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念願の北欧研修第1班!日本財団在宅看護ネットワークの活動

2014年に開始した「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業の、8ヵ月間の研修は2020年度で終了し、現在、100名弱の研修修了生が29都道府県で、訪問/在宅看護事務所および支店やサテライト他、看多機、ホスピス、居宅介護他諸々の事務所総計159施設を稼働させています。

これら修了生ネットワーク(NW)全体の月間訪問件数は平均58,750、年間705,000です。雨の日も風の日も、新型コロナ嵐の日も、猛暑続く中でも・・・24時間、365日、彼らは黙々とケアを行ってまいりました。

各地で「看護師が社会を変える!」にはまだ至ってはいないかもしれませんが、「看護師が地域社会を護る!」に近づいていると感謝しています・・・と云うのは、仲間がお世話したご家族から、財団に感謝の意やご寄付を頂いていることからも実感させて頂いています。

世界中がコロナで混乱しましたが、財団では、2023年度から起業家育成研修第2弾として、NW内の実績ある管理者の事務所でのon the job training(OJT)研修を試行しています。その経過を見て、来年には、さらにしっかりしたOJTが可能かと思っています。ご関心の向きは、財団のメルマガに是非ご登録下さい。(メルマガのご登録はコチラから

地域の看護師が多く遭遇する高齢者、そして今後対策が必至の子どもや母性などなど、他の国の実態を見聞し、従来の治療分野のみならず、予防や生活の場における広いケア分野に看護がどう関与できるか、すべきかを考える機会として、今回、コロナパンデミックで延期していた北欧研修を実施しました。いずれ、報告書を作りますが、まず、私的な感想です。

今回はフィンランドとデンマークです。「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業研修修了後の起業者6名と、起業者推薦を受けたスタッフ3名、それに日本財団と笹川保健財団から3名、計12名です。このような研修を今後も継続するための土台作りで、本研修の骨格を作るため、あえて参加者数を限定しました。企画は、年度前半から、フィンランド研究中の日本人看護師との交流から始めました。2ヵ国を訪問した理由は、かつての国際保健稼業中に気づいたことですが、外国!を一ヵ所だけ経験すると、以後、その国に執着しすぎる懸念を経験していたので、短時間でも最低2ヵ国・・・としました。

フィンランドは1位、デンマークは2位・・・とは何でしょうか。
幸福度です。ちなみに日本は47位。幸福度って測定可能か・・・と私は思ったりしますが、「世界幸福度ランキング」なる指数があります。それによると、世界幸福度調査(World Happiness Report 各国約1,000人の生活に関して0~10の11段階で行う幸福度<感?>評価)と、過去3年間の平均生活評価の結果から、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(Sustainable Development Solutions Network: SDSN)が判定しているそうです。この2023年度世界幸福度ランキングは、2020~2022年を対象としていますので、世界を席巻した新型コロナウイルスパンデミックの影響も、去年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻の影響も含まれているはず。そのロシアと長い国境を接しており、かつてはその管理下にあったフィンランドは今年4月にNATOに加盟しました。そして幸福度1位!

わが国では、2025年問題として超高齢社会到来がやかましく云われてきました。おさらいですが、65歳人口が総人口の7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」です。人口ピラミッドを見ると、世界中が高齢化していますが、日本の高齢化率は29.9%(世界第2位、第一位はモナコの35%)、フィンランドが23.3%(第4位)、デンマークは20.5%(第20位)(「世界の高齢者人口(65歳以上) 国別ランキング・推移」グローバルノート – 国際統計・国別統計専門サイト)、少子化・・というか合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数と考えられる)は、日本が1.39、フィンランドが1.74、少し回復したとされるデンマークが1.77です。(“Total fertility rate” CIA)一人の「子どもをつくる」には男女二人が必要ですから、この数字が2以下では人口は増えません。今や高齢化も少子化も世界的な問題です。どの国も避けられない、いわば隠れた社会的危機と、私は思っています。

さて、訪問した両国は人口がそれぞれ約540万と日本の1/20以下、人口密度はフィンランドが16人/平方キロメートル、デンマークは127人/平方キロメートルと日本の340人/平方キロメートルに比し、広々というか、スカスカしています。が、いずれの国も都市化は85%前後と、日本の66%に比し高く・・・つまり都市以外の居住者は極めて少ないことになります。多分、色々な施策も、都市部の制度・体制が整備されれば、人口の大半はカバーできます。もちろん、それが超過疎地の切り捨てにつながるリスクはあるにしても・・・そして高齢化率は、フィンランドが22.1%、デンマークは20.5%です。

手術手技といった技術的なものは、文化・習慣が異なっても、専門家間で理解すれば移転出来ることがほとんどですが、高齢者への支援、妊娠・出産、育児といった生活と密着したケアは、ある国でうまくいっているからといって、直ちに他の国に移入することはかなり難しいと思っています。かつて働いた途上国の地域社会で、予防接種という未来の健康保障のために、今、針を刺すことの是非を長老に理解してもらうに随分時間がかかりました。ま、今回、色々、入り口的に学習できたと思いますが、参加メンバーが、それをどうクック(料理)して下さるか、楽しみです。

北欧・・・といえば、高い税率もあります。最近問題になった国民負担率(個人や企業の所得に占める「税金=所得税、法人税、消費税」や「社会保険料=年金、医療・介護保険料」の負担割合)では、日本も47%と低くはないのですが、デンマークは何と65%、フィンランドは59%と収入の半分以上を提供しているのです。(国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)財務省)さらに、デンマークの一般消費税率は25%・・・実質1,000円の品には250円の税金が課せられています。しかし、だからこそですが、両国とも教育や医療保健・介護サービスは全額無料です。が、お一人お二人うかがった現地の方の税金への印象は、やはり、ちょっと高い!!という感覚をお持ちのように思いました。気分的に、もですね。

具体的な訪問場所を簡単に申します。
フィンランドでは、近年、わが国でもよく知られるネウボラとドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence/DV 明確な定義はないが、配偶者ほか親密な関係にあるかまたはあった者からふるわれる暴力<物理的だけでなく精神的なものも含む>)のシェルター(避難所)、国立THL(Finnish Institute for Health and Welfare)と、デンマークでは高齢者施設を訪問しました。見学するだけでなく、関係者から解説をうけ、積極的な意見交換も致しました。たった1週間ではありましたが、相手国からとともに、同行した仲間からも色々学ぶところもたくさんありました。その結果の私のふたつの個人的感想です。

ネウボラにて(フィンランド)
Finnish Institute for Health and Welfare(THL)にて

北欧2カ国では、教育と福祉・保健・医療サービスがおおむね無料で、普遍的に国内に行き渡っていることは素晴らしいのですが、わが国のように、何時でも、何処でも、誰でもが、比較的簡単に(あるいは安易に!)受診できる体制はない・・・医療の恩恵を受ける濃淡が違うと思いました。わが国でも、安易な病院ショッピングは許されなくなりましたが、そこには人々の健康というより、「老い」や「死」に対する考え方の違いがあるようにも感じました。あくまで「感じ」・・・です。科学的ではありません。

もう一点は、これら2ヵ国では、私自身がもってきた保健医療専門職の機能が、「医療=病気を治すこと、Cure」から、人々の健康な生活を護るという次元に移行しているとの感触を持ちました。もちろん、診療の場である病院や地域医の存在はあります。が、医師や看護師が病気を治すだけの人ではなく、これは地域医療の中においても積極的に、健康な生活・・・身体的精神的そして社会的に健やかさを護ること、公衆衛生的と云うより福祉・・・welfare的活動に移行しているのではないか・・・との感想を持ちました。両国や似た文化を持つ国の医学、看護学、公衆衛生や福祉の教育体制を学びたい・・・学ばねばならないのかも・・・と思っています。