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新しい紛争時代を危惧する。

“Foreign Affairs(FA、フォーリン・アフェアーズ)” という雑誌があります。

Foreign Affairs May/June 2023 Volume 102, Number 3

102年前の1921年に、アメリカ合衆国第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンの親友(最後は決裂!) かつブレーンだった、エドワード・マンデル・ハウスという人が第一次世界大戦後の世界情勢を検討するために行った “Inquiry(「大調査」と呼ばれるそうです)” に関係した知識人グループが、「外交問題協議会(Council on Foreign Relations, CFR)」というシンクタンクを創り、それが1922年来発刊している国際政治や外交問題に関する雑誌だそうです。

私の血液学や国際関連の師匠であったアルバート・アイシュタイン大学教授/モンテフィオーレ病院部長テオドール・スペード先生から、医学週刊誌の“Lancet”と“New England Journal of Medicine”と自分の専門分野の学術誌諸々他、“Science”か“Nature”か“Scientific American”、また“Time”か“Newsweek”そして“Foreign Affairs”を購読するよう、1978年に命じられました。この隔月刊雑誌は、字ばっかりで、実のところ、私には取っつきが悪いだけでなく、ピンとこなかったのですが、スペード先生からご下問があるので、やむを得ず、1980頃には購読しました。一昨年からネット斜め読み状態です。

1993年夏には、一世を風靡したサミュエル・P・ハンティントンの「文明の衝突 “The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order”」が載りました。一読して、オオオッ!と思いました。その後の1996年の「感染症の復活 “The Return of Infectious Disease.” L.ギャレット https://www.foreignaffairs.com/articles/1996-01-01/return-infectious-disease」以来、度々、感染症や保健関連論文論考も載りますので、留意するようになりました。そして、80年代末の紛争地勤務を機会に国際関係に関する論文も見る(読むと云うより・・・見る)ようになっていました。

その最新号2023年5月23日号に「スーダンと新たな紛争時代ー大国の地域的パワーポリティックスがいかに戦争を破滅化させているか? “Sudan and the New Age of Conflict. How Regional Power Politics are Fueling Deadly Wars” C.イロ & R.アトウッド」が掲載されています。毎度古い話ですが、1995年頃に厚労省厚生科学研究費で、「Complex Humanitarian Emergency(CHE、複雑な人道の危機)」をまとめました。1990年頃、東西冷戦構造が解消したことで、国対国の戦争は減ると予測されましたが、間もなく、一国内の対立勢力による武力闘争が頻発し、結果として悲惨な人道的危機が増えるという報告でした。FAの論文は、新たにそんな時代が再来するかとの危険性を警告しています。

過去1年以上、実際には459日目になるロシアのウクライナ侵攻に私たちはハラハラドキドキしてきました。加えて、台湾をめぐる米中間の緊張関係があります。厳しい言葉のやり取りだけでなく、実際に、戦闘機や戦艦が往来しています。見えない潜水艦やバルーンのような兵器も動いているでしょう。一触即発・・・とは申せませんが、これらの事態が大戦争あるいは核戦争を惹起する危険性はありましょう。4月に発生したスーダンでのCHEで、ほとんどの外国人は緊急撤退しました。私だけが安全だったら良い・・・ではなく、かつての紛争頻発時代再来にも留意せよと、この論文は世界のリーダーに警告を発しています。過去10年、アフリカ、中東、南アジアでブスブスとくすぶってきた地域闘争も大規模戦争に移行する危険性があり、現在は不安定で新たな紛争時代の先駆けかもしれないとしています。

そのスーダンですが、私は、1990年代末のWHO緊急人道援助部時代、紛争ではありませんでしたが、ダルフールの飢餓への救援を統括したことがあります。緊急援助は、短期間に効果が出ないと意味がないのですが、ダルフールは、現スーダン南西部の広大な地域で、今は南スーダンとなったかつてのスーダン南部、中央アフリカ、チャド、リビアに接しています。とにかく、ちょっとした群雄割拠的な武装集団時代で、なかなか通過させてくれない・・・ことにその地域を支援せず、別のところに救援物資を送るために通過させて頂くのは、かなり困難でした。そのため、スーダンの首都ハルツームからと、現南スーダンの首都ジュバからの2チームを送りましたが、スーダン各地にはいくつもの地域の話し言葉があって・・・とても、とても大変だった、と帰り着いたスタッフが皆、げっそりでした。

さて、FA論文は、スーダンの現紛争は長い経過があって、国内的には長期独裁制だけでなく、それから脱却しようとする民衆的動き、それらに複数の外国勢、それも必ずしも大国ではなく、ある地域の小部族と何らかの因縁をもつ国々であったりして、西か東かという単純なものではなく、内部要因を複雑化させている、関与者が多いために何度、停戦交渉しても実践はされないとしています。また、外部要因では、大国だけでなく、イラン、トルコその他湾岸中堅国の介入もしているとしています。

振り返れば、1990年初頭、一方の雄ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が終結した後、世界は民主主義と自由市場経済に対する希望がありましたし、確かに、SIPRI(Stockholm International Peace Research Institute、 ストックホルム 国際平和研究所 https://www.sipri.org/)のデータでも、90年代には国家間戦争も局所的紛争もその死者数も、1994年のルワンダ虐殺を除いて、減少しています。

が、スーダンの現状を作っているのは外部要因も大きいと指摘しています。それは、2001年、アメリカ同時多発テロ以後のアフガニスタン、イラクへのアメリカによる侵攻という武力介入(の失敗)が、アメリカへの国際信頼性を損なわせた結果、その後の諸々の出来事の原因を作っているとし、さらにイラク攻撃がイランと湾岸諸国の地域的バランスを崩し、イスラム主義武力闘争を再燃させ、最終的にイスラム国(ISIS)を台頭させたこと、アラブ蜂起によるリビア、シリア、イエメンの紛争、アフリカの新たな紛争は直接的には同時多発テロ後のアルカイダとの闘いではなかったが、結局は、ISISを含むイスラム主義の台頭を許した。そして、これらの新しい紛争には、いくつかは独裁支配脱出が頓挫し、リビア、ミャンマー、シリア、イエメン、チオピアなどでも、社会的不満やあまり有能でない独裁者の支配に対する潜在的怒りが経済混乱を来たし、社会不安を惹起した、街頭集会から始まった紛争もあるとしています。多く場合、独裁者が倒れても、国家体制は空洞化し、脆弱な制度故に、後の争いを抑えられず、闘争が繰り返えされている。人々は変革を求め、旧勢力は特権にしがみ付き、新興勢力は分け前を求め、解放された民族的宗教的人種的対立から分断が助長され、権力も資源も公正かつ満足のいく方法で活用分配できる解決策には至らない。スーダンの実態もそうだ・・・と述べています。

そして、最近の地域紛争は、スーダンを含め、住民への被害が大きい・・・それは、紛争当事者が国際法や人権を遵守できないからだが、その遠因は、2000年代の出来事・・・アメリカのイラク他の紛争地での無法感あふれる行動が現状をつくった可能性がある、今日の紛争では驚くほど無罪感があり、紛争当事者のすべてが戦争の規範=ルールブックを捨てたようだ、だから、都市空爆、病院・療所や学校への攻撃、援助妨害、飢餓飢饉の兵器化などが常態化している、と指摘しています。

さらに最代の変化は外国関与のありかたで、紛争干渉はこれまでもあったが、現在では、大国だけでなく、非西洋中規模国家が不安定な紛争国で影響しあっており、死者数を増しているが、この複雑な関与は世界的パワーバランスの変化による。つまり、ソ連邦崩壊後、一瞬、アメリカだけが比類ない力をもつ「一極支配」が生じたが、ソマリア、元ユーゴスラビア、ルワンダ、コンゴ民主共和国での残虐な紛争、アフガニスタンとイラクの戦争、以前のスーダンでの紛争も、その一極時代の産物で、現在も、確かに、アメリカは世界規模軍事力を行使できる唯一国だろうが、その世界が、もはやアメリカを突出した覇権とは見ていないがために、次に何が起こるかとの不確実性が不安定化をもたらしている。それぞれの地域大国が争いを広げ、どこまで行けるか探っている、各国対立は、それぞれ関係する国・・・大国が介入するが、決して地政学的ゼロサムゲームではないとして、例えばロシアとトルコの関係をあげています。

スーダンでも、一方にはアラブ首長国連邦とエジプトが付き、他方にはかつて湾岸諸国の戦闘に参加した時の関係国があり、さらにチャドや中央アフリカ共和国、サヘル地域全体ともつながっているという複雑さに加え、ウクライナでも活躍中?のロシアのワグネルグループやリビアも関係するなど、政治的な関係だけでなく、地のつながり、血のつながり的連携もあるようです。

困難なスーダン民主化は、こうして内外の問題によっていっそう困難になっているとしています。
同時に、「2021年クーデター以来のミャンマーの混乱、やや小康状態もあるが、アフガニスタン、リビア、シリア、イエメンなども停戦が実質的解決には至らず、長年の人道的危機となっている。スーダンも、このリストに加わるのかどうか・・・」

いずれにせよ、「現在の地域紛争は、過去のものよりも複雑で、ほとんどが単一外国勢力だけでなく、複数が当事者化しているため、ブスブスと持続する。そして後ろにいる戦争犯罪者はグローバル犯罪ネットワークや、時には市場を利用して戦争を維持する。戦場では、命がけのジハード主義者が主要当事者となると、和平づくりを複雑化するが、スーダンでも同様だ。今は、スーダン政府軍(SAF)と反政府人民防衛軍(RSF)という2勢力の対立だが、他の勢力も巻き込まれ、他の元反政府勢力、他の民兵組織も自己防衛に動員されるかもしれない。危機が長引くと、アルカイダやISISとつながる過激派介入の危険性もある。さらに、長期化すれば、今でさえ約1/3の人口(1,500万以上)が緊急援助に依存している危機状況が隣国にも波及し、スーダンからの避難民や脱走する戦闘員に対処できなくなる可能性も出る。また、全世界貿易の約10%が通過する紅海という重要な海上交通路に面しているこの国の秩序崩壊は、さらに世界的に広範囲に影響する」と警告しています。

世界の人道支援システムが限界に追い込まれ、多くの国がウクライナ紛争とその波及効果に取り組んでいる間に、世界は別の壊滅的な戦争を余儀なくされるかもしれない・・・

先日のG7の意味を、もう一度、かみしめたいものです。