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ルフィとブルック

先週末から今週にかけて、熊本県でSasakawa看護フェローの地域研修を行いました。

Sasakawa看護フェロー海外留学奨学金の留学先は、当面、アメリカ・カナダですが、Public Health公衆衛生、Global Health国際保健、Population Dynamics人口動態、Bioethics生命倫理、Biostatistics生物統計学、そして看護学Nursing Scienceなどなど、保健分野の各領域で世界トップ10にある大学院で修士または博士号を取得する、日本の看護師免許をもった人々の支援を目的とした奨学金です。新型コロナのさなか、2021年に開始しましたが、実際の留学は2022年度からです。昨年秋に3名、そして本年は5名が、ワシントン大学、イリノイ大学、デューク大学、ハーバード大学、コロンビア大学、ジョンズホプキンス大学、エモリ―大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のそれぞれの大学院で、修士や博士号を目指しています。

この奨学金は、最大で授業料10万米ドルを、博士課程では3年、修士では2年、それに1ヵ月10万円の生活費と1往復分の交通費が出ます。急激な円安で、ちょっと慌てましたが、それ故のリッチさを誇る支援ではありません。ユニークなことは、フェロー期間中に、ごくごく当たり前の看護教育で接することがなかった異分野の専門家の講義や、日本の各地、地域研修などを行うことです。そしてその地域での研修は、この事業の母体でもある「日本財団在宅看護センター」ネットワークとの連携で行っていることです。

前置きが長くなりましたが、今年の地域研修は熊本県、フェロー6名が参加しました。
初日、水俣市を訪れました。かつて「4大公害病」・・・水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病そして四日市ぜんそく・・・という呼び名が定まった所以<ゆえん>の環境汚染の経過、その後の対策を学びました。

水俣病は1950年代以降に判明しました。同地の化学工場からの廃液に含まれたメチル水銀が水俣湾に流れ込み、そこからの魚介類の摂取した人々に手足や口のしびれから始まる痙攣が発症し、死に至る方々も出ました。現在の水俣湾は、とても美しく、かつての出来事が信じられないほどですが、国の開発・・・工業化によって環境破壊が生じ、人々の健康が侵されることは、新潟水俣病でも富山の神通川流域のカドミウムによるイタイイタイ病でも、三重県四日市の石油化学工場からのばい煙中の亜硫酸ガスによる空気の汚染でも同じです。新米医師の頃に見た、ばい煙による酸性雨で斑点が出来たアサガオの葉っぱの写真を思い出します。フェロー達が生まれるはるかに昔の出来事ですが、今夏の猛暑、各地の豪雨渦、水害とかつての公害病は決して、別々の話ではないことも実感したようです。

2日目は、熊本県で「日本財団在宅看護センター」を経営している4名の内、上益城郡御船町の在宅看護センター上益城「たのも訪問看護」(在宅看護研修4期生中原貴子氏)と、熊本市東区の「しろ訪問看護ステ―ション」(同7期生白藤尚美氏)の二つの事業所を見学し、また、それぞれの訪問に同行させて頂きました。看護は看護・・・なのですが、急性期を扱う大病院とやや過疎な田園あるいは地方中核都市にある自宅という生活の場での療養における看護を経験しました。生活と密着したケアの実態・・・を、短時間ですが、大いに勉強できたようです。

3日目は、熊本県合志市の国立療養所菊池恵楓園の資料館を見学しました。
結核菌同様、弱い好酸菌の一種らい菌感染で発症するハンセン病は、現在のわが国では年間3、4名以下の発症です。そして初発の皮疹で診断されると直ちに化学療法が開始されますので、医学的には対処可能なのです。しかし、ハンセン病問題は終わってはいないのです。

かつての強固な「隔離政策」によって、全国13の国立ハンセン病療養所での生活を余儀なくされた人々の今日に至る生活とその無念の想い、差別偏見は病原体が起こす病気ではありません。らい菌という病原体による医学的不健康は対処可能になったにもかかわらず、私どもの心の中に原因がある差別や偏見・・・無意識のうちに行うそれ、あるいは無知無関心・・・知らなかったという言い訳を含めて、「社会的不健康」は今も解消はされていません、病気に対する偏見、差別は、ハンセンに留まりませんが、その究極がこの病気だったことを、療養所の歴史をなぞることで意識しました。隔離=差別ではないのは、新型コロナでも同じですが、ハンセン病においては、他人が、縁者が、家族すら行ってきた差別という社会の不健康は、未だに、解消はしていません。

最終日には、ご多忙の中、蒲島郁夫知事と木村敬副知事を表敬しました。行政の長と面談することはめったにないことで、皆、ちょっと緊張しましたが、お二方から、熊本の解説、そして看護や研修についてもご下問頂き、良い思い出となりました。

と、今回のSasakawa看護フェローの地域研修のご報告でしたが、私の時代遅れを告白します。
上益城郡の「たのも」の近くには恐竜博物館があります。生憎、月曜日は休館日だったので、近くの公園の「ブルック」像に会いに行きました・・・私は「!!!???」

ついで、知事表敬のための県庁の前には、「ルフィ」像。
同行したSasakawa看護フェローたちに、特訓を受けました。熊本ご出身の漫画家尾田栄一郎氏の人気漫画「ONE PIECE」は100巻以上もあるそうですが、2016年4月の熊本地震被災地の復興のための「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」として、2018年11月に熊本県庁前に設置されたのが「ルフィ」、2020年11月には熊本市動植物園に「チョッパー」が、熊本県内市町村には「麦わらの一味」像が設置されているそうで、阿蘇市の「ウソップ」、高森町「フランキー」、益城町「サンジ」、大津町「ゾロ」、西原村「ナミ」、南阿蘇村「ロビン」、そして私が初めて見た一味の「ブルック」は、音楽大学がある御船町・・・と云う次第。いずれも、熊本復興を後押ししているそうです。無知は恥ずかしい・・・だけでなく、せっかく見ても、面白さが足りない・・・反省しました。まず、年末に、100巻を読破したい・・・と思っています。「くまもん」に、「しっかり勉強してから、も一度来たらよかモン!」と云われそうですが・・・

熊本県知事表敬にて