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ヒトはなぜ争うー『戦争と人類』を読んで

紛争地での保健事業に関与した仲間から、以前、グウィン・ダイアー(Gwynne Dyer)の『War: The Lethal Custom(戦争:致命的習慣)』という本を勧められたことがありました。

グウィン・ダイアー(Gwynne Dyer)氏は1943年、第二次世界大戦(1939-1945)中に、当時はイギリス植民地だったカナダ北東部のニューファンドランド自治領で生まれています。現在はロンドン住まいだそうですが、レトロで終末期に向かっているこの世代の私の知人には、当時の日本国領だった朝鮮半島や中国東北部、まれに東南アジアや南米生まれもいます。ちょっとグローバルです。

ダイアーが生まれたニューファンドランド一帯には、従来の固有民族が居住していましたが、中世、バイキングやヨーロッパ人が進出、侵入でしょうか、色々あって1854年から大英帝国植民地、1907年にはその自治領となり独立しました。で、第一次世界大戦はでイギリス軍として戦ったのですが、この地の勇猛な若者たちの1/4が戦死、戦後の経済不況もあって立ち行かなくなり、独立を返上してロンドン市直轄植民地に逆戻りしています。その後1949年3月31日にはカナダ領となったのですが、カナダ加盟派と反対派は50.50対49.50の僅差と、その後も色々難しいことがあったようです。

War: The Lethal Custom

で、生まれはイギリス人でしたが、6歳以降はカナダ人のグウィン・ダイアーはまずカナダニューファンドランドメモリアル大学で歴史の学士号を得た後、アメリカテキサス州のライス大学で軍事史修士号を、さらにイギリスオックスフォード キングス・カレッジで歴史学博士号を取得しました。実戦経験はないようですが、カナダ、アメリカ、イギリスの海軍予備軍にも所属しています。他国の軍隊に属するって、単一民族の日本人の私にはちょっと理解できない感もあります。また後には名門イギリスロイヤル・ミリタリー・アカデミー・サンドハーストで戦争研究を教えています。イギリスとカナダは不可分の連邦ですが外国は外国、外国つまり「敵」になるかもしれない国で戦争研究を教える・・・
最初、70年代にイギリスの新聞で中東の紛争関連記事を書き、やがて戦争関連の書を出版していますが、その代表作が『戦争』です。以前、知人から教えられた時に調べたら結構でっかい本だったので手を出せず、そのまま忘れていました。

2021年にイギリスの出版社が「最も短い歴史(The shortest history)シリーズ」を出し、その1冊として『The Shortest History of War』(最も短くまとめた戦争の歴史、翻訳『戦争と人間』)が出ました。その翻訳本ですが、新書版350頁ほど、先史時代からの世界史のおさらいでもありました。

それにしても有史以来、戦いのない年はほとんどありません。紛争関連が仕事である所以かもしれませんが、何と人間はばかばかしいことをしているのでしょうか?

本書の後書きには、2022年3月にこれを書いているとありますので、その1ヵ月前に始まったロシアのウクライナ侵攻や、2024年1月28日に突然起こったパレスチナ・ガザ地区拠点のハマスが仕掛けたイスラエルへの攻撃、その報復として始まったイスラエルのガザ地区への執拗な攻撃は本書にはありません。ちょっと脱線しますが、パレスチナ・ガザ地区の、これ以上壊せないほど壊された地域にくわえて、シリア国境に近いヨルダン国にあるアメリカ軍基地「タワー22」が、ハマスとも関連しているとされるシリアのヒズボラやイラクの〇〇とかが攻撃したとか関与したとか、アメリカ本土から巨大な爆撃機を飛ばして、30分間に数十の拠点を攻撃したと。

なぜヒトはヒトを襲うのでしょうか。
「ウクライナ-ロシア戦争」の正確な死者数も負傷者数もそしてこれによって人生が変わってしまった人々の数は敵味方合わせて不明です。勝ったとしても傷ついている身体だけでなく、致命的に病んでいる心もたくさんあります。まして家族が殺められた子どもや若者の精神的な負担の深さは想像もできません。

戦争と人類

この本は、人類の歴史を追って、さまざまな戦争を多角的に解説していますが、そもそもの戦いは動物世界にもある・・・でも、万物の長である人間は、修得した知識、技術を行使して、イクサの規模を爆発的に巨大化した上、繰りかえしている・・・核兵器が蔓延し、地球上の半分あるいは全部が絶滅すかもしれない危険もある今後の戦争の危険性が判っていて、なぜ、止められないのでしょう。

国立アメリカ空軍博物館
今も展示されているカミカゼ爆撃機
 (アメリカ国立空軍博物館HPより)

私の紛争関連経験は、幼時、第二次世界大戦時の空襲警報、不気味なサイレンの音、防空壕への避難、B29という訳も判らない言葉へのおびえでした。後にそれはアメリカの爆撃機だと知り、さらに後年、アメリカオハイオ州デイトンの米空軍博物館でその実物と、同時に展示されていたあまりにも小さくてけなげに見えた神風特別攻撃隊の爆装航空機を見た時の戦慄を思い出します。神風特別攻撃隊、アメリカからは最も効果的な「武器」と怖れられたそうですが、その飛行士たちは皆若者でした。
カミカゼとB29は、福岡県朝倉郡筑前町の町立太刀洗平和記念館にもあります。ぜひ、お訪ね下さい。

筑前町立大刀洗平和記念館
(〒838-0814 福岡県朝倉郡筑前町高田2561-1)

思い出すのは、ぼんやりと明るくみえた2、30キロメートル近郊にあった軍需工場への焼夷弾攻撃、不気味な爆音で低空を飛行し、落としたドラム缶が近くの線路上に落ち、何度も弾みながら、刈り取られた田んぼに収まったのを見に行きました。そしてヒロシマ、ナガサキ。戦後の引揚者、蚤や虱、寄生虫は日常生活の一環でした。傷痍軍人、駐留米軍とパンパンとよばれた戦後の混乱期を象徴する米軍相手の街娼。日本では慰安婦とは申しません・・・米軍からの余剰食料品を売り、日本側からは旧家にあった民芸品や和服を米軍に売りさばいて生き延びた知恵、商売気のあった大人たち。

40代になって従事したアフガニスタンやアフリカの紛争地での保健医療協力での飢餓や不衛生や子どもの死、自らの経験をなぞるような紛争地。タタカイは勝っても負けても良いことは皆無です。。

ダイアーは「戦争は私たちの歴史の一部だが、それは私たちの先史時代からの-つまりDNAに組み込まれた-ものではない。人間が戦争という手段を獲得したのは9,000~11,000年前、最古の文明社会を形成した頃に獲得した革新的事態」と指摘しています。「遺伝子にくっついたものではない、修得し創り出したものだから変えることができる」とも発言されています。

しかし、熱い戦争、冷たい戦争の後の戦いは、テロという卑怯な形が増えました。表向きの軍事対決ではない、裏向き、こそこそ戦争でしょうか。その究極は2001年の9.11だった。そしてその経過のおおよそが解明されたにもかかわらず、世界は良くはなっていないのです。

ダイアーは、これからの戦争は、核兵器と新たな大国と地球温暖化が関係すると指摘しています。地球温暖化、なぜ?ですが、食物生産がいびつになり、民族移動が起こるかも・・・と考えると戦争の原因としてありうることが理解できましょう。

どうしたら良いのか、興味深いけれども余計気が重くなった『戦争と人間』の元々のタイトル『War: The Lethal Custom』は、『戦争 人殺しの習慣』というのが本当の意味かもしれないと思いました。

能登の自然災害・・・自然との闘いもあります。こちらは人知、人倫、人道の世界・・・私たちも動きます。