看護師は、それらのご意向を尊重し、「召し上がれるだけ(をお口から)」「飲めるだけ(をお口から)!」の支援で、穏やかな日々が流れました。

先週のある日のことでした。
「お髭をそりましょう!!」と、お顔に蒸しタオルをあてました。

「気持ちいいなぁー!シャワーも、何時から浴びてないだろう!!」
思わず、云ってしまったのでしょう。「今から浴びますか?」
「ウーム・・・寝る前に浴びたいなぁ」

その日は容体が落ち着いていて、脈や呼吸数、血圧も、お気持ちも安定していました。
『寝る前シャワー大作戦』が決まりました。

私どもの仲間では、ポータブルトイレ、シャワー用の椅子などをはじめ、滅多に使わないけど、時に必要な細々したものを準備している、お亡くなりになった、あるいは全快されて無用になったとご寄贈頂いたものを保存しているところもあります。自宅での療養に必要な色々な道具や機材の大概はレンタル可能ですが、申し込んでから時間がかかることもあります。

その夕方、手持ちの道具を持ち込んでの『寝る前シャワー大作戦』が、無事平穏に実践されました。涙を浮べて、「ありがとう」の言葉。当然、疲れはあったでしょう。けど、ご本人のすっきりした嬉そうなお顔。そして痩せた細い腕をいっぱいに伸ばして握手を求めて下さったとか。在宅看護師冥利に尽きたことでしょう。
私どもの仲間も、ウルウルしたことでしょうが、同時に、ヤッタ!!と快哉を叫びたい気持ちもあったかと思います。事務所に凱旋し、「余計なこと、勝手に暴走すんな!」とのお叱りを覚悟で在宅医に報告したところ、「嬉しいね!ありがとう!」と。チョット舞い上がったかな?

それから1週間、この方は、蒸しタオルでお髭をそった数時間後に、優しい笑顔を浮かべて旅立たれたそうです。本当に「最後のシャワー」・・・在宅医は、いわば共に戦う戦友、穏やかな看取りの後、共にウルウルしながら、ありがとうの握手を交わしたそうです。

療養者が発するちょっとした言葉、訴えの表情、しぐさを聞き取り見分けても、多数病者がいて、時間刻みで行わなければならない仕事が続く病院、医療施設では、ある個人の願いをまっとうしてあげることはとてもとても困難です。多くの看護師や医師が、やってあげたいと思いつつ、押し寄せる仕事、待っている多数者を思えば、手が出せない・・・そのような仕組みになっています。

在宅看護の場だからといって、何でもかんでも可能ではありません。が、とても重篤な状態でも、ある瞬間、ご本人の意思をまっとうできる、何か出来る・・・そのシグナルを見逃さなければ、為せることがあります。エェッ!こんなことがと思うことでも、ご希望が叶えられれば、つかの間であっても満足感が得られます。生活の質(Quality of Life)があがる、つまり、生きている証<アカシ>を感じて頂けることは可能です。

大昔の自分の小児科医としての病院勤務を想い返しますと、施設内医療は、色々な規制や約束事に縛られている「レディーメイド医療」とも申せます。ただ、だからこそできることはいっぱいあります。昨今では、患者中心ではありますが、すべての個々人用には出来ませせん。
一方、個々人が、住み慣れたわが家で家族や親しい人の傍で、時には、大いにわがままを発揮する、そして医療者側がそれに対応する、出来ることだけではありますが、療養者の意志が最初、医療者はそれに対応する・・・それが在宅。それは、いわば別注「オーダーメイドの医療・看護」だと、最近思うようになりました。

新米の起業在宅看護師ドノ、お疲れ様でした。良い経験でした。