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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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ひまわり

先頃、日本財団笹川陽平会長が、936ページの大著を出版されました。

『地球を駆ける』と題されたそれは、直近の20年間の70ヵ国の訪問記・・・です。1行にまとめると、各国元首にとっての「厳しい」面談と、著者ご本人にとっての物理的に超厳しい現地視察です。

元首たち(失礼!)には、恐らく、やや等閑になっていたであろうこともある、ハンセン病という医学的、公衆衛生学的そして社会的対応が不可欠な最古の感染症の対策を、その統治する国全体に、改めて徹底的に実施することを、やんわりとしかし断固として約束することを強いるWHOハンセン病制圧大使の迫力に圧倒されたであろう様子がうかがえます。そして著者ご本人には、しばしば道なき道を分け入ってでも、いわゆる途上国の、それも辺境の地に見捨てられたように生きるこの病気におかされた人々を訪ね、いたわられる物理的な困難な旅の実態が繰り返されています・・・幾ばくかの国のご訪問に同行したものとしては、医学的興味、公衆学的関心を超えて、ちょっとジンとくる思い出や食うや食わずの日々、首都圏と地方のあまりの格差にがくぜんとしたことも思い出されます。721ページには、2015年、第10回グローバルアピールの際、各国からのハンセン病当事者(ハンセン病に罹患し障害を残していることもあって世間から差別を受けている人々)を当時の天皇皇后が親しく引見された際の写真に、私メも!!!

が、今回は、中身ではなく、表紙についての感想です。

この大著の表紙は地平線までの続くひまわり畑の中で、心地よげに、また、壮大に地球を抱かんばかりに腕を広げられた会長の写真です。

拝見した瞬間、その昔、名匠ビットリオ・デシーカ監督、ヘンリー・マンシーニ音楽、主演ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニのイタリア映画「ひまわり」が浮かびました。そして、この映画あるいは主演したマストロヤンニへのオマージュであろうと思いました。

何故って、この映画が封切られた頃の私世代、オトコなら、一世を風靡した妖艶にして名(女)優ソフィア・ローレンのファンが多く、また、オンナたちは、後にカネボウ男性化粧品バルカンでしたかのモデルになったイタリア人二枚目俳優、何とも言えない優男(ヤサオトコ・・・死語!!)のマルチェロ・マストロヤンニに熱を上げたものでしたから。

たった数人のイタリア人男性の知人からのイメージを普遍化するのは偏見甚だしいのですが、彼らは女性に声をかけることが天性のようにお考えだと私は確信しています。そのイタリア人男性の中でも、ヒト・・・女性の気を引く雰囲気プンプンのマストロヤンニの映画を観るために、大阪、神戸はては名古屋辺りまで、映画館めぐりをした友人がいます。この映画は、戦争で引き裂かれた夫婦の物語です。何年も何年も、夫は生きていると信じ、国境を越えて探しあてた夫は、異国の女性と子どもを成して幸せそうに暮らしていた・・・駅で見つめあいながら、妻は去ります。そのヒロイン ソフィア・ローレンに、「泣いても、泣いても、泣ききれない・・・」とのセリフがありました。

頼りなげで、優し気で、本物のマストロヤンニも二人の女性を愛し、共に子どもをなしていますが、1996年、たった72歳ですい臓がんで亡くなりました。

平素は仲の良いご夫婦で、然るべき立派な社会的立場のお連れ合いを自慢していながら、その時には、ソフィア・ローレンのセリフを吐いて悲嘆にくれ、お連れ合いから白い目を向けられた友だちがいました。私たちは、40代にさしかかっていました。この本の著者は、その頃から、世界のハンセン病に立ち向かわれていた・・・

映画が封切られた1970年初頭の日本は、先のオリンピックから数年、国は上昇機運であり、美男美女(死語?)カップルが演じる、戦争という個人的には不可抗力でもあった事態によって引き裂かれた純愛物語的に受け止めていたようにも思いますが、本当は、反戦映画としても鑑賞するべきであった、そうしても良かった・・・と思い出します。

その映画「ひまわり」のイメージ、と私は思いました。で、それなりにジンとした思いで、ページを繰っていましたのに、数日前に、同世代でもある著者笹川陽平氏は、映画「ひまわり」をご存じなかったことをご本人からうかがいました。愕然です。

そして、なんとなんと、夢もへったくれもない裏話と云うか、撮影時の状況説明。

地平線までひまわりが広がる地を走行中、たまたま、おトイレがあって休憩することになったと。そこで、めいめいが用を足している際、戯れにとったのがこの一枚!!!!

何と、無粋な話、と思いませんか?

でも、それはこの大著の中身の重要性を損なうものではない・・・ページを繰るたびに、ちょっと頭の隅をかすめるエピソードです。

少しお高い本ですが、世界のどこにでもある差別偏見・・・それに立ち向かう日本のマルチェロ・マスロトヤンニ・・・是非、ご高覧下さい。