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ウクライナ その14 勝利者はいないのが戦争

ロシアがウクライナに侵攻して、8ヵ月と3週間ほどになります。激しい武力闘争の間、申すべきことはただ一つ、即刻、破壊行為をやめるべきということしかありません。毎日、否応なく目に耳に入ってくるニュースに、20年以上前ですが、WHO本部緊急人道援助部という、世界の紛争や災害地への支援を担当する部門に勤務した頃を思い出すことが多くありました。当時は、現在のウクライナとロシアのような大規模な国と国との武力交戦である戦争はなかったのですが、20数ヵ所の国々の国内武力闘争がありました。毎日、それぞれの現場から入ってくる情報を、時には文字通り、時々刻々と分析し、出来る限りの保健医療支援計画作りをしたものでした。

率直に申して、人々のいのち、健康を損なう原因そのものが人為的な武力にあるので、それを止めればよいのです。支援でできることは、誰かが攻撃して失われる生命、健康を、あえて申せば、細々と修復するに過ぎません。やらないよりはやった方が良い、またはやるしかないのですが、その傍らで、時には支援場所にも攻撃が及ぶこともありました。いくら効率の良い救援支援ができたとしても、それを凌駕する破壊活動が堂々と行われているならば、結果は芳しいものではありません。

健康を損なう、人命を破壊する原因をヒトが作っている、その武力行使を止めさえすれば、それで終わるのにと、やってもやっても結果がよくない時や予測外の時・・・多数の死傷者や、時に不明の感染症が広がっているなどの情報がくると、戦いを続けていた双方の武力リーダーを品悪い言葉でののしったりしたものです。戦争は人為災害の典型、それがための救援計画の策定や実践はやりがいがあるというよりむなしさを感じることが多かったと申せます。

ウクライナ情勢 戦況地図(NHKより抜粋)

ウクライナの戦況は、大いに変化しています。
一時は、ウクライナ全土が、ロシアの支配下に入りかねないような懸念も無きにしもあらずでしたが、ここ数日の報道では、ロシア支配地域が狭くなってきました・・・つまり、ウクライナの反撃が功を奏しているとも申せます。でも、です。報道でみるウクライナの地域の多くに、すさまじい破壊の跡が見て取れますが、それほどの攻撃を受けていない地域もあるでしょう。でも、だから、良かったとはとてもとても申せません。そのような地域からも兵士はでており、避難を余儀なくされた家族がいるはずです。この国が傷を受けているのは、個人の住まいや公共の建物や橋や道や社会インフラとよばれる施設だけではありません。人々のいのちが失われ、けがをし、家族を失い、故郷を追われ、伝統や歴史を捨てなければならない・・・文化的荒廃は、地域とその国に取り返しのつかない喪失をもたらします。

そして、そのような喪失は、ロシア側にもあるはずです。報道(”Ukraine war: US estimates 200,000 military casualties on all sides” BBC 11月11日)によると、ウクライナとロシア双方の軍関係の死傷者は20万人を超えていると推定されていますが、アメリカ統合参謀本部議長(アメリカの軍全体を統率する軍人のトップで、通常、大統領と国防長官の主たる軍事顧問をつとめる)のマーク・ミリー将軍は、(ウクライナの)一般国民の死傷者は4万人に上るのではないかとも発言されています。

一方的に侵略を受けたウクライナは防戦するしか仕方がなかった、とも申せます。成人男性は国外避難できない・・・国を護るための戦争だから、仕方ない・・・でしょうか。もし、自分の国でこんな事態が生じたら、と想像すると、胸騒ぎがします。

一方のロシアでは、例年10月の新兵募集が1ヵ月早まりました。そして、1年の兵役を終えて予備役となっている人々に、再度の兵役が勧告され、お金持ちだけだともいわれていますが、国外に出る成人男性が増えました。戦争の一方が安易に勝利を得ることはあり得ません。そして数日前には、今次の侵略で制圧した唯一の州都であるへルソン州へルソン市からの全軍撤退命令もでています(「ロシア国防相、州都ヘルソンから撤退命令 ウクライナ南部攻防、今後を左右」時事通信 11月10日)が、それは見せかけとのうわさもあります。しかし、撤退前の州都のインフラやダム破壊、周辺に展開している予備役だけの部隊が全滅したとのうわさなどからすれば、いったん制圧した州都を放棄しつつあることは確実でしょう。ウクライナにとっては、良いニュースですが、これが戦争の終わりにつながるという保証ではないことがつらいところです。

Ukraine War: Tears of relief and joy in liberated Kherson(sky news)
「バンクシー」虐殺の街に…【解放】ヘルソン州都を奪還 住民の喜び爆発 (2022年11月12日)(ANNnewsCH)

でも、ウクライナにとってもロシアにとっても激しい戦闘が新たに始まるよりは、はるかにましと思います。けれども、ウクライナの多くの地域、大概の街が無傷ではなく、その地には兵士のみならず、非武装の国民の血が流れたことを忘れてはなりません。大人も子ども妊婦も学童も、老人も若者も男性も女性も、血と涙を流しています。さらに、そのそれぞれの地域では、恐らく、ロシアの兵士の血も流れているはずです。

戦争に勝利者はいません。たとえ勝っても、本当の勝利などありえません。一日も早い和平を願うばかりです。