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エコノミスト「2015 QOD(Quality of Death 死の質)指数」

先のブログに、死を迎える場所と死の(過程についての)質について触れました。その時の述べたQOD指数について、The Economist(エコノミスト誌)のIntelligence Unit(情報部門。Intelligenceは諜報でもありますが、ここは大人しく・・・)が、シンガポールのLien 財団と協力して行ったQOD指数報告について、概要を。

この指数は、正確には、2010年に同じくエコノミスト情報部門が初めて提唱し、同じくLien財団と実施しています。

先に申しましたが、この週刊誌の発行元イギリスは、ホスピスというケアのあり方を創出確立され、同時に緩和ケアの元祖ともいうべき方でもあるシシリー・ソンダース先生(1918.06.18-2005.07.14)の祖国でもあります。ソンダース先生は、正式には”Dame” Cicely Mary Saundersと呼ばれる爵位をお持ちで、学術的タイトルもズラズラと OMDBEFRCSFRCPFRCNと並び、どこから眺めても偉い先生ではあります。が、生から死への移行期にあって、実に、実に人間的と申すか科学的ではありましても、あくまでhumanなケアのあり方をひとつの仕組みとして確立された背後には、技術的に発展著しい医学に先立ち、ある意味では徒手空拳でケアに当たるための看護学を修められたことがあろうからかと、私はそのご経歴とご業績をまぶしく眺めます。余談はさておいて・・・・

2010年の最初のQOD指数は40ヵ国で、いわゆる欧米西欧系以外では、台湾14位、シンガポール18位、香港20位、そして日本23位、韓国32位、インド40位ですが、アフリカからは南ア30位とウガンダ39位も調べられています。

2015年版では、イギリスのNo1は変わりませんが、日本は別添グラフのように14位、そして国の数は80ヵ国に増えました。

基本的には、QODを計算しうる基礎情報がある国が網羅されていることになります。それらの情報とは、1) 緩和ケアと(その他全般的)保健医療状況/palliative care and healthcare environment、 2) (保健医療分野)の人材(human resources)、3) 保健医療のための経済負担力(the affordability of care)、4) ケアの質(the quality of care)、5) 地域社会のかかわり程度(the level of community engagement)という5項目についての⑳の質的量的指数から算出されています。

概要には、一般的に、どの国でも高齢化が進み、心疾患やがんといった感染症以外の疾患が増ており、緩和ケアのニーズが高まっているとしていますので、これらのNCD(Non Communicable Diseases 正確には非感染症ですが、ここでは生活習慣病)の増え方、高齢者の比率、次の15年間の高齢者増の割合などから、緩和ケアの需要分析も行ったとしています。そして緩和ケア分野の研究は進んではいるけれども、まだまだなすべきことは沢山あるとして、特に文化的な違いとともに、治癒優先の対応から、死を自然の経過として受容する緩和ケアは、死に至る個人とその家族のquality of lifeに価値を置く考えを大事にすることだと述べた上、以下をまとめています。

  •  イギリスが最良のQODだが、金持国は概ね高順位。イギリスでは、緩和ケアがNHS (National Health System日本の国民皆保険に相当する保険制度) に統合され、またホスピス運動が確立している。一般的には、収入と緩和ケアの利用や質は強く相関する。
  •  高いQODを持つ国には共通事項として以下がある。
    ・ 強固で効果的な国家レベルの緩和ケア政策がある。
    ・ 保健医療ケアに十分な公的資金が提供されている。
    ・ 一般的また専門的にも、保健専門家に広範な緩和ケア訓練が行われている。
    ・ 緩和ケアをうける患者に経済的補助がおこなわれている。
    ・ 多様なオピオイド(モルヒネ系)鎮痛剤が使用可能なこと。
    ・ 一般住民が緩和ケアについてよく知っていること。
  • それほど金持ちでない国でも、標準的緩和ケアが急激に進行している。
    この例として、PHCと緩和ケアを統合したパナマ、ホスピスとそのための訓練を整備しているモンゴル、鎮痛剤使用を進めているウガンダをあげています。
  • 緩和ケアの拡張には、国家レベルの政策が不可欠。
  • 拡大する緩和ケアのニーズに応えるには、医師看護師への訓練が必須。
  • 緩和ケアが行き渡るためには、これを受ける際の補償が必要。
  • 緩和ケアの質は、オピオイド系鎮痛剤が使えることと心理が専門家の支援があることによる。
  • 死というものを意識し、それについて話せるようになるためには地域社会が積極的に関与することが重要。
  • 緩和ケアは、投資も必要だが、保健医療経費削減にも有用。
  • 緩和ケアに対して十分対応できていない国においてもそのニーズは急増する。

です。

ゆっくり読んでみる必要があるものではありませんが、何でも数字にする西欧文化とややどんぶり的にことを把握する東洋文化(と断じてはいけませんが)を思うと、生や死のありかたにもっと東洋の考えが反映されてもよいのではないか、と思います。

QOD指数