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マールブルグ病

「致死率の高いマールブルグウイルス感染の疑いある乗客がふたり見つかったことで、 エボラ出血熱に似ているが、より感染力の強い出血熱がヨーロッパに到達したかもとの危惧から、ドイツの主要駅が閉鎖を余儀なくされた。」との報道が出ました。(daily mail onlineより)

ドイツの警察は、ハンブルク駅7、8番プラットフォームを数時間封鎖し、フランクフルトからICE(Intercity-Express ドイツを中心に運行されているヨーロッパ各国間の高速列車)に乗り込んだ完全防護服着用の救急隊員によって、プラットフォームの旅行者も退避させたと報告した。現地報道によると、乗客2人が致命的な「目からも出血する」ウイルスに感染したらしく、その一人は、水曜日の午後、フランクフルトから女性の友人と一緒にハンブルク行き列車に乗った26歳のドイツ人医学生(男性)で、列車内で二人ともインフルエンザ様症状を発症したそうです。ドイツの現地新聞によると、この医学生はルワンダから飛行機でドイツ到着したが、ルワンダでマールブルグウイルス感染の診断を受けた患者と接触していたといいます。

ProMED(Program for Monitoring Emerging Diseases 新興感染症モニタリングプログラム)という国際認知度が高く、実際に頻用されている感染症発生報告の仕組みがあります。国際保健業従事者なら、誰でも活用というか世話になったり、身近なところでの感染症の報告をしたりの方もおいでかもしれません。この仕組みのお世話になっているのは人をみる医師だけでなく、人獣感染症が多いことから獣医や、感染症の広がりを研究する疫学者、対策を講じる公衆衛生研究者や行政の方々も含まれるでしょう。1994年に設立されましたが、私自身は、1990年代末のWHO緊急人道援助部勤務の時代に紛争地の感染症情報を頂いたり、報告したり、大変お世話になりました。

毎日、24時間、世界中から報告を受け、また、発信しているそのProMEDが9月27日、ルワンダ保健省が同日(2024.9.27)、「一部患者が死に至ることもあるウイルス性出血熱『マールブルグ病』の症例を確認と発表、感染源特定の調査が行われており、感染者は治療のため隔離された、症例は少数と述べた」と報じました。(Reuters 2024.9.27)患者の一部・・・という表現は、多分、パニックを避けるためでしょうが、マールブルグ病は、よく知られるエボラ病(かつては出血熱と呼ばれていました)よりも致死率(同じ病気にかかった人の中の死亡する率)がはるかに高く、90%・・・つまり10人感染すれば9人が亡くなることもある!のです。

この厄介な感染症の原因「マールブルグウイルス」は、エボラ病の原因ウイルスと同じ一族で、オオコウモリから人に感染するとされています。ヒト-ヒト感染は、感染者の体液、つまり血液や精液との接触で広がるとされています。高熱、激しい頭痛、嘔吐、筋肉痛、腹痛などだそうです。ルワンダの隣のタンザニア国では、2023年に報告があり、その近隣のウガンダ国では2017年に発生報告があります。

ProMEDの続報10月1日号では、ルワンダのマールブルグ病が国外拡散する危険性を告げると同時に、すでに同国での確認症例数は27人だとしました。この数字は、この厄介なウイルス感染症では最大規模ですが、既に9人が死亡(致死率33.3%)しています。

マールブルグウイルス(アメリカ CDCより)

厄介なことですが、このウイルス感染症に有効なワクチンはありません。めったに発生しないこともあって、対策は現地での強力な抑え込みで済まされています。今回確認された感染者の大半(70%以上)は人口170万人の首都キガリの2病院の医療従事者です。
ルワンダといえば、その昔1994年のこの国での大虐殺、そして大量避難民の発生を想いますが、今や、発展著しく、アフリカ大陸では温暖で風光明媚な国でもあり、国際旅行の拠点になっています。つまり、今では、キガリからアフリカ各地、中東、アジアの約20か国に飛行機が飛んでいるのです。One fright 一飛びの数時間で、感染者がこれらの地域に到達します。

世界保健機関(WHO)は、9月30日に「近隣諸国への感染拡大リスクが「高い」とし、東アフリカを越えての感染拡大も示唆しました。実際、今次流行の最初の感染者または第一例目の発症者と考えられる人物と接触したらしい人が既に他国に渡航していたわけです。WHOは国名を明らかにせず、この国ではしかるべき処置がとらえているとしていますが、ソーシャルメディアサイト“X”によるとベルギーらしいそうです。
アフリカと日本の間に直行便はないと思いますが、ベルギー・・・ヨーロッパとなると、たくさんの直行便が飛んでいます。その意味では、日本も安全ではありません。国民の健康をまもるには、世界の住民のそれを護ることとあわせて考えねばなりません。なぜ、遠いアフリカのことを心配しなければないのか!!です。

マールブルグ病の発生地(アメリカ CDC)

マールブルグ病は、1967(昭42)年、当時の西ドイツのマールブルグ、フランクフルト、当時のユーゴスラビアのベオグラートに、ポリオワクチン製造のためウガンダから輸入された実験用のアフリカミドリザルを扱った研究者や研究室の清掃員ら、最終的には31名が発症し7名が亡くなったのが最初です。そして見つかったのが「マールブルグウイルス」という新顔でした。その後の発生は、いずれも少数でしたが、2005年のアンゴラでのアウトブレークでは252名発症、227名が死亡という大きなものでした。出血熱といえばエボラウイルスがよく知られていますが、マールブルグウイルスも同族で、症状もよく似ていますが、致死率が高いとされています。このウイルスが、通常、何処にいるのか、定かなことは不明ですが、日本には生息していないとされるオオコウモリが媒介することは知られています。が、ウイルスは、感染者の体内にひそんだまま、どこへでも移動します。コウモリだけに注意しておれば良いのとは異なります。

地球を覆う熱波・・・その原因は、化石燃料の使いすぎ、各地の海岸や海底を汚しているプラスチック材の放置、再び、リスクが高まっているウクライナの原子力発電所への攻撃、地球が病んでいるのではなく、病んでいるのは私たち人間の考えのように思います。マールブルグウイルスは、そのすきを狙って出てきたのでしょうか。一刻も早い制圧を願います。

これまでのマールブルグ病発生数(History of Marburg Disease Outbreaks CDCの情報を参考に喜多が作成)