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もう一つの戦争‐スーダンについて思うこと

膠着状態のようだったイランとアメリカの関係がほぐれるのか・・・パキスタンでの両国の交渉に少し期待しましたが、やっぱり・・・物別れでした。その後、アメリカ大統領がホルムズ海峡を逆封鎖すると宣言・・・その一方で、イランとの再協議も示唆されています。今朝早くのニュースでは、「アメリカとイランの戦闘終結を目指す次回の協議は、恐らく週末にかけて・・・」との大統領の言を報じています。何にしても、ドンパチを止めることは大事です。それは攻撃を受けるイラン側にも攻撃するアメリカ側にも、です。そんな中で、数日前、WHO(世界保健機関)が、スーダンの戦争について発表しました。(After three years of conflict, Sudan faces a deeper health crisis 14 April 2026 News release

スーダン!ちょうど3年前の4月、北九州市に本拠をおく認定NPO法人ロシナンテスの理事長 川原尚行ドクターが、かの国の首都ハルツーム滞在中に勃発したスーダンの軍事衝突に遭遇し、東部ポートスーダンまでの陸路を1日半かけて避難し日本に帰国しました。九州時代からの畏友Dr.カワハラの無事を祈って私もヤキモキしました。が、その後、安全を確保しながらですが、Dr.カワハラは同国に渡航しています。かの国の保健医療状況を放置できない・・・支援に奔走しています。

スーダンという国はアフリカ北東部のナイル川流域を中心に広がるアフリカ大陸最大の国でした、国の南半分弱が2011年に南スーダンとして独立するまでは。が、長年の内戦や政情不安が続いています。そもそも2023年のスーダン内戦は、正規のスーダン国軍(SAF. Sudanese Armed Forces)と準軍事組織(RSF. Rapid Support Forces)の権力争いでした。失礼な言い方ですが、中世封建時代のような群雄割拠!ある国に、国の正規軍と対立する武力勢力があることは、まだ、あちこちにあります。日本では、いわゆる武家社会時代の各藩は独自戦力を持っていましたが、徳川家康による統一以降は、明治維新前後の戊辰戦争、西南の役など、短期少数の国内紛争しか発生していませんが、世界各地には、まだ、国内の武力対立が少なからずあります。

認定NPO法人ロシナンテス HP

スーダンでは2023年来、2つの武力勢力の対立が続いています。そしていわゆる「人道の危機(国と国の戦争ではなく、一国内の武力紛争により住民生活が破壊される状態)」は深刻化しています。日本、ロシナンテスそして多数の国際NGOが動いてはいますが、あくまで対症療法の域を超えられていません。慢性疾患の病人に熱が出たら解熱剤、痛みには鎮痛剤、下痢が起こったら下痢止めを処方している・・・つまりある症状にはそれに対する治療を行うことしかできず、根本的な治療にはなっていないのです。そこにイラン危機が起こりました。

スーダン地図(外務省HPより)
2023年来のスーダン紛争(Wikipediaより)

イランに対するイスラエルとアメリカの攻撃は急性発症の劇烈な病気で、スーダンはぶすぶすジトジト、派手ではないけど長年調子が悪い慢性疾患の病人のような気がします。偏見発言ですが前者は派手な危機、後者な地味な危機です。

WHOの発表によりますと、スーダンで過去3年続いている国内紛争は世界最大規模の人道の危機であり、避難民を引き起こし人々の健康に壊滅的な影響を与えている、としています。・・・ため息が出ます。なぜなら、20数年前、私がWHO本部でスーダンを担当していた時にも同じような報告を書いていたからです。つまりスーダンのブスブスした紛争状態と干ばつによる飢餓や避難、それに伴う健康状態の問題は、今に始まったことではなく、簡単に解決はしないからです。感染症、栄養障害、不衛生が解消しないまま、日本では当たり前のような病院受診の手段も、広く確立していないようです。外国支援で小規模な仕組みができても、それが根づく前に次の紛争が・・・なのでしょうか。

WHOによりますと、現在、全人口の2/3にあたる3,400万人は基本的生活支援を、1/3以上に当たる2,100万人が医療支援を必要としており、このままの状態続けば、今年中に400万人以上が深刻な栄養障害に陥るとしています。スーダンには約300の医療施設と数千の基礎的診療所があるそうですが、その1/3以上が機能しておらず、各地でマラリア、デング熱、麻疹(はしか)、ポリオ、E型肝炎、髄膜炎、ジフテリアが発生していると、WHOは報告しています。日本で、そんな事態が起これば・・・想像もできませんね。

スーダン首都 ハルツーム(スーダン大使館HPより)

悲しいことですが、いくつもの国では、かなり確立した医療レベルが紛争再発でアッという間に20数年後戻りします。紛争の道具や手段、ミサイルや戦車、銃、大砲そしてドローンがどんどん発展するのに病院や救急施設、救急車やそれが走るべき道路、そして人々の日常生活をまもる水道や下水道、環境や治水は不備なまま・・・そして紛争が起こると、医師や看護師ら医療従事者は殺されたり避難したり・・・色々な状況に失望して難民として国を離れたり移民となったり・・・WHOの報告では2023年4月14日以降、病院襲撃が217件、そのせいで亡くなった人が2,025人、負傷者が810人だそうです。

WHO事務局長は云います。「医師ら医療従事者が他の人々の命を救うためには安全な職場と必要な医薬品、物資が不可欠で、究極的な最良の薬は平和です。」

実際、紛争地ではWHO、UNICEF、国際赤十字、経験ある世界のNGOたちが日夜活動しています。けど・・・賽の河原の石積み(親より先に亡くなった子供が、三途の川の河原で親供養のために小石を積み上げ、地獄の鬼に崩されながらも地蔵菩薩に救われるまで繰り返すという、仏教の俗信に基づく物語。報われない徒労や無駄のたとえ)なのです。その理由は基本的に、地域社会の安定・・・と平和が保障されていないからだと私は考えています。毎日とは申しませんが、しばしば、何か事が起これば逃げる・・・そんな環境では積み上げねばならない技術や知識を根付かせ広げるのは至難です。それは個々人の責任だけで達成できないし個々人の意識がなければ継続性は担保できません。

わが国が長く平和な状態を維持できてきたのは、押し付けにせよ、憲法や国際的環境(原子力兵器は持てない)があったにしても、個々人が平和を願っているからだと私は確信しています。最近の微妙な国際情勢を鑑み日本の「武力」整備についても思うことがあります。戦争は災害分類中では人為災害、つまり人の意志がかかわる災害です。そして災害によって発生する被災の対策は予防につきます。武力すなわち戦闘力を保持していない国々はリヒテンシュタイン、パナマ、コスタリカ、バチカンなど少数の小国だけです。わが国の自衛隊について何かをここで論じたいのではありません。災害対策は予防に尽きます。少し脱線気味ですが、消防署がたくさんあっても火事が多い方が良いと望む人はいないでしょう。予防のための施設、予防のための体制、予防のための手段・・・そして人々の意識と知識を常備することは必須でしょう。
そしてスーダンにも、1日も早い安定した日々が来ることを願っています。

30年前・・・遊んでくれたスーダンの少年たち(写真を一部加工しています。)