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新型コロナウイルス-デルタ変異型

7月26日、アメリカというより世界最大の感染症に関する研究機関であるCDC(The Centers for Disease Control and Prevention 米国疾病予防管理センター)の内部資料が、ワシントンポスト紙にリークされました。機密ではなく、あくまで内部検討会資料だったようですが、それによると、インドで広がり始めたとされるコロナウイルスのデルタ変異型は、「水ぼうそうと同じくらいの強い感染力があるらしい」ということでした。

水ぼうそうは、ごくありふれた子どもの流行り<ハヤリ>病ですが、判っているウイルスの中では、最も強い感染力を持っているとされます。確かに、幼稚園などで一人が罹ると、しばらく次から次に同じ幼稚園から患者さんが来るのは、地域の小児科医にはよくある経験です。

どれ位感染しやすいかと云えば、未感染者なら、周りの90%・・・つまりほとんどの人が感染するということです。

で、デルタ型が現れて以来、その感染力が故に、新しいウイルスが出現したと同じように気をつけろ!!的警告が広がりました。新型コロナ感染症は、そもそも、エアロゾル(気体の中に極微細な粒子が多数浮かんだ物質。コロナは、咳やくしゃみで排出された超微細な水滴にウイルスが含まれた状態=エアロゾルから感染する)から感染するので、気を付けることは大事ですが、デルタ型はそれでも危ないのか?との危惧が広がりました。

が、このほど、新型コロナウイルスの元々の型と変異したアルファ型とデルタ型の感染力を科学的に計算した科学者グループの中のひとりであるルーベン・カトリック大学(ベルギー)のトム・ウェンセリアーズ先生(進化生物学・生物統計学)は、「答えはノー」と発表されました。ホッですね。

が、そうは云いながらも、先生は、「私たちが知っている限りでは、最も感染力の強い呼吸器系のウイルスであることは事実」と仰せです・・・やっぱり!!がっかり!!

先生の説明を図にしたものです。

感染症の拡がりをみる際、R0(Rノート)と呼ばれる数値を用います。これは、周りのすべての人があるウイルスにさらされたことがなく、つまり抵抗力=免疫を持っていない場合に、一人の感染者(発病者)が何人に感染を広げうるかという数字ですが、アメリカのサンディエゴにある高名な非営利の医療研究施設スクリプス研究所の数理生物学研究者カルティック・ガンガバラプ先生は、「R0とは、ウイルスにとって理想的条件、つまり誰も免疫を持っていない場合に、どの程度、ウイルスが拡散するかの可能性です」と述べていらっしゃいます。

例えば、インフルエンザのR0は約2ですが、誰かがインフルエンザに感染した場合、平均して2人にウイルスを伝達します。実際には2人以上が感染することもあり、一人の場合もありますが、時間が経って平均すると2人なのです。

最初に書きましたが、水ぼうそうの感染力は強くて、R0は約9~10です。つまり、水ぼうそうにかかった人は、平均して約10人に感染させますので、流行は爆発的です。

さて、新型コロナSARS-CoV-2です。このウイルスは、転々と変化し、その経過を通じて、R0が変化しています。2019年の末、新型コロナウイルスが出現した時には、インフルエンザよりちょっと感染力が強いと計算されR0は2~3の間でした。約1年後、最初にイギリスに現れたらしいアルファ型変異株の感染力は、元のものより強い感染力を示し、さらに数ヵ月後、恐らくインドで発生したであろうデルタ型は、さらに感染力が強くなっているという次第です。

ウェンセリアーズ先生は、「デルタ型は、計算上、R0は6~7です」とおっしゃっています。つまり、元々の新型コロナウイルス(R0=2〜3)の2、3倍の感染力です。が、水ぼうそうのR09〜10よりは弱い・・・です。

CDCの発表は、水ぼうそうを過少評価し、新型コロナデルタ型を過大評価したか、その両方かでしょう、ということです。

具体的に比較してみましょう。

図でのR03と6の場合です。新型コロナの元の型では、1人の感染者から約3人が感染し、さらに、その1人が次の3人に感染を広げる。感染の機会が2回あれば3×3=9になり、感染の機会3回なら、3×3×3=27人の感染者に増えます。一方、デルタ型なら、最初の1人の感染者が次に6人を感染させますので、感染機会が2回で、新たな感染者は6×6=36人、感染機会3回では、6×6×6=216人・・・と感染者は急増します。

R0が6ともなれば、急ぎワクチン接種を広げない限り、そのウイルスの拡がりを減速させることは極めて困難とウェンセリアーズ先生は仰せです。現実には、現行のワクチンによるデルタ感染阻止効果は90%以下で、少なくとも10人に1人は、予防対策をすり抜けて、爆発的感染を起こす危険性はのこりますが、多くが未接種の集団よりはまし・・・でしょう。

いずれにせよ、デルタ型は元々の型やアルファ型よりもはるかに強い感染力をもっています。

日本でも、中年層から若年層へ拡がりつつありますが、今しばらく・・・いつまでかかるの?ではありますが、ウイルスと喧嘩しても勝てません。マスク、手洗い、3密を避ける・・・溜息をつかないで、今しばらく頑張りましょう。