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『クララとお日様』―カズオ・イシグロの新作 最近読んだ本

一昨日、高山義浩先生を講師に、ネット公開講座「在宅ケアで求められる新型コロナウイルスの感染対策」を開催いたしました。実践的で論理的な高山解説に、ご参加下さった940名がしびれました。ご講演の骨子と質問は、近日中にHPにアップします。さてさて、ネットなら、職場やご自宅でも簡単に参加頂けることを実感しましたが、これがニュー・ノーマルなら大歓迎です。

さて十数年前、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読みました。臓器移植のためのクローン人間群を扱っていたディストピア(ユートピア=理想郷の反対の世界)小説だと、今は理解していますが、当時はサイエンス・フィクション(科学小説)として、面白そうと手にしたのですが、暗い、というか重い・・・そして私は、ちょっとイライラ感がありました。しかし読みごたえはありました。小説そのものの価値?ではなく、主題が穏やかでない、だから気にいらないのではないのですが、好きな小説、好きな作家とは云えず、きちんと読まなかったというより、読めなかったような記憶です。でも、何となく気になる・・・ので、その後、『日の名残り』や『遠い山並の光』は穏やかに読めました。

2017年ノーベル文学賞受賞時には、日系イギリス人とされましたが、人種と国籍・・・ちょっと意識しました。ご両親もそのご両親も日本人で、長崎県のお生まれですから、今、世界で問題になりがちな人種(race)は日本人種ですが、1983年にイギリス国籍を取られています。

ノーベル賞受賞後の初めての長編として『クララとお日さま』が出ました。大いにミーハー趣味的ですが、『わたしを離さないで』の記憶と共に即購入し、週末一気読みしました。

前述『わたしを離さないで』の主人公たちは、クローン化されたとはいえ、一応、人間でしたが、今回の『クララとお日さま』の主人公クララはAI(人工知能)です。未来の世界、子どもの見守り、仲間にAF=Artificial Friend(人工の友だち、小説では人工親友)が流通している・・・という時代、未来の物語です。

クララは、第三世代のB2型とかB3型のAF(人工親友)が出回っている中、一世代前の第二世代A型AFです。が、それらを扱う、いわば雑貨店の店長さんは、クララには第三世代にない良いところがあり、そして学習力が大きいと評価しています。そして、店のウィンドウの中から、ジョジ―という少女を見初め、彼女のところに買われることを待ちます。この間、AFの目から見た、街の描写が続きますが、退屈しません。破滅しつつある都市化か工業化した地域と、後にクララが住むジョジ―たちの田園地域の対比を感じました。そして、クララというAIを難なく受け入れている自分の気持ちの変化・・『わたしを離さないで』を読んだ十数年前と、まったく気持ちが違うことに気付きました。それだけAIに馴染んだのでしょうか?

クララが買われたいと思い、また、第三世代ではなく、旧式のクララを求めたのは、良く判らない難病を病むジョジ―という女の子です。太陽の陽光が栄養の、あえて申しますとロボットであるクララは、優れたAFですが、感情的な乱れはなく、実に論理的に学習し、成長し続けます。が、ある意味では悲劇の一因にもなりかねないのは、ジョジ―が瀕死の淵にある頃、既に同じ病気で長女を失っているジョジ―の母親が、クララを娘の代理にしたいと葛藤する・・・離婚、別居、ちょっとした引きこもり的人物など、現代風の背景のなかで、人間の複雑な感情のもつれをみながら、ひたすらジョジ―の快癒のために、AIの性能低下をも掛けてお日さまとの賭け?をする健気なクララです・・・

本書の主題は、人間と何か、何が生物としてのヒトを社会的生き物である人間にするのかであると、私は読みました。元気なって、大学に行くジョジ―、用務を終えたAFクララ・・・切ない終末部です。

ずいぶん昔ですが、ある講演会で、高血圧を惹き起こす酵素「レニン」の遺伝子配列を解読された高名な分子生物学者村上和雄筑波大学名誉教授とご一緒したことがありました。先生は、科学が進歩して、身体の臓器をひとつ一つ置き換えられるようになったとしても「生命〈イノチ〉」は創られない…と仰せでした。科学の進歩と人間の、何か…心とか情とか、愛とか憎しみとか、恐らく、差別や偏見そしていじめなどは、ヒトが人間である限り、恐らく、恐らく・・・永遠に解決できないのだろうか、とため息が出ましたが、絶対、お勧めの大著・・・少し間を空けて再読し、そして体力気力があれば、時間をかけて原著を読んでみたい・・・と、思いました。

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