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ワクチン・・・コールドチェーンの思い出

新たなコロナウイルスが出現して1年になります。COVID-19と名付けられたこのウイルスに対するワクチン接種がイギリスとアメリカで始まりました。

新たに出現したウイルスによる感染症の広がりを遮断するため、人々に抵抗力=免疫をつくるワクチンが僅か1年でつくられたのは画期的なことだと申せます。医学、微生物学、免疫学、薬学は申すに及ばず、精密機器の製造や調整、膨大な実験をデザインし、安全に人に登用できる製品にするまでには、基礎から応用科学の広大な範囲にわたる膨大な数の科学者と製造者が関与されているのでしょう。すばらしいことです。

が、ワクチンが完成してよかった、よかった、もう安心とはならない・・・のですね。そのワクチンの保存、運搬問題(日本経済新聞 2020.12.4東京新聞 2020.12.10)です。最初に使えるようになったファイザー社製ワクチンは-70℃、それを追って使用が始まりそうなモデルナ社製は-20℃で保存しなければなりません。ワクチンは生もの・・・接種現場まで、きちんと温度管理しなければ、効果がなくなり、ただの液体を注射することになります。

30年以上前、アフガニスタンから隣国パキスタンに流入した難民の、主に子どもたちへの予防接種拡大計画(EPI イーピーアイ、Expanded Program on Immunization)に従事しました。

小児科医として働いた1960年代後半から70年代の日本の小児科領域では、まだ、予防接種は重要な活動でした。病院など医療施設での実施だけでなく、私自身、大阪近郊の小学校や地域集会所での予防接種にも従事しました。現在のように携帯やメールはありませんでしたが、地域広報や昔懐かしい隣組的連携で予定日が周知されると、一日か二日で、地域の子どもたちのほとんどに予防接種ができましたし、当然、ワクチンはしかるべき温度に保存されていました。

それから約20年後、専従した国際保健で関与した、いわゆる開発途上国とされる地域は熱帯地方が多く、最も暑い時期には45℃を超えるところも稀ではありませんでした。そして安全な飲み水も電気もまともな道もない状態でもありました。

数百人あるいは数万人の子ども、時には女性にも、何時、どんなワクチンを投与するか・・・まず、約1年前に立てた予定に従って、必要量を国としてまとめ、例えばUNICEFやWHO事務所から注文していました。今でもそうですが、当時、ワクチン製造が可能な国は限られており、当然、先進工業化国です。工場から飛行場へ、飛行機で運搬された途上国でも、飛行場から各地へは陸路で運びます。時には、数日以上、倉庫に保存します。そして最後は、ロバや人力で、山を越え、川を渡って、ワクチン接種現場に運びます。必ず、一定温度でなければなりません。当時、使用されたワクチンは、0℃以下に冷凍保存するものと8℃保存する二種類でしたが、電気がない地域にどんな運搬、保存体制をつくるか・・・ワクチンの製造現場から予防接種現場まで、一定温度でワクチン運搬するコールドチェーン(cold chain 冷たい連鎖)体制の確立と安定した維持が最初の、そして必須の仕事でした。現在の日本で申すならば、たいていの方が一度や二度はお世話になられているクロネコさんや佐川急便さんの冷蔵冷凍便です。

31年前のものですが、アフガン難民プロジェクトに、日本支援でつくられた冷蔵冷凍車両、プロパンガスで稼働する冷蔵庫、ウレタンでカバーして温度上昇を防ぐアイスボックスの写真を添付します。

アフガン難民支援では、富士山と同じくらいだと聞いた山岳地帯の集落へのEPIに参加したことがありました。もちろん、まともな道ではなく、アイスボックスを運ぶロバが時に足を滑らせて崖下に・・・ロバは替えがいるが、ワクチンは貴重品と・・・何とも云えませんでした。

また、大慌てしたのは、イスラム文化の中の最大の行事イード(イスラム教で定められた宗教的な祝日、イブラーヒーム(アブラハム)が進んで息子のイスマーイール(イシュマエル)をアッラーフへの犠牲として捧げようとした事を世界的に記念する日)の最中に、予定より早く、難民用の約100万円分のワクチンが届くとの知らせ。冷蔵庫に保存すれば良いのですが、何と冷蔵冷凍庫の管理者が部屋の鍵をもったまま休暇入り・・・連絡はつかないし、気温は40℃を超えてドンドン暑くなる・・・ようようの思いで、難民受入国パキスタンのEPI責任者のドクターに連絡し、保存して頂きました。

また、伝統的生活を続けている地域では、現に病気もしていない子どもに針を刺すことで、何故、病気が防げるのか・・・それを、特に地域の長老にご理解頂くまでが一仕事でした。

わが国での新型コロナのワクチン接種は年を超えるようですが、私どもは、それなりに整備された衛生環境下に暮らし、相当の知識、情報が得られる状況にあります。個人的にも、栄養、衛生に留意し、無用の外出を避け、適切なマスクをきちんと使い、折々の手指消毒と帰宅時の手洗いを徹底し、また、可能なテレワークを続け、体調不良時の無理な出勤は絶対にしない、を守りましょう。

自分だけのためではありません。公衆衛生とは、多数の健康を護るための手段です。家族、周囲のみんな、地域、国、そして世界の人々の健康を護るための学問、手段です。

長い闘いかもしれません。でも、もう数ヵ月も、何とかしのいできました。その間に得た知識があります。この瞬間も、病院で、自宅で療養している人々を護っている保健医療専門家や、必要な物品、やむを得ず移動している人々のために働いていて下さる人々がおられます。

挫けない、諦めないこと! 静かで、落ち着いたお正月になりますように。