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高齢者のケア ランセット誌委員会の提言

世界的な医学週刊誌『THE LANCET ランセット』は、1823年に、イギリスの外科医トーマス・ウェイクリーが創刊しました。外科医ですから、雑誌名に、手術用のメスの一種であるランセットを用いたとされますが、もうひとつ、光を取入れ窓を意味するランセット窓の意味もあるそうです。200年・・・すごいですね。でも、私、医師になってから50年位は読んでいます・・・

そのオンライン版の2023年5月16日号に「高齢者に対する人間中心の長期ケア(Person-centred long-term care)」(Published:May 16, 2023DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)00920-0)が出ています。つたない訳ですが、以下に引用し記します。

「国連は 2021~30年を「健康な長寿のための10年」と宣言し、人々の一生全体にわたる機能的能力を最大に高める取り組みを行っている。しかし、高齢者、特に持続的に機能を失いつつある加齢途上の人々は、(社会から)疎外されたり邪魔者扱いされたりしている。このような、時によっては高齢者の自立性を喪失させ、人権侵害になりかねない事態は世界の長期ケア(long-term care, LTC)の現場でしばしばみられる。そこで生じていることは、高齢者の自由を失わせたり、法的対処能力を喪失させたり、時には強制的に施設収容に同意させたり、虐待・無視(neglect)、軽蔑、持続的拘束など多岐にわたる。そして高齢者に対する不公平(inequity)、不正義(injustice)、屈辱(indignity)を引き起こす。

質の高い長期ケア(LTC)は、本来の能力が大幅に喪失したり、そうなりかねない人々の機能的能力を維持強化したりすることを目的としているはずだ。機能的能力とは、基本的なニーズや可動性に加えて、有意義な活動を継続したり、人間関係を構築し維持したりしうることも含まれる。認知症であっても、入浴や移動など日常の行動支援だけでなく、レジャー活動や家族や友人とのつながりをも支援する必要のある場合もある。機能的能力を維持さえできれば、人生を最大限に楽しめ、高齢者の基本的は権利や自由そして人間としての尊厳もまもられる。

しかし2023年現在、質の良い長期ケア(LTC)を提供するには課題があることが判っている。年齢に基づく偏見(エイジズムageism)だけでなく、精神的健康状態(メンタリズム mentalism)および障害(障害差別 ableism)に基づく偏見が、質の良い長期ケア(LTC)は持続可能でなく、若い世代が負担する支出に対し、高齢者が不均衡な利益を享受しているとの誤解につながっている。高齢者に対するこのような偏見は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック期間中、特に介護施設在住の高齢者が必須の保健資材を使えず、感染予防や個人防御のための設備も活用できない事態を作った。高齢者に対する偏見は、世代間の対立を煽るだけでなく、世界全体のヘルスや経済にも悪影響を与える。年齢に対する偏見(エイジズム)は、就労日数の減少や保健医療費などで社会に何十億ドルもの損害を与えている。

対処すべきもうひとつの課題は、長期ケア(LTC)に対する経費削減重視で、トップダウンとさらに供給主導型の対応が蔓延していることだ。多数国の政府は長期ケア(LTC)の経費ばかりに焦点を当て、この分野に十分投資していないが、社会経済的開発投資として対応すれば、国内総生産と雇用レベルにかなりの投資収益率が見込まれるはずだ。医療と社会サービスをうまく統合できていない多くの国々では、不十分な資金や(情報や組織が孤立した)サイロ化した構造のために、人間中心アプローチ(person-centered approach)ではなく、トップダウン式の硬直化した長期ケア(LTC)がなされている。高齢者のニーズは分野横断的であるため、サービス提供者が、必要なサービスを統合する必要がある。しかし、個人の経験と人間中心のケアに対する評価は、しばしばサービスの内容ではなく、ケアの関係性と関連している。

これら社会的また政治的課題を解決するには、人権の視点を持ち、脆弱な介護制度の中でも、高齢者の権利を尊重し、高齢者の多様なニーズや好みに対応しうる介護サービスの提供を再考しなければならない。「高齢者に対する長期ケアに関するLancet委員会」は、WHOの健康な加齢(Healthy Aging)の枠組み【図】に沿った人間中心の長期ケア(LTC)を目指している。委員会は、老年医学、老年心理学、老年精神医学、老年学、看護、緩和ケア、プライマリケア、ソーシャルワーク、臨床疫学、医療経済、医療政策、各種規制などの専門性や様々な知識、ケアの現場からの豊富な支援を持ち寄っている。委員会は、長期ケア(LTC)の下に暮らした経験を持つ、さまざまな地域の高齢者のグループと共創して活動する。

2023年3月の最初の会合で、委員会は、科学的意見に準じた影響を与え、変革を進めるため、証拠に基づき、ケア実践、政策、規制、教育、研究を統合するための重要事項に焦点を当てると同意した。委員会は、政策立案者、サービス提供者、介護専門家、行政当局その他の関係者が、時間経過やそれぞれの状況に応じて変化する高齢者の多様なニーズや好みに耳を傾けるようになってほしいと考えている。また委員会は長期ケア(LTC)の重要課題も検討する。長期ケア(LTC) は、高齢者自身、親しい人、介護専門家、その他の重要な関係者らを含む全エコシステムとも関係するが、受け身でなく柔軟かつ積極的に対処するにはどうすればよいか?欠けているものではなく、その持てるものに焦点を当てて、高齢者の機能的能力を向上させ、エンパワーする最適法は何だろうか?高齢者が社会とのつながりを保ち、コミュニティの一員であり続けるには、物理的(技術的なものを含む)また社会的にどんな家庭環境が必要だろうか?

「健康な長寿のための10年」の間に、委員会は人間中心の長期ケア(LTC)のためのロードマップを策定し、能力低下が認められたり、そのリスクのある高齢者の機能的能力がある程度向上したりして、彼らの人権を尊重回復するために、尽力している。我々委員会は、高齢者が社会の中で正当な地位を獲得できるようにすることを切に願っている。文献省略」

今日から、広島サミットが始まっています。環境と健康は、経済や治安とともに、待ったなしのグローバルな問題です。

世界の高齢化・・・の問題は、とても深刻です。わが国は、高齢化の先端国ですが、このような問題に、何らかの良い示唆を提供できれば・・・と思いませんか?