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在宅/訪問看護と母性『助産雑誌(医学書院)』2022年4号から=「在宅看護ネットワーク」仲間の活動

笹川保健財団では、2014年から7年間、在宅/訪問看護事務所を開設し、持続的発展的に事務所を経営するための8ヵ月間の研修を行いました。2022年8月現在、約100名の研修修了者が、北海道から沖縄に到る28都道府県の各地で、支店や看多機を含め、130以上の事務所を運営しています。

いわゆる団塊世代が後期高齢者となる2025年を目前に、わが国は本格的超高齢時代に突入しています。斯く申す私自身もその一員、超高齢社会を形成していますので、巷間色々申される高齢化、高齢者・・・云々は自分のことと自覚もしています。わが国の高齢化率は1970年・・・50年前に7.1%を超えました。つまり高齢化社会に入ったのは50年以上も昔なのです。当時の総人口は1億467万人、65~74才は516万人、75才以上は、不謹慎な言い方ですが、たった224万人でした。1995年には、それが、総人口1億2,557万人と増えましたが、65~74才は1,109万人と約倍になり、75歳以上は717万人と約3倍になりました。2020年には、人口1億2,571万人、65~75才は1,747万人、75才以上は1,872万人・・・そして総人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じています。

我が国の人口について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html

国では、地域包括医療制度や介護保険制度など多様な施策を導入しました。いわゆる急性期型医療施設での積極的キュア(病気を治すこと)とともに、悪性腫瘍の経過を含め、長期にわたるケア(癒し)の必要性が認識され、多数の人々が望まれる、住み慣れた地域で穏やかに生を終えるに必要不可欠な在宅/訪問看護も広がりつつあります。とは申せ、本格的超高齢社会を前に、在宅で看護に従事する看護職の総数は、未だに数万程度でしかありません。財団は、この事態を、一日でも早く、少しでも効果的に改善すべく努力しています。

その過程で気付いたのが、少子化対策・・・をも含む母性への介入の重要性です。と申して、在宅看護が何をするの?ですが、事態は深刻です。

戦後(死語ですね!)始まった第一次べビ―ブームとは1947~48年を申しますが、当時の合計特殊出生率(大雑把には、一人の女性が一生に産む子どもの数)は4.32でした。その世代が子どもを作る時代、第二次ベビーブーム1971~74年のそれは2.14、1989(平成元)年には1.57・・・2019年では1.36にまで減少しています。

子どもを一人つくるには、二人の親・・・通常はオトコとオンナ・・・が必要、もう一世代さかのぼるなら祖父母の代は4人ですから、合計特殊出生率が2.0を下回るということは、親世代2から子ども世代が2以下となり、人口は減少して行きます。

一時、ある地域で産科医が不在なのでお産が出来ない!!と問題視されたとの報道がありました。が、よくよく聞いてみると、そもそもお産がほとんどなくなった地域では、産科医はやって行けないので、居なくなった・・・とか。そして、出産とは、その事態だけでなく、親となる世代の健康、妊娠という経過、さらに出産後には、授乳する母親や赤ん坊の看・護りだけでなく、新たに構成される家族のケアも必要です。

マタニティブルーとか産後うつという言葉を見聞きされたことがある方も多いかと思います。
そんなもんは、昔もあった!!と仰せの方もおいでかもしれませんが、その昔は、大家族制であったり、近隣や地域に、ちょっとうっとうしいかもしれませんが、お節介オバサンや、ひょっとしたら物好きオジサンがおいでになって、口出して手出しがあったり、隣近所で連帯的介助的行為もありました。

昔が良かった!と懐かしがっているのではありません。社会は変化し、発展します。良いことも沢山ありますが、昔に比べて、ちょっとなぁ・・・もあります。特に、妊娠・分娩という、優れて個人的なことに対する介入はよほど人間関係が確立していても、難しい、のでしょう。

先進国での調査ですが、妊産婦の自殺は出産後2、3週間が多いとの報告があります。産褥期だけでなく、妊娠中から女性、そしてその家族をケアすることが可能なら、防げることがあるのではないか・・・私は、在宅/訪問看護の中に、妊産婦ケアをどう取り組むか、仲間と相談しました。

助産雑誌 Vol.76 No.4 2022年 08月号(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/40269

2021年、笹川保健財団の8ヵ月間の研修を終えた仲間たちが、実態調査的研究グループを立ち上げました。ちょっと突貫工事的グループ形成で、どうなるかとヒヤヒヤしていましたところ、財団の8ヵ月間の研修で、母性を解説頂いてきた長坂桂子先生のご指導を頂き、立派な研究発表会までやってのけました。そしてその中から生まれた成果が、標記『助産雑誌』の「Q&Aで知る 産前・産後の訪問看護きほんのき」、「事例で知る 産前・産後の訪問看護でできること ①自殺企図のあった産後うつの母親への危機的介入と継続支援 と、②てんかん発作のある双子を持ち、うつ状態だった母親の支援」です。

訪問看護・・・看護師が、それぞれの住民の生活の場に出かけて行う看護=在宅看護は、決して高齢者だけのものでも、悪性腫瘍や慢性疾患、さらに障がい者/児だけを対象とするものではありません。妊産婦ケアには、助産師という専門職の関与もありますが、少し精神的に落ち込んだ妊産婦や、将来は、新米パパの問題もあるかもしれません。それら妊娠、分娩、産褥/授乳、育児に関して、助産師や産科、小児科医また保育士や教職との連携のもと、看護職の関与する場が増えることで、誰でも、いつでも、どこでも安心して妊娠し、出産し、育児できる地域社会が出来れば、わが国の将来の存亡を左右する少子化対策にもなると、確信しています。

『助産雑誌』に寄稿して下さった「日本財団在宅看護センター」在宅看護ネットワーク 訪問看護・リハビリテーションセンター「ななかまど中央」管理者小六真千子さん、助産師スタッフ中山翆さん、「在宅看護センター北九州」代表理事坂下聡美さん、そしてご指導頂いた西部文理大学看護学部/NPO法人フィット・マザー・ジャパン母性看護専門看護師長阪桂子先生 ありがとうございました。