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ウクライナ その11 戦争による避難と人的被災

今年の国際看護師の日のテーマは「『看護師』ひとつの声を上げようー看護を強化し、世界の健康を保障するための権利を尊重する。」(“The theme for this year’s International Nurses Day is “Nurses: A Voice to Lead – Invest in Nursing and respect rights to secure global health.”)です。・・・世界の健康、その第一は紛争のないことです。

昨日5月12日は、近代看護の祖フローレンス・ナイチンゲールの誕生日、国際看護師の日でした。ナイチンゲールの名を高らしめたのはクリミア戦争、現在、激しい紛争が継続しているウクライナ南部のクリミア半島で、その昔のロシアと対峙した大英帝国、ナポレオン率いるフランス、そして先般、ロシアの旗艦が沈没した黒海をはさんでロシアと対峙していたオスマントルコ帝国、さらにイタリア北部の小さな公国サルジニアとの戦争でした。このお話は、またいつかシリーズ的に書きたいのですが、今は、燃え盛る現在のウクライナの戦争・・・

ロシアのウクライナ侵攻は78日を越えました。

定かな数字は不明ですが、アメリカCIA(Central Intelligence Agency 中央情報局)の情報によりますと、2022年5月10日の時点で、4,350万強の人口の約14%にあたる598万人が隣国やその他の外国に避難し、5月3日の時点で800万人以上が、いわゆる国内避難民になっています。

祖国の保護が受けられないがために国を離れる難民(refugee)に対して、国内避難民(IDP Internally Displaced People/Person)という言葉は、1990年代に紛争国から脱出しようにも隣接国が受け入れてくれない、あるいは海に囲まれていて逃げ出せないがために、国境地帯に滞留する人々をさして生まれた言葉でした。難民支援は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR UNs High Commissioner for Refugees)が責任機関ですが、その昔、国内避難民は外部に見えづらいこともあって、支援が遅れがちでした。

ウクライナでも、初期に、いわゆる田舎に転居された方々もあり、私世代=後期高齢者には、第二次世界大戦当時の昔風「疎開」をなさったと受け止めました。そして、疎開はまだ、避難先での生活があった・・・実際、ウクライナの戦争の初めにはそうのように聞こえていましたが、現在の紛争下の国内避難民は、とてもそんなゆとりはなく、生命の安全だけが求められている・・・わが国風には大災害直後の避難センター風、生活があるとは云い難い・・・つまり生きて行くだけのように思います。

とは申せ、このような事態が生じているのはウクライナだけでないないことにも、改めて気付きます。昨年8月の政府崩壊、タリバンの全国制覇となったアフガニスタン、もう数年になる国軍の市民抑圧が続くミャンマー、ブスブスと小競り合いが継続しているエチオピア北部やいくつかのアフリカの国々、コロナによって観光産業が停滞した中で政治的な混乱から経済的問題が起こり、騒擾状態になっているスリランカ・・・なぜ、世界は静かにならないのでしょうか?

そして、ウクライナの戦争による正確な死者数は不明ですが、市民のそれは7,170人と報じられています。通常の、と云う言い方はおかしいですが、戦争は兵士と兵士が相戦うもので、一般国民を巻き込むものではないはずです。今回のロシアの侵攻は、最初から住民の居住地を攻撃していますので、「戦争」ではなく、私は、その昔に定義モドキを発表した「複雑な人道危機 Complex Humanitarian Emergency・・・通称コンプレックスエマージェンシー」と思っています。

そして、この無用の死を強いられた一般国民以外に、戦いで命を失った、ほぼ男性である兵士は少なくとも3,000人と報じられています。一方、ロシアでもたった2ヵ月余に10名以上の将軍クラスの軍高官が前線死を遂げているとも報じられていますし、ウクライナ側の発表では、ロシア軍兵士の死者数は14,400人とされています

紛争地の仕事をしていた頃、「昨日は何人がコロサレタ!」と報告を受けていましたが、亡くなった人々を数でしか示せないことには、常に嫌悪感がありました。戦いの規模、被災のそれを示すには死者、けが人、避難民の数を用いるのは仕方ない・・・としても、何と白々しく、無益な数字でしょうか?

人間の死亡率は100%です。人という生物は、全員、必ず死にます。私も、あなたも100年後に生きていることはありません。が、避けようとしても避けられない災害死もさることながら、人為的な災害である紛争で、お互いの国民が命を失い、けがをして、そして心に傷を受け続けること・・・何と愚かなことでしょうか?

この2ヵ月半、ウクライナという天然の肥沃な大地を、武器という、愚かな人工の道具で汚染し続けることを、一刻も早くやめるべきです。図に示しましたが、ウクライナの人口ピラミッドは、相当、ゆがんでいます。今回の「戦争」で多数者が国を離れ、国内では命を失う・・・世界の食糧庫ともされるウクライナの大地に、この戦いのエネルギーを投じたら・・・もし、それをロシアが先導されたら、ウクライナも、フィンランドもスウェーデンも、西ヨーロッパの軍事連合である北大西洋条約機構NATOなどに参加しなかったであろうに・・・と思います。