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主治医の性別と患者の予後―在宅/訪問看護師の性別と利用者のQOL

医師といったら男性を想定する方が、まだ、多いかもしれません。ウン十年前、私が医学生だった時は地方の公立大学のクラス40数名中、女性は5名でした。女子大になったみたいと揶揄されたのは、少数でもやかましかったからでしょうか。そしてそれぞれ1年上と下の学年の女性は1名でした。

数年前、私立の医学部で女性の合格者数を制限していた問題があらわになったことも思い出しますが、ごく最近の厚生労働省の「令和4(2022)年の医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(PACOLAニュースより)では、「日本全国の医師数は、令和4(2022)年12月31日時点で 343,275人で、男性医師262,136人(全体の76.4%)、女性医師は81,139人(23.6%)で、全体として前年比1.1%、具体的には3,652人の増加。全国平均人口10万人あたりの医師数は274.7人と前年から5.5人増えたとしています。

令和5年度医学部(医学科)の⼊学者選抜における男⼥別合格率
について (合格者数/受験者数)文部科学省の資料より

しかし、医療施設に勤務する医師数は327,444人と全体の95.4%で1.2%増加した一方、介護老人保健施設やその他非医療施設で働く医師は減少傾向で、それぞれ3.1%、2.5%と減少しているとしています。そして医療施設で働く医師の性別は、男性が250,064人で微増したに対し、女性は77,380人と前年比4.8%も増加したそうです。なお、年代別では30~50代の医師が最多ですが、男性医師は全年齢層で女性医師よりも割合が高いのに対し、29歳以下では女性医師の割合が高まっているのだそうです。診療科別の総数は、内科が最多、次いで整形外科、小児科の順ですが、内科は男性医師が特に多く、女性医師は小児科や眼科に多く、平均年齢では、肛門外科が最も高い平均年齢、救急科が最も若い平均年齢だそうです・・・

医師の性別がどうした・・・ですが、先ほど、興味深い論文が発表されました。

論文は、“Annals of Internal Medicine(内科学の記録)”というアメリカ内科学会が、1927(昭和2)年から発行している、研究者にとっては気になるインパクトファクター(専門分野でその論文がどれくらい影響力を持つかの指数)の高い雑誌に掲載された“Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates by Physician and Patient Sex(入院死と再入院率における医師と患者の性別の比較)”です。

Annals of Internal Medicine HPより

著者は日本人ですが、その最後に津川祐介先生のお名前があって、かなり以前ですが、素敵な津川先生にお目にかかったのです。タイトルとともにそれで関心が高まったのはミーハー的ですね。

Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates by Physician and Patient Sex(Annals of Internal Medicineより)

内容は、患者が女性で主治医も女性の場合、わずかだが経過が良い可能性を追跡調査で証明したというのです。実は、この論文の大本は、2017年に津川先生がJAMA(Journal of American Medical Association 1883年来、アメリカ医師会が年48回発行する臨床的に最高位 の雑誌)に報告された“Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare Patients Treated by Male vs Female Physicians 男性/女性医師が治療したメディケア(アメリカの高齢者保険)患者の入院死亡と再入院の比率の比較”の続編で、この時は、主治医が女性の場合、患者の入院死亡率と再入院率は男性主治医の場合より低いことが判りました。

今回の検討は同じような調査ですが、主治医の性別と患者の性別がそれぞれ経過にどう関連しているかを改めて追跡評価するため、新たに後ろ向きコホート(起こったことを改めて振り返り調べる集団)をつくり、メディケア下で治療を受けた75万人ものデータを調べられました。判明したことは患者の約30%は主治医が女性でしたが、主治医が女性だった女性患者では30日間の入院死亡率が有意に低く(-0.24%)、また30日間の再入院率も低かった(-0.48%)というのです(統計学的調整済)。残念ながら、男性患者では主治医の性別が有意な影響を与えていなかったのです。

Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare Patients Treated by Male vs Female Physicians(JAMA HPより)

その翌日、今度は、しばしば引用するNEJM(New England Journal of Medicine<1812年にマサチューセッツ内科外科学会によって発行された世界最古の権威ある英語医学雑誌>)のJournal Watchという、他ジャーナルに掲載された論文を短く論評する欄に、上記論文が取り上げられているのに気づきました。こちらは原題をもじって、“Is Hospital Mortality and Readmission Affected by the Sex of the Physician or Patient?(入院死亡と再入院率は医師や患者の性別に影響されるか?)”ですが、論評しておられるDaniel D. Dessler博士は、膨大なデータを検討し、主治医も患者も女性という組み合わせの場合の経過が「少し」良いこととともに、主治医が男性であっても以前より予後は良くなっており、男女患者間の差が小さくなっていることは良いこととし、さらに主治医が男性の場合の女性患者の予後が良くないという事実こそ、なぜ、そうなのかを突き止めるべきであると鋭い指摘をなさっています。そして、医師と患者の性別の組み合わせ問題を意識することによってその差が縮まるのではないか、差を縮めないといけないとも指摘しています。

この論文を読んで思ったことです。
在宅/訪問看護師は、施設勤務の看護師に比較して、男性看護師が多いのですが、在宅ケアの際のケア担当者の性別は何か関係があるのだろうか・・・です。ただし、医療施設では、家族の関与は限定されていますが、在宅では、入院治療時の医療者介入に比べて、恐らく、家族やひょっとしたらご近所の関与量も多いのではないか、病人、治療を受ける人への医療者や家族の関与量とそのジェンダーはどのように本人の予後や生活の質(Quality of Life)に関係しているのか・・・独居老人が増え、少子化が進むなかで、終末期における家族、近いお付き合いの人々の意味をどう考え、どう対処するか・・・・
在宅看護、在宅ケアのなすべきことは果てしないですね。