JP / EN

Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

猫イメージ

『世界最強の研究大学 ジョンズ・ホプキンス』コロナへの戦い 外交・政治ジャーナリスト黒瀬悦成氏の、探偵小説のようなコロナ本

2年以上新型コロナに振り回されている中で、超々興味深い本を拝読しました。先月、出版された『世界最強の研究大学 ジョンズ・ホプキンス』です。

まず、コロナへの戦い・・・とありますので、著者は感染症か医学、ま、疫学や予防医学関係の方かと思いましたら、なんと、政治、外交を追っかけてこられたジャーナリスト・・・黒瀬悦成氏、産経新聞東京本社編集局副編集長兼外信部編集委員とありました。

この著書は、前任地アメリカのワシントンで、バリバリの国際関係記者をなさっている時に、ジョンズ・ホプキンスからのビビッドな情報発信がなぜ行われているのか、なぜそれが始まったのか、誰がやっているのか・・・といった、ちょっと当たり前すぎる疑問から、取材をお始めになったようです。メディア関係者ならずとも、科学サイエンスの分野でも、いわゆる5W1H、つまりWhen(いつ)Where(どこで)Who(だれが)What(なにを)Why(なぜ)How(どのように)は必要なのでしょうが、ご専門、ご担当分野外に応用された・・・と拝読しました。

実は、割合、良く本を読みます。が、ドキュメンタリーでも興味は主題であり、著者の背景に関心を持つことはあまりないのですが、この本は、読み始めてすぐ、著者は一体どのような方なのかと思いました。個人情報ですが、ネットにもありますので・・・お生まれは1966年、フムフム、私が医師として働きだした年昭和41年・・・なのですね。フフフ、もし赤ん坊のころに何かあったら、私世代の医師がケアしたのだ・・・そうです、その頃、最初の東京オリンピック(1964 卒業試験の真っ最中)、大阪万博(1970 会場の端っこの診療所でボランティア)など日本が上昇機運にあった時期です。ただ、よど号ハイジャック事件(1970)、あさま山荘事件(1972)などは、当時勤務していた国立大阪病院の医局のTVにくぎ付けになりました。古き良き時代の日本、団塊ジュニアが生まれ、経済は上向き、途上国状況を脱し先進国の仲間入りつつあった時代、初のG7は確か1973年・・・新米医師の私は、日本と同じように希望にあふれていました。

で、私風の5W1Hです。政治外交関係をご専門とされるメディアの方が、何時、何処で、何故、ホプキンスのコロナへの取り組みにご関心を持たれ、どうやって、この興味深い本を書かれたのか・・・に、私は関心を持ちました。

ジョンズ・ホプキンス大学は、1876年、大学名となっている実業家ジョンズ・ホプキンス氏の遺産で、病院と斬新な教育法を取り入れた医学部が、メリーランド州ボルチモアに開設されています。

ボルチモアは、1800年代には、タバコ産業、アメリカ初の鉄道の終点、東海岸随一の良港など産業でも栄えていたのですが、中南米からの出稼ぎ労働者や移民もあふれていました。ジョンズ・ホプキンス大学医学部初期の偉大な学者5人のうちの一人、病理学者ウィリアム・ヘンリー・ウェルチ教授は、1881年のボルチモア市の慈善委員会で「麻疹や猩紅熱はもとより、天然痘や黄熱病で子どもを失っていない家はない・・・外部から流入する人々の住む貧困街で病気が広がれば地域全体の問題になる」とし、「街の衛生状態を整備しないと病気は防げない・・・が、それは病院で病気と闘う医師や看護師ではなく、地域の衛生を護るための専門職を養成する必要がある」と述べています。

世界初の公衆衛生=public health/パブリック・ヘルス大学院の開設資金を探していたウェルチ先生に反応されたのは、石油事業で大儲けし、当時世界一の超お金持ちになった後、実業界を引退し、今のフィランソロピー(慈善事業というより積極的な社会改善活動?)活動に転身なさっていたジョン・ロックフェラー1世でした。世界初のパブリック・ヘルス大学院は1916年に開設されました。

黒瀬氏の力作・・・などと偉そうに云ってはいけないのかも知れませんが、興味深いご著書『ジョンズ・ホプキンス』は、そんな古めかしい歴史話ではなく、現在進行中の新型コロナパンデミックの中で世界が頼りにしているジョンズ・ホプキンスコロナ情報センター Johns Hopkins Corona Resource Centerという、新型コロナウイルスの拡がりその他を、世界の隅々から時々刻々、迅速かつ科学的に、誰もが利用できる形で提供している情報ネットワークの成り立ちです。

ホントに、誰が、何時、どうやって、こんな膨大な情報源を開示し始めたのか・・・誰もが抱く疑問を追求されたのが本書、どんな方が、何時、なぜ、どうやって、これを書かれたのか・・・です。

それは、まるでちょっとした探偵小説のように、面白く追及されています。
実は、1991年、8ヵ月間ですが、私はこの大学でパブリック・ヘルスを学びました。30年以上も昔ですから、実際に存じていた先生方のお名前は出てきません。が、多分、この方はあの先生の流れかな・・・など興味深く拝読しました。

それよりも、このような感染症への戦いが、病人を診る病院でのレントゲンやCT、MRIやPET、人工呼吸器やECMOと云った機器の操作や検査、医師自らの医療や看護師によるケア、その他の病人への対応だけでなく、ワクチンを製造し輸送保存する、治療薬を開発し治験するといった、医療の周辺の、説明すればああなるほどと理解できることだけでなく、パブリック、つまり大衆のヘルス、つまり健康を扱うパブリック・ヘルス、公衆衛生や病気の拡がりを追求する疫学といった大多数つまり民族、人類の健康を扱うに必要な学問、そして、検疫や隔離と云った制度の実施など、膨大な範囲があることが理解できます。

拝読していると、人間と微生物の戦いは、新型コロナが最後ではないこと、必ず、次も、その次も、そのまた次もやってくることも理解せざるを得ません。

人間の叡智をどう活用して、それらに対応するか・・・ジョンズ・ホプキンスは、パンデミックの、ほんの直前であった2018年に、現在のようなコロナ禍を予測していたこと、そしてウイルスの遺伝子配列解読にも取り組みつつ、社会に対して科学的で判りやすい情報発信を実践してきたこと、それらを担った一人、二人の考え、手技、多様な分野との交流、大学を上げてのバックアップ・・・読んでいる間に、30年前に感じたパブリック・ヘルスに関するワクワクする気持ちが蘇りました。

もう50歳に手が届く年代の私の、少しカビつき始めていた脳みそが、鮮やかなパブリック・ヘルス色に染まりつつあった30年前のボルチモア、N. Wolfe北ウォルフ通りの学舎と、色々な影響を受けた先生方のお顔を思い出しながら、拝読しました。

ご著書には、「この大学の名前が日本で広く知られるようになったのは、新型コロナウイルスの追跡サイトがきっかけだった。」とあります。それは、確かにそうです。日本の、こと保健医学系では、何でもハーバード!!という風潮がなきにしもあらず・・・なのですが、本当は知る人ぞ知る世界的大学、大学院であることは事実です。その道では、ハーバードマフィアとかホプキンスマフィアという言い方もありますが・・・日本では、圧倒的に前者が有力です。長年、国際保健畑で生きてきたことから、両方に知った方が増えましたが、しばしば「エツコは、ホプキンスマフィアだから・・・」とハーバードの方から嫌味?を云われることもあります。それは、91年のたった8ヵ月間ですが、この大学院に学ぶ機会を得た私には、とても光栄なことです。

ジョンズ・ホプキンスの公衆衛生大学院からは、以前から全世界に発信している保健関連ネットジャーナルがあります。 例えば、Center for Health Securityはテロなどの情報もありますし、Global Health Nowは広く世界の公衆衛生情報を発信しています。今回の新型コロナ追跡サイトはこれらの延長ですが、前者が、いわば平時情報に対して、コロナ緊急情報だと申せましょう。

今や、その世界的情報には、公衆衛生、疫学、医学、免疫学、薬学、ワクチン学そしてウイルス学などなどの専門家が絡んではいるのですが、特にある専門性に偏ることなく解説されていますので、判りやすい・・・のです。難しい言葉も、判りやすく書かれているので、ちょっと興味があれば、フンフンなるほど・・・と思えます。私が感動・・・したのは、コロナ禍が進行中の最中に、そしてご自分のご専門の分野がおありであろうに、良くまぁ、ご専門外の分野の情報、お話をよくも聞きだされた・・・探偵のような、と思います。ご一読お勧め本。

次回、私のホプキンスを書きます。