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エボラと文化 病気対策と文化–前回の云い訳

過去40年間に十数回の流行を来たしたエボラウイルス病(かつてエボラ出血熱と呼ばれた)は史上最悪の規模の広がりを見せています。過去数日のニュースですが、モロッコでは、2014年7月30日、リベリアから空路で入国した旅行者が2日後にエボラで死亡との発表がありましが、翌日、死因は心臓発作と判明、シエラレオネで就労していたフィリッピン人7名中、帰国後、発症した人がいるらしいことや、ブラジルに入国したアフリカ人が発症しているらしいことなど各国が神経をとがらせている様子が判ります。また、リベリアの首都モンロビアで治療活動中に感染し、アトランタのエモリ―大学病院に転送治中のアメリカ人医師の状態は改善したが、同僚のナースも発症していることというのもありました。こちらも、検査は陰性らしいことがちょっとホッとさせました。ただ、新たに波及したナイジェリアで2名確定診断、その治療に当たっていた医師が死亡しています。そして同国では、NFELTP (Nigeria Field Epidemiology & Lab Training Program:アメリカCDCの疫学訓練のナイジェリア版)研修を受けた専門家の応援を求めるメイルが発出されています。
WHOの2014年8月4日付け情報は、8月1日現在西アフリカ4カ国のエボラウイルス感染者は1,603名、内死者は887名(致死率55%。各地のそれはギニア 74%、リビア 54%、シエラレオネ 42%、新たな流行拡大が危惧されるナイジェリアで25%。)に加え、問題は今流行発生から6ヵ月近くになるのに、7月31日、8月1日だけで163人(ギニア 13、リベリア77、シエラレオネ72、ナイジェリア2)の新感染が出ており、つまり、この感染症の勢いは止まっていないとしています。【注:致死率とはある病気に罹った人の中の死亡者の比率。死亡率は一定人口中で亡くなる人の比率】
そして、未知の、または激烈な感染症流行時の犠牲者には、しばしば、保健医療者が含まれますが、ナイジェリアの死者のひとりは医師、感染者の一人は看護師、元来、保健制度が脆弱で、サービスが不備な国や地域で繰り返される悲劇です。
今回は、流行の初期から、国際的NGOであるMSFが積極的に救援活動を繰り広げていましたが、ここにきてWHOと関係国も重厚な対応策を講じています。しかし、何よりも不足しているのは経験ある専門家と必要な資材です。とは申せ、もともと、みるべき保健医療サービスがないような地域-多くの途上国の非都市部-や、それなりに都市化はしてはいるものの、人々の生活習慣はまだまだ伝統的でもある途上国の街の多くでの感染症対策は、単に保健医療分野だけでは収まらないことが多いのです。
前回8月4日ブログで、気温50度以上のペシャワールで、フラフラ倒れこむ熱射病の人を見た・・・と記載しました。自分のランドクルザーで近くの病院に運ぼうと提案しましたら、運転手と同乗の国連現地スタッフは「とんでもない!!」と私を遮ったのでした。「そんなことをして、もし、アイツが死んだら、アンタの責任になる。死の前の人に手を出したりしたら、家族の面倒を見ろ!!と銃をも持った一族が事務所に押し掛けてくる!!」 絶句しました。
これに類似の経験は、その後、何度か致しました。先進国ではないとは申しませんが、生活を律する文化を知らないと、人々の健康を護れないこと、特に死や誕生という場面での異常事態への介入は、とても難しいのです。現在、エボラが猖獗をきわめている地域の人々も長い歴史、独特の文化が続いています。エボラの場合、血液が感染源であることは確実ですが、遺体を抱きかかえたり、なぞったりする習慣を簡単に捨てられないのです。そして、最近、感染源として疑いを持たれているのは、不法に入手調理した熱帯雨林の野生動物の肉があります。きちんと食肉制度を整備すれば良いのですが、そんな手間とお金をかけられない上、野生動物の肉は簡単に入手できるのです。
WHOは、FAQで、説明をしていますが、アフリカの村の人々がそれを読むことは稀でしょうし、そして、誤った知識、流言蜚語が流布します。曰く、「病院に行っても、恐い病気=エボラと判ったら殺される」、「感染を恐れて、看護師が皆、逃げた」・・・・中には遺体処理を怖がって誰も来ないので、路上に放置しているといった切実なものもありますが、いずれにせよ、パニックが起こってから説明にまわっても、人々はなかなか信じる気にはならないでしょう。
私どもが、何ができるか・・・ですが、現在のような緊急時には、少しでも、このような特殊な感染症に経験のある専門家や必要な資機材を提供することでしょうか。そして、いったん、流行が収まった後の、災害保健でいう静謐期には、基礎的な保健医療、プライマリーヘルスケアの知識、そして手洗いや清潔、バランスの取れた食餌の重要性、そして予防、治療、リハビリテーションといった概念を正しく伝えること、もう少し長期的に申すなら、基礎教育の普及をお手伝いすることでしょうか。
流行拡大の一日も早い終息と、罹患されている方々の軽快を祈ります。