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映画観ました!「いのちの停車場」

南杏子先生は医師の傍ら、何冊も本を出版されています。全部を拝読してはいませんが、柔らかな筆致で、引きこまれます。その一冊が映画になりました。来週封切の「いのちの停車場」です。

救急医から在宅医となった女性医師の物語、主役を演じられるのが吉永小百合さんといえば、それだけで心ときめく人が多いでしょう。

半世紀以上も昔、今ほど色々モノがなかった高校生時代、毎週、映画館に通っていました。当時、3本立てもあって、半年間に百数十本の映画を観たこともありました。几帳面に一覧表を作って、監督、音楽、主演、助演、物語の場所そして好きか嫌いか、感想、採点までしたほど、映画オタクだったのですが、医師になって映画館通いの機会が激減、海外勤務地は映画館のないところをウロウロすることが多く、近年、ほとんど映画館で映画を観る機会を失っていました。で、共演の西田敏行さんはさておいて、主要な役を演じられている広瀬すずさんも松阪桃李さんもスクリーン上で初めて拝見しました・・・すみません。が、人気があるのは納得です。

私ども笹川保健財団が、それぞれのお宅で療養される方への看護を継続実践する在宅/訪問看護事務所を立ち上げる起業家看護師育成を始めたのは8年前でした。第一期とでも申すべき7年間で108名が8ヵ月の研修を終え、5月現在80人が全国で活動しています。映画では、「まほろば診療所」の訪問看護師役を広瀬すずさんが演じておられます。亡くなった姉の子どもを引き取っているという、何やら訳ありげながら、若くてしかも中からにじみ出てくるこころホカホカ感のある本物の看護師に見えました。

通常、看護師というと、病院で様々な機材にかこまれ、医師と一緒に凛々しく働いている姿を想われる方が多いのですが、国際看護師連盟(ICN)には、「看護とは、あらゆる年齢、家族、集団、地域社会そして病人も健康な人も、すべての状況下にある個々人への自立的かつ協調的なケア=看護を含む」とあります。そして、ここが大事ですが、「看護には、病気や障害への対処、死に逝く人へのケアと同じように、健康増進と病気や障害の予防が含まれる」ともあります。つまり、病人の世話だけが看護ではないのです。さらに健康のアドボカシー(擁護、唱道、啓発)、安全な環境の促進、研究推進や政策策定への関与、保健医療制度の管理への参画関与と、難しい機能も看護師の仕事です。

近年、医療制度の変化で、医療施設での入院期間は短縮しています。悪いところを切り取れば終わりではなく、つまり看護には、病気だけを看るのではなく、病気を持った人を丸ごと受入れ、病苦や悩みやその他諸々をも、そのまま共有できる度量が必要で、特に、それは在宅でのケアを担う訪問看護師には重要な能力、人間的度量なのです。

で、仙田徹センセイの、あまり儲かっていなさそうな「まほろば診療所」の星野麻世看護師は、若いけれども、お世話する患者の苦悩を上手に担いつつも、励ましている・・・とみえました。恐らく、亡くなった姉の子どもを引き取っているところに何か他人には見えないご自身の苦悩があり、子どもが寝入ってしまった夜更け、声をしのんでではなく、大声を上げて泣いているかもしれない・・・そんな気がしました。

吉永小百合さん演じる白石咲和子先生は優し気ですが、中は硬骨漢(漢はオトコですか?)です。何人かの看取り、白血病の子ども、死と向かいあう人間とその家族への対応には揺るぎがない・・・が、一癖もフタクセもありげなご自分の父親の、ある種自立してきた高齢者としての自負もあり、頑固とかではなく、日本古来のサムライみたいな父、医師である娘が手許に帰ってきたからといってもさほどデレデレはしないのに、生を終えることというより、痛みの苦痛に耐えることは簡単ではない・・・だから、安楽死を望む・・・ここは、現実的に、ちょっと引っ掛かりまました、緩和ケアってものがあるが・・・と。

実は試写会に参加させて頂いたのは、もう1ヵ月も前でした。頂いたパンフレットを夜な夜な眺めながら思います。映画、原作の主題を、後期高齢者の自分は、どう考えているのか。安楽死や尊厳死の是非でなく、医あるいは看護という仕事、または医師や看護師という職業はどうあるべきか、そして、自分らしく生を終えるとはどういうことか・・・

在宅医療分野では、ドキュメンタリーですが、「けったいな町医者」という尼崎市の開業医長尾和宏先生を追った映画も興味深いものでした。医師や看護師と云えば、病院でない時代が根付いてきていることを実感しています。

2本の映画、皆さまも、是非、お楽しみ、かつ在宅医療/看護をご理解下さい。