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スウェーデンのMPOX、パレスチナのポリオ

スウェーデンで、感染力と病原性が強いらしいMポックス(以前サル痘と呼んでいましたが、monkey pox・・・から、現在はMpoxと呼ばれます)が見つかったとの報道です。(“WHO confirms first case of new mpox strain outside Africa as outbreak spreads” Reuters August 16, 2024

ほんの数日前には、WHOのテドロス事務局長が、コンゴ民主共和国(DRC)とアフリカの多数国でのMpoxの急増は、国際保健規則(2005 IHR)に基づく国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)になりうるとの警告を発したばかりでした。
WHOは、8月14日に、感染国の専門家から提出されたデータを検討するため緊急的にIHR緊急委員会を開催し、その助言に基づいての緊急事態宣言でした。委員会はWHO事務局長に、現在進行中のMpox急増は国際的な公衆衛生上の緊急事態でアフリカ諸国にさらに広がり、時によってはアフリカ大陸外にも広がる可能性があると伝え、WHO事務局長はその助言に基づいて各国に暫定的な勧告を発したのでした。

Mポックス(サル痘)を、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言したWHOの報告

テドロス事務局長は緊急事態宣言を発するにあたり、「新たなMpox系統が出現し、コンゴ民主共和国東部から急速に近隣諸国数カ国にも広がりつつあることは非常に憂慮すべき」とし、同国と周辺諸国での他のMpox系の発生を阻止し、さらに人命を救うための国際的協調が必要なことは明らかだ」と述べています。(WHO 2024年8月14日 ニュースリリースより)

旧知のWHOアフリカ地域事務局長マシディソ・モエティ博士は、まもなく地域事務局長2期目を終えるはずですが、まだまだお忙しいようです。彼女は「地域社会や政府と緊密に協力して、すでに重要な取り組みが進められており、各国のチームは最前線でMpox抑制対策の強化に取り組んでいます。ウイルスの感染拡大に伴い、各国が流行を終息させるのを支援するため、協調的な国際行動を通じてさらに規模を拡大しています」と述べています。

mpoxの症状(BBCより)

いずれにせよ、緊急委員会の委員長は、「アフリカの一部で、現在〈〈サル痘〉〉が急増し、また性感染性の新種の〈〈サル痘〉〉ウイルスが蔓延することはアフリカだけでなく地球全体にとっての緊急事態だ。かつて、アフリカで発生した〈〈サル痘〉〉流行が無視され、その後2022年に世界流行をきたしてしまった。この歴史を繰り返さないように、きちんとした行動をとる時が来た」と述べています。かなり素早い警告発出でした。

Mpox・・・そもそも〈〈サル痘〉〉の最初は1958年に北欧デンマークで実験用サルから見つかりました。一見、天然痘の発疹pox類似の発疹なのでサル=monkeyのpoxと呼ばれたのでしょう。ヒトの最初は1970年、現在も発生が続く当時のザイールの9か月の男の乳児でした。86年には世界で40人、内36人がザイール、さらに6年後の1992年に12人増えたところで、この国は紛争状態となり調査は中断しました。1997年、クーデターでコンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo、通称DRコンゴ)となった後、調査が再開されました。WHO本部緊急人道援助部にいた私はその経過にかかわる機会を得たのですが、1999年には感染者が千名を超えていたのです。紛争で保健施設が荒廃して感染症が増えたのか、あるいは紛争を逃れるために熱帯雨林に逃げ込んだ人々がポックスもちのサルに接したのか・・・破壊された診療所の床に座ってそんな話をしたことを思い出します。

そして2022年の世界的広がりに今回の緊急宣言、そしてスウェーデンへの波及です。

2022年7月には、アフリカの複数国でMpoxが発生し、それまでなかった国々への広がりは性接触を介した急速な拡散だとされ、今回同様、国際的な公衆衛生上の緊急事態宣言がなされました。が、割合、制圧されたことで2023年5月に終息宣言されたのです。そして1年3か月後が今回です。

いずれにせよDRコンゴでは確実に10年以上もMpoxが増えています。特に昨年の報告数が大幅増でしたが、今年は既に昨年を超える15,600発症者と死者537人が報告されています。そして昨年には、DRコンゴで急激に広がったのは新たなウイルス株(系統1b)で、これは主に性接触で広がったと考えられたことも、今回の国際緊急事態宣言の主な理由とされています。つまりDRコンゴに隣接するブルンジ、ルワンダ、ケニア、ウガンダ4か国ではこれまで発症報告はなかったのですが、たった1か月の間に新たな株1b感染症例が100 件以上も確認されたのです。しかも専門家は、臨床的診断でされている症例の大部分では検査がなされていないため、実際の感染数はこれよりも多いと指摘しています。

スウェーデンでは、公衆衛生当局がアフリカ大陸以外で初めてより危険なタイプと考えられるMpoxと診断したことで緊張が高まっているようです。関係者によると、感染者は大規模流行地であるアフリカ地域に滞在中に感染したとしていますが、このニュースが報じられたのはWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言したほんの数時間後でした。スウェーデン公衆衛生局関係者によりますと、感染者はストックホルム地域で治療をうけているが、そのことが同国の一般住民に危険があることを意味するものではないとしています。

以前はサル痘と呼ばれていたMpoxの感染経路は、感染動物に咬まれること、感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)と接触することでの感染が確認されています。自然界ではげっ歯類(ネズミ目)が宿主と考えられていますが、自然界でのウイルスのサイクルは現時点では不明だそうです。本来、ヒト-ヒト感染は稀だそうですが、濃厚接触者の感染やリネン類を介した医療従事者の感染も報告されており、患者の鼻腔、口腔からの飛沫・性交渉さらに発疹部位を介した接触感染があると考えられています。国立感染症研究所のHPにありますが、通常、感染してから症状がでるまでの潜伏期間は5~21日(通常6~13日)、その後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、さらにその後に発疹が、典型的な場合は顔面から始まり体幹部へと広がるようです。(国立感染症研究所HP「エムポックス」

エムポックスに関する注意喚起(外務省 海外安全HP)

発疹は、初期は平坦ですが、次第に水疱(水ぶくれ)、膿疱(膿がたまる)化し痂皮(かさぶた)化した後、発症から2~4週間で治癒するそうです。発疹は皮膚だけではなく、口腔、陰部粘膜や結膜や角膜にも生じることがあり、初期には水痘(水ぼうそう)や麻しん、梅毒などのとの鑑別が困難なこともあるそうです。Mpoxはリンパ節腫脹の頻度が高く、類似した皮膚病変を示す天然痘との鑑別に有用・・・ですが、どちらもわが国はないか、きわめて稀・・・・

25年以上昔、私がDRコンゴで聞いた時には、めったに死なない感染症でしたが、今後はどうでしょうか。

予防は、可能な限り、流行地にゆかないことと、あくまで危険な行為をしないことでしょうか。ただ、毎日というより24時間、飛行機が世界中を飛び交っている中、どこで感染者と接するか、予測は不可能です。不幸にして、感染者が出た場合、濃厚接触者にはワクチンを接種することでしょうか。現在、Mpox用ワクチンには2種類があるそうですが、最もそれを必要としている国々がそれを購入し、適切な制度で末端部にとどけ、適正に投与するための資金や制度を保持していないかもしれません。

この数日の間、目に留まったもう一つの感染症はパレスチナ ガザ地域でのポリオ発生です。三十数年前、パキスタンに滞留するアフガン難民の子どもたちへの予防接種で一番力をいれたのがポリオ対策でした。現在、世界的にはほぼ根絶に近い状態です。時折、先進国でも発生していますが、何例・・・と数えられる程度に抑え込まれています。そのポリオがガザで発生したといいます。ガザ地区の保健当局が、発症すると手足にまひが残ることもあるポリオ感染例が25年ぶりに確認されたと発表し、国連のグテーレス事務総長が流行を防ぐため、8月末にもガザ地区で大規模なワクチン接種を始める計画を明らかにし、実現には戦闘停止が必要だと訴えました。紛争地での予防接種は、私も対立する双方のボス・・・親分!!と交渉したことがありますが、何とも空しい思いがしました。予防接種で防げるけれども、ひょっとしたらかからないかもしれない感染症を防ぐために戦闘を止めてもらう。それは良いのです。しかし予防接種した、その翌日に紛争でケガをする、障害者になる・・・死ぬかもしれない・・・たとえ3日でも休戦できるのなら、1週間、1か月、1年・・・永遠に止めればよい・・・そんな腹立たしさの中で、予防接種をしたことを思い出しました。

とまれ、感染症も紛争もなくなって欲しい、ものです。

パレスチナの子どもたち(FRANCE 24より)
NHKニュースより