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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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広島サミットで思うこと

長年、国際保健分野にかかわりを持ってきましたが、世界のどこでも知られている日本の諸々があります。大昔はゲイシャ(芸者)、ハラキリ(切腹)など、ちょっと待ってよ!と云いたい言葉もあったそうですが、私自身、ちょっと絶句したのは、アフガニスタンで、何度か、ロシアをやっつけたトーゴー(お若い方にはピンとこないでしょうが、日露戦争、日本海海戦・・・東郷平八郎元帥)礼賛を耳にした時で、時代を感じました。近年はヒロシマ、ナガサキ、オキナワ、そしてここ10年近く、フクシマが加わっています。

原爆死没者慰霊碑

第49回にあたる2023年ヒロシマサミットが終わりました。

何事にも、賛否両論あるは世の常です。が、核兵器廃絶という総論賛成、各論・・・的な、だれが考えても必須なことながら、実際に踏み切るには、難問だらけ、困難だらけの問題に対してしっかりと杭が打たれたことは否定できないと、私は思います。

ウクライナへの攻撃を継続するロシアが核兵器行使をちらつかせ、わが国の近隣でも核を含む兵器開発に熱を上げる国?人?が存在するなか、核保有4ヵ国(アメリカ・イギリス・フランス・インド)を含むG7国(アルファベット順にカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカ+EU)、QUAD(ラテン語の4、日本、アメリカ、インド、オーストラリア)や主催国日本が招待した、いわゆるグローバルサウスと総称される国々の中からのブラジル、コモロ、インドネシア、クックアイランド、ベトナム、そして新たな国際関係が再興されつつある韓国、さらに世界で最も注目されているウクライナを加え計16ヵ国の首脳と国際機関の長たちが、そろって原爆資料館を訪問し、たった40分とおっしゃる方もありますが、40分も展示をご覧になり、被爆者の小倉桂子氏から直々にお話を聞かれ、そろって記帳されました。皆、真摯なお言葉ではありませんか!

だから何?とおっしゃるおへその曲がった方もおいででしょうが、ヒロシマが新たな世界級認知を得られる大きなきっかけのサミットだと、私は確信しました。

恐らく、今年の8月6日のヒロシマ、そして9日のナガサキの、忘れてはならない日々に、外国からの訪問者がグンと増えるのではないでしょうか。なぜって、百聞は一見に如かず、です。政治家である各国首脳が、どんなメッセージを残されたにせよ、ここでご覧になったことで心が動かなかったことはないでしょう。ゴールは果てしなく遠いにせよ、人類が大きな一歩を踏み出す機会となったことと信じたいと思います。

今回のヒロシマサミットには、たくさん興味深いことごとがありましたが、私がオオッ!と思ったひとつは首脳パートナーたちが、岸田裕子首相夫人の案内で、世界遺産厳島神社を訪問され、舞楽「蘭陵王」を鑑賞されたことです。

「舞楽・蘭陵王」の像

蘭陵王は、北斉(550~577)の時代の中国の蘭陵という地の貴族のひとりとして実在した高長恭(541~573)のことです。この方の父高澄は、ひとつ前の時代東魏(534~550)の重臣でしたが、暗殺されてしまいました。その弟が高澄の仇を討ち、東魏の皇帝に禅譲を迫り、建てたのが北斉です。

長恭は、大人になってから戦い上手で功績をあげて、徐州蘭陵の王になります。蘭陵は、現在の山東省臨沂(リンイ)市あたりだそうです。さらに昇進し、并州(へイシュー、昔、存在したとされる中国の地域)の長官として、異族突厥(トッケツ)を何度も撃退、さらにその後、北周とも戦います。その際、兜と顔を護る鉄の仮面を外して素顔をさらし、味方だよと知らしめて勝利したという逸話が「蘭陵王入陣」という、当時のはやり歌になったそうです。これが変じて、唐(618~907)の時代になると、「優しげな美貌の将軍が、兵の士気を下げることを恐れ、常に仮面をつけて戦った」との伝説に転じたとか。ですが、戦い上手・・・というより戦略家として優れていた長恭ですが、最後は、よく理解できない理由で、帝から自殺させられます。勇敢で、美貌で、美声の武将、偉くなっても自立しており、頂きものはわずかでも部下に分け与えた優しさというか公平感の持ち主で、戦の功績で女性たちを与えられても一人だけを選び(女性をご褒美にした時代!!)、部下は縁故情実ではなく実力で選んだ、とても謙虚な伝説的な人物として、現在まで舞楽の主人公として伝えられています。

私は、関西にいた頃、奈良で、ちょくちょく舞楽を鑑賞しました。たまぁに劇場でもありましたが、『蘭陵王』は何度も観ています。舞楽って退屈・・・みたいですが、はまりますよ。雅楽とか・・・良く判りませんが、わが国古来の神楽の笛や和琴、外来の笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、笛といった管楽器と筝(そう)、琵琶(びわ)などの絃楽器、鞨鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓(しょうこ)、鼓といった打楽器が用いられます・・・と、付け焼刃の解説です。

さて、首脳のパートナーたちが、厳島神社をどのようにご覧になり、この美男で優しく、学芸に秀でていた悲劇の主「蘭陵王」がどのように解説され、そして、世界遺産の厳島神社の舞台で、大陸や朝鮮半島の影響をも受けてきたわが国の古典芸術をどのように鑑賞されたか、ちょっと気になっています。

いずれにせよ、2023広島サミットが機会となって、核廃絶そして武力による対決解消が少しでも進展すること、優しく学術的な交流がひろく世界に行き渡ることを切に切に願います。

事前の保健大臣会議はありましたし、岸田首相のランセット誌への寄稿(Contributed Article by Prime Minister KISHIDA Fumio to The Lancet)もありましたが、サミットの中には、あまり健康に触れた部分はなく、医療、看護の言葉もありませんでした。また、ウクライナだらけでしたが、スーダンもミャンマーも見えません。国際会議とは、そのようなものですが、首相が渾身の力を込めて述べられた「核戦争に勝者なし」「世界80億人が全員、ヒロシマ市民になったとき地球上から核兵器はなくなるだろう」を、如何に実現できるか、考えたいものです。
広島の皆さま、ご関係の皆さま、お疲れさまでした!!!!