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ハンセン病制圧-健康と人権をまもる闘い -ハンセン病サミットに参加して-

7月24-26日、バンコクでのInternational Leprosy Summit(ハンセン病国際サミットWHO・日本財団共催)に参加し、ハンセン病というひとつの病気を通じた世界史と開発を学び直し、global healthを復習する機会を得て参りました。たった2、3行で記す不謹慎を承知で、ここでは感染も感染後の発病もきわめて稀な「感染症」にもかかわらず、世界中で、途方もない誤解と偏見があったのがハンセン病と申しておきます。
【なおハンセン病については、私ども笹川記念保健財団HPまたは日本財団HP「支援活動について」の中にある「ハンセン病制圧と人権擁護」を、是非、ご高覧下さい。また、この会議で発せられたバンコク宣言はこちらをご覧下さい。】
開催地タイ政府代表、主催者WHO/SEARO(Regional Office for South East Asia, 南東アジア地域事務局)局長Dr. Samlee Plianbangchang、日本財団会長笹川陽平氏のご挨拶後の記者会見も踏まえ、諸外国の多数メディアが取り上げています。それら報道の中で、私にとって印象的なふたつの記事をご紹介します。
まずインド3位の発刊数をもつ英字紙“The Hindu”の“Fight against leprosy not over, warns WHO(ハンセン氏病との戦いは終わっていないとWHOが警告)” です。記事はさておいて、写真が殊に私には印象的でした。インド南部カルナカタ州マイソール市の医科大学の看護学生の“Leprosy Awareness(ハンセン病について知ろう)”デモです。
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インドは、まだ、新たな患者が多く見つかる国であり、写真も今回のサミット用ではないようですが、過去12年間、看護教育に関与した間、国際保健/看護の講義でハンセン病に少し触れ、さらに一度は海外研修でハンセン病コロニー訪問もしましたが、日本の現状を踏まえた行動は取っていません。大いに反省しました。
次は、日本語版もあり、お馴染み深いインドネシアの”Jakarta Post”が開催日に掲載した、共催者WHO SEARO局長による“The last mile in the fight against leprosy(ハンセン病との戦いの最後の道のり)”です。この評論は、近代世界のハンセン病の歴史、現状と課題の総括です。わかり易い英語なので、学生諸氏は、是非、原文を読んで欲しいものです。
ハンセン病の制圧とは、この病気の発生が人口1万人当たり1人以下になることを申します。1985年には122カ国がその目標を達していなかったのに対し、現在はわずか1カ国だけとなり、年間の新たな患者数が1000を超える国も2012年に18カ国 (アンゴラ、バングラデシュ、ブラジル、中国、コンゴ民主共和国、エチオピア、インド、インドネシア、マダガスカル、モザンビ-ク、ミヤンマー、ネパール、ナイジェリア、フィリッピン、南スーダン、スリランカ、スーダン、タンザニア)に減りました。この間、WHOは、例えば1991年総会で2000年までにハンセン病を公衆衛生上の問題から脱却できるようにとの決議もしていますが、現在に到る大なる成果、功績は日本・・日本財団にあります。つまり、今では、どこでも誰でも、ハンセン病関係者には当たり前の早期発見と多剤併用の早期治療の道を開かれたのは、私財を投じて支援を始められた日本財団そして笹川記念保健財団の開祖笹川良一翁なのです。
MDT(Multi-Drug Therapy多剤併用療法)の効果は目覚しいものですが、その無料化は画期的でした。後に薬剤メーカーNovartisに引き継がれましたが、このお陰で1600万人が完全治癒し、1000万人以上が障害を防げたのです。
寄稿記事は、2012年、世界ではまだ232,000人以上もの発症者があり、毎年13,000~15,000人もが身体障害を残しており、これまでの関係者の努力はあるが、「ハンセン病のない世界(leprosy-free world)の達成」には、さらに「資源」と「訓練を受けた保健従事者」の再投入再活用が必要だとしています。サミット冒頭、笹川会長が、日本財団は、今後5年間に2000万ドルの資金を提供すると述べられたことは、まことに時宜にかなったご提案であり、その後、挨拶を交わしたすべての関係者が「勇気づけられる!!」と述べていました。
ハンセン病の今後の問題では、新たな発症者を防ぐこと、早期治療を徹底すること、身体障害発生を防止することに加え、患者やその家族への差別を排除し、障がい者への規制をなくすことが記事の最後です。この面でも、ハンセン病を人権問題として取り上げ、WHOハンセン病制圧特別大使として世界中を行脚されている笹川陽平日本財団会長のご貢献を忘れてはなりません。最後に、より短い期間でよい治療、効果的なサーベイランスのあり方、「ハンセン病を歴史化してしまう究極的な治癒法」の開発など、時間と資金を要するハンセン病研究の重要性を指摘し、それぞれの国で行われる対策に、必ず、ハンセン病者を加えることを強く提言しています。
この寄稿評論と、実際のサミットは、私にとってかけがえのない学習の機会でした。ここで得た諸々を、どのように活用し具現化するか、それが今後の私自身の問題です。