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読書の秋・・・楽器をめぐる2冊の本『あるヴァイオリンの旅路』と『調律師の恋』

1年半以上、毎日毎日、コロナウイルスメ!の消長にヤキモキしてまいりました。数日来、急激に発病者検査陽性者数が減少しています。とても良いこと、ホッとします。予防接種が進んだこともありましょうが、何故?という理由が科学的に説明がつかないのはいささか不審不穏です。訳が分からないまま、今度は、一転、激増する危険もあるかも・・・です。ま、マスクと手洗いは厳守!!

閑話休題

読書の秋です。近頃はiPhone、iPad読書時代だそうですが、私は紙の本しか読めません。パソコンは仕事の道具・・・時代遅れですか?で、どんな本?と問われたら、ムムム、好みはあります。好きな作家もありますが、やや乱読。すぐに手を出すのはフフフの「猫」本、その他、文学的であれドキュメンタリーであれ、マンガも・・・紛争や難民・避難民が主題とか、歴史モノが好きです。

今日は、最近入手したヴァイオリンをめぐる書籍とかなり昔に読んだピアノに関する物語です。

新しいところ、『あるヴァイオリンの旅路』は、タイトルに「移民たちのヨーロッパ文化史」、帯に大きく、「気候変動」「戦争」「疫病」とあり、興味がそそられました。翻訳者ドイツ文学・文化史ご専門の佐藤正樹先生のあとがきによれば、著者フィリップ・ブロームはドイツ人で、近年、たくさんのベストセラー本を出版されている作家ですが、この本が本邦初翻訳だそうです。著者は、本職が近代史の研究者のようですが、欧米の様々な新聞寄稿からするとドキュメンタリー作家あるいはジャーナリストか評論家のようでもあります。本書は、多彩な歴史が錯綜している、ヨーロッパのある地域の近世前史でもあります。主題の一挺のヴァイオリンは、著者自らが演奏され、その音色から連想ゲームのようにヴァイオリンの出自、それを作った職人、その職人が生まれたであろう地域、フュッセンの街の歴史とヨーロッパの盛衰が物語られます。

原題はドイツ語!“Eine italienishe Reise<あるイタリア紀行・・・判りました>. Auf den Spuren des Auswanderers<移民の足跡をたどる>, der vor 300 Jahren meine Geige bau<300年前、わたしのヴァイオリンを作った>” ウーン・・・です。

まったくもってモノになりませんでしたが、大学生まで、多少、ヴァイオリンを嗜みましたので、この楽器には馴染みがあり、タイトルに魅かれた理由かもしれませんが、本書の初めは、ヴァイオリン学?とでも云いたいほど、機能的な説明が続きます。それは、著者が入手された、少し癖があるらしいが優れた音色を生む楽器の解説でもあります。

そこから、それを作った職人に想いを馳せ、仮にハンスと命名された少年楽器職人とその家族、一族、仲間の生業<ナリワイ>、暮らしが連想されます。が、連想と云っても歴史的事実を踏まえドキュメンタリー風展開です。すなわち、17世紀のドイツ最南部のフュッセンの街にギルド的に存在していたのは、より古い弦楽器リュート製作者集団で、東洋貿易で栄えたべネチアあたりの権力者や貴族がご贔屓だったらしいこと。フュッセンが衰退したのは、1630年頃のペスト大流行であり、また、新大陸発見と共に、世界交易の拠点がベネチアからオランダのアムステルダムや大英帝国ロンドンに移行したからと説かれています。

弦楽器と云えば、ストラディバリとかグァルネリとかのブランドが有名ですが、この本が解説しているヴァイオリン職人たちが生きた時代は、もう少し昔のようです。ただ、著者が手にした楽器に張られている製造年代がさばを読まれていて、まぁ、人間が考えることは300年前からあまり変わっていないのですね。いずれにせよ現代には名を残していない名人的職人が、一挺一挺、丁寧に時間を掛けて作った楽器の歴史・・・その背後にある貧困や差別、経済や感染症によって衰退する街の歴史、地域の衰退によって他の地域や国に流れていった職人たちの移動の歴史です。

ちょっと退屈というよりムズカシ(難し)感ありですが、興味深い歴史本。地域の中で人々がどのように生きたかを想像し、何故、私たちは、今ここにいるのかも考えたくなる・・・哲学本でもあります。

ついでに、フュッセンは、大昔、ローマ帝国から北に向かうローマ街道沿いですが、2000年近い後に、ドイツ南部のロマンチック街道として観光地化されています。二十数年前、ミュンヘンのドイツ人ご夫妻と、近隣の有名なバイエルン王ルートヴィッヒ2世のノイシュヴァンシュタイン城やホーエンシュバンガウ城とともにランチ観光しましたが、楽器の話は記憶にありません。

もう一冊は『調律師の恋』2003年の出版です。原題は”The Piano Tuner”です。これもとっつきやすさはありませんが、場所はビルマ奥地、イギリス軍軍医が所有するたエラールのピアノのために派遣された調律師の運命・・・あるところまで読むと止められなくなります。

ビルマ・・・現ミャンマーは、1990年代に保健協力で関与しました。既にアウンサンスーチー氏の自宅幽閉が始まっていた時期、かなり行動制限がありました。135の少数民族を抱え、自然資源の豊富な軍事政権の国。イギリスからの独立に日本がかかわっていた、本意ではなくとも・・・親日家が多い・・・今はどうでしょうか。国の東側中国国境の麻薬地帯に入ったのは世紀が変わってからでした。アウンサンスーチー氏は、まだ、自由を得ていないままでした。

エラールというのは、ピアノを発明した人とは知っていましたが、そのネーミングのピアノが実在し、超高級とは存じませんでした。

物語は、19世紀、ビルマ支配のために駐留する英軍、その軍医がエラールのピアノを持っている・・・軍からの依頼をうけて41歳のエドガー・ドレイクが、ビルマの奥地にピアノ調律に出かける・・・東洋趣味的な冒険談ではありますが、読んでいるとドキドキしました。原題は、単に調律師ですが、翻訳本のタイトルは調律師「の恋」です。もちろん、魅力的な女性も出てきますが、私は、エドガーだけでなく、軍医キャロルが恋した、魂を奪われたのはビルマかもしれないと思いました。そう、ミャンマーは魅力的な国です、今のような紛争がなければ。

この本は、著者ダニエル・メイソンが26歳、医師を目指していたとしても、正確には、ハーバード大学で生物学を学んでいた時に出版しました。時期は不明ですが、1年程、マラリア研究のためにタイ・ミャンマー国境に滞在しています。そして、エラールのピアノの所有者キャロル軍医は、医師ながら、ある地域の統括を任されているが、それは住民への保健医療支援などを通じて少数民族との融和を図っている、というちょっと国際保健的活動もあります。

この本を読んだ後にもミャンマーに参りました。

国を南北に縦断する大河エーヤワディ(イラワジ)川の傍を走っていた時、ふと、この小説を思い出したことがあります。私が見ていたのは激流ではありませんでしたが、突然、ごうごうと泡立つ大河の中を一台のピアノが流れて行く・・・小説の一場面を想像しました。

現在、ダニエル・メイソン医師はスタンフォード病院の精神科医として勤務されるとともに、スタンフォード大学で医学と文学、精神衛生と歴史(Medicine and Literature, Mental Health and History)を講じておられ、また、昨年には、シンプソン/ジョイス・キャロル・オーツ文学賞を受賞なさったそうです。再読しても面白かったです。