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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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はなみずき・・・

ここしばらくは、ウクライナ、そして戦争を取り上げてまいりました。ウクライナだけでなく、このよう悲惨な事態が続いている他の国や地域も忘れてはいけないと思うと同時に、私どもは、日々つつがなく暮らせていることを感謝する気持ちも改めて意識したいと思います。ウクライナの深刻さが深まっている中、ちょっと気が重いのですが、今日は話題を変えて、花の思い出を。

今住んでいる東京郊外は公園や緑が多いのですが、街路樹がハナミズキの通りがあります。事務所のある日本財団ビルの前にも、数本のピンクと白のハナミズキが咲きほこっています。

ハナミズキは、ハナミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉樹、アメリカ東部が原産です。私は、半世紀近くも昔、働いた南部の街のそこかしこにハナミズキの花・・・木が群生しているのを見ました。アメリカ原産のこの植栽は、1912年、東京市長 尾崎行雄がワシントンDCに、日本の国花のひとつであるサクラを贈ったお返しに、1915年、東京市に贈られたそうです。1912年とは、この年の7月30日明治天皇が崩御され、皇太子嘉仁親王が天皇に践祚された年、つまり明治が大正に改元された年です。

1970年代後半、私はアメリカ南部のノース・カロライナ州(State of North Carolina、NC)リサーチ・トライアングル・パーク(Research Triangle Park)にある国立環境衛生研究所(National Institute of Environmental Health Sciences、 NIEHS)に勤務しました。リサーチ・・・は、日本語で申しますと「研究三角公園」で、事実、NC州中央部の約28km²(板橋区より少し広く、葛飾、杉並より少し狭い)を占めるほぼ三角地帯です。そして、各かどには、その昔はタバコで有名なダーラムと州都ローリーと古い街チャペルヒルが位置し、それぞれにデューク大学、ノース・カロライナ州立大学、ノース・カロライナ大学チャペルヒル校がありました。ま、私が住んだのは大昔ですから、街を出ると大草原・・・タバコやトウモロコシ畑の他には何もありませんでした。一方、街は学生、教師、研究者が多いという感じでしたが、現在、この一帯は、シリコンバレーと匹敵するハイテクパークで、IBMをはじめとする300社以上の企業、各種研究開発エイジェント、そして国立環境衛生科学研究所などの国立研究所があるそうです。

ここで約2年間、私は、チャペルヒル郊外の新興住宅・・・奈良公園にポツポツと家を建てた感じ・・・にお住いのユダヤ人女性の家に下宿しました。まず、部屋を借りる際の条件が博士号をもっていること!なるほど、その一帯の117軒の住宅中115軒では、どなたかが学位を持っていると後に知りましたが、最初はのぞけりました。しかし、博士号持ちの家主だけでなく、近隣の方々からは、知的な刺激をたくさん頂いたことも事実です。

6月頃の満月でした。近くのアパート群の傍のハナミズキ、現地ではドッグウッドと呼びますが、月光下の写真を撮りに行こうと思いました。

日本のハナミズキは、狭い国土にあわせたのか背が高くピンクも多いですが、あちらは横に広がって、ほぼ純白、そして群生していました。満月に照らされた白い花!!を撮る・・・

家主マリオンは、ユダヤ人、とても美しい70代の元大学教授、シェイクスピアを講じていたそうですが、引退後もジェームス・ジョイスの研究を続けていました。俗に申すユダヤ気質なのかもしれませんが、超合理的・・・ちょっとケチで、気難しいところがあり、毎週、TVのシェイクスピア劇場を一緒に見ること・・・は、苦行でしたが、ユダヤ文化や歴史、西欧のマナーや社交について沢山教えて頂きました。そして、夜出かけても良いのですが、何処へ何しに行くかを伝えて欲しい、そうでないと帰ってくるまで心配だから・・・という方でした。

「満月の下のドッグウッドの白い花の写真を撮りに、どこそこへ行く」と、私が申しました。
マリオンの反応は「日本にもドッグウッドはあるデショ、写真はどこでとっても一緒デショ!」

「でも・・・やはり、アメリカの雰囲気は違うから、すぐ帰ってきます・・・」ムードの判らんヒト!と思いました。
マリオン「フーム・・・ノース・カロライナの満月の下のドッグウッドね。ちょっと私も見たいねぇ・・・着替えるから、待って・・・」

後に知りましたが、この花は、日本の梅や桜のように、東部アメリカの南部では、春を告げる花と理解されていました。まだ、肌寒い3月頃、男子学生が上半身裸でジョギングし始め、学生寮の屋根の上で寝っ転がって本を読みだします。4月、女子学生がノースリーブで闊歩します。5月、ドッグウッドが花開きますと、高齢の女性もショートパンツでお散歩されます。6月はいっせいに花開く・・・この時期には、誰もかれも暑そうな顔でした。

近い山、ブルーリッジマウンテン(山脈)には野生種も多く、後に見に行ったこともありますが、その夜、アパート群の傍の公園の一隅に群生していた白いドッグウッドの花、ハナミズキの写真・・・今もどこかに眠っているはずです。