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人工知能(Artificial Intelligence)、 2024年ノーベル物理学賞・・スティーブ・ジョブズ、シンギュラリティ

私たちの脳には千数百億個という膨大な数のニューロン(neuron、脳を構成する神経細胞)が存在します。ニューロンには情報を受ける「樹状突起」と情報を発する「軸索」部分があり、他のニューロンとシナプス(synapse、神経細胞が別の神経細胞とつながる特徴的な構造。神経細胞同士は形態的に密着していないが情報は化学的もしくは電気的に伝達される)とよばれる連結部を介し複雑につながり、さまざまな情報交換をします。この「ネットワーク」が神経回路です。

2024年ノーベル賞物理学賞をアメリカプリンストン大学ジョン・ホップフィールド教授とカナダトロント大学ジェフリー・ヒントン教授が受賞されました。ノーベル委員会は、「ホップフィールド教授は人間の神経回路を模倣した「人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network、ANN)」を用い物理学理論から画像やパターンなど、データを保存再構成できる「連想記憶」手法を開発、この手法により不完全なデータから元データが再現可能となった。ヒントン教授は本手法を統計物理学理論を使い発展させ、学習した画像など大量データを元に可能な限り未知データをも導き出すアルゴリズム(ある問題の正解を引き出す一定手順や思考方法。手順通りにすると必ず一定結論に達するための数学の公式やプログラミング言語。問題解決手順を進めるコンピュータープログラムはその代表)を開発した。」と説明しています。

スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は、日本時間の2024年10月8日午後7時前、2024年ノーベル物理学賞の受賞者にアメリカのプリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授と、カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授の2人を選んだと発表しました。https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize/2024/physics/article_01.html

お二人が開発発展させた手法が現在のAI(Artificial Intelligence、人工知能)技術の中核を担う「機械学習(コンピュータが膨大なデータから一定の傾向やパターンを学習すること。同様課題に当たったら既学習内容を基により良い予測をする技術。最近はデータ量膨大なため、人間で処理できないことも多く機械学習が必須)」の基礎となり、その後「ディープ・ラーニング(deep learning、人間の脳神経細胞ネットワークを模倣した多層ニューラルネットワークを利用し膨大量のデータからより複雑なパターンなどを機械学習する)などの新たなモデル確立につながったということと理解しています。

2024年ノーベル物理学賞事象説明にあるニューロン、シナプス(左)と人口ニューロンの説明図。https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2024/popular-information/

が、コンピュータはもはや専門家専用ではなく、今や猫も杓子も掌サイズの小型コンピュータともいえるiPhone(アイフォン)やスマホを触っています。電車の中では、十人中8人は一心不乱に小さな画面を凝視されていますが、ちょっとやりすぎ、大概はゲーム・・・、もっと目と脳を休めては。

ところでiPhoneとAndroidスマホの違いはそれぞれの頭脳であるOS(Operating System 、オペレーティングシステム。パソコンの操作やアプリを使うために必要なソフトウェア)と端末の製造元なのですね。iPhoneのOSは「iOS」ですが、iPhone以外には搭載されておらず、開発から製造のすべてがApple社製です。Android OSはGoogle社が開発し他に無償提供しているのでどのメーカーでも使用可、故にメーカー毎に機能、デザイン、価格が違うということだそうです。

スティーブ・ジョブズ I
講談社 2011.10.25  ‎ 448ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4062171260
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4062171267

さてAppleです。

Apple社を創り、壊し、再生したスティーブ・ジョブズのドラマティックな一生は、実は生れる前から始まっています。1955年2月24日、イスラム系シリア人とドイツ・スイス系アメリカ人のカップルからサンフランシスコで生まれていますが、移民で学者を目指した実父母は経済的時間的に子育をあきらめ、養子を決めていたが、受け手夫婦は大学卒でないと難色を示し、養父母ポールとクララのジョブズ夫妻が養子は必ず大学にやると約束して縁組をしたそうです。

子どもの時代のスティーブは超いたずらっ子、問題児、学校は好きでなかったが、小学校高学年で良い先生にめぐり会って勉強が好きになったと。並外れた高知能のスティーブは飛び級して大学にも入りましたが退屈で中退!そういえばマイクロソフトのビル・ゲイツもかつてのFBのザッカーバーグも大学中退、これら才人は型にまったことには合わないのか、それともIT才能は芸術的で学校教育になじまないのでしょうか。

スティーブは高校時代にガレージで自作したIT装置を友人に売り出しました。装置開発だけでなくそれを売ることで社会の何かを変える・・・企業家またイノベイターだったのですね。一方、50年代頃生まれの方に多いような気がしますが、スティーブも東洋に魅かれインドに参ります。が、赤痢に罹ったり良い思いができなかったり、郷里カリフォルニア州ロスアルトスで禅宗曹洞宗(の僧)に帰依します。結婚式も禅宗僧侶が立ち会い、日本に何度も足を運んだのも禅を求めてとか、私、生家が禅宗曹洞宗で、ちょっとこの方になじめました。

スティーブは誰も作ったことのないもの、誰も考えたことがないものを作ることに集中したように思います。何々がないではなく、何々を作れば世の中がどうなるかという、本当の未来志向でした。

初めてコンピュータに触れたのは1978年、アメリカ国立環境衛生研究所の客員研究員だった1978年でした。研究所でもまだコンピュータは一般化していませんでした。前年、訪日された時、奈良をご案内したことで知遇を得たアルバート・アインシュタイン大学教授テオドール・シュペート先生から、ニューヨーク州の高級住宅地スカース・デレ村のご自宅に毎月お招きを受け、血液学とアメリカ学の個人教授を受けました。ある時、初期のデスクトップに触わらせていただきました。先生の命で挑戦したチェスはすぐに負けました。何度か負けると「お前はバカ!」とでました。ホントにバカでした。

この頃、最初の“Apple I”が生まれ、スティーブらの「アップルコンピュータ会社」が創業されています。最初に売り出したのはスマートな機器ではなく、色々な部品がハンダ付けされたプリント配線板だったそうです。それがコンピュータの本体なのですね。

一世を風靡したスティーブ・ジョブズの天才ぶり奇才ぶり・・・自分が作った企業から追放され復帰し世界最大の企業に育てましたがすい臓がんを病みました。いわゆる近代医学を好まなかった・・・最後には移殖を含め色々な治療も受けましたが、時すでに遅し・・57歳でこの世を去りました。

スティーブ・ジョブズ II
講談社 2011.11.02  ‎ 431ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4062171279
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4062171274

その伝記からは、とてもユニークな発明家振りと際立った企業マインドを感じますが、周囲との軋轢が厳しすぎる方です。でも、1970年代末から80年代初頭に100万台のアップルを売った・・・それまで世界最大企業だったフォード自動車会社にまさる資金調達をなしコンピュータ時代を確立した、それがアップルを創ったスティーブなのです。

Apple IIの成功がIBMをしてコンピュータ産業参入させますが、そのOS作成を請負ったのがビル・ゲイツらのマイクロソフトだった。つまりアップルはコンピュータ界全体に影響していたのです。が、この頃、スティーブはハンディな電算機を開発した日本のシャープに携帯ITの開発を勧められていたそうです。その頃の日本は、この分野で光っていたのです。それがいったいどこへ行ったのでしょうか? いずれにせよiPad(アイパッド)、iPhoneなど、現在、私たちが日常的に使うIT機器は、ほぼ、たった一人の頭の中から生まれています。

ただ、この方、私生活はストイック(厳格すぎる)に簡素、若い頃には何ひとつ家財道具の無い部屋がお気に入り、裸足でお風呂は嫌いだったとか、超ヒラメキのある禅僧のような方・・・並の人間には付き合いかねますね。でも2005年6月12日のスタンフォード大学卒業式での有名な「Stay hungry, stay foolish」で終わるスピーチは今も繰り返し読まれ聞かれています。

スティーブは去りましたが、世界はコンピュータ全盛時代に入ります。

機械・・コンピュータが人間を凌駕する時代が来ると、SFの世界的で、私はなじめなかった本ですが、そんな日は来ないという知人と、近い!という知人がいます。
NHK出版 2016年4月22日出版 
ISBN-10 ‏ : ‎ 414081697X  
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-41408169

シンギュラリティ(Technological singularity、技術的特異点)という言葉が出始めたのは2000年頃、しきりと聞くようになったのは過去10年くらいでしょうか。この言葉の創設者で発明家思想家レイ・カーツワイルの『シンギュラリティは近い。人類が生命を超越するとき』は私の理解度を超越していましたので、知人のコンピュータ技師に渡し、解説してもらいました。『特異点とは、技術的成長が指数関数的に続き、人工知能つまりコンピュータが「人の知能を大幅に凌駕する」時点が来る、そしてその場合は技術的変化だけでなく、哲学的宗教的にも神の概念に進化するので、つまりはコンピュータの話だが、本質的にはスピリチュアルなことだそうです。よく判りませんが、私たちが生物的身体と脳の限界を超え、運命を超える力を手にする・・・SF世界ですが、それが現実味を帯びているのが昨今の時代、2045年頃には必ず特異点がくるというのです。今から20年後…すぐですが、その頃の世界はどうなっているでしょうか?

望むと望まざるとにかかわらず、いわゆるディープラーニングが普及進化しています。チャットGPTをおもうと、コンピュータが機械的物理学的世界からより人間的社会的、情緒やメンタルの世界に入り込んでいることを実感します。1955年生まれのスティーブ・ジョブズはビル・ゲイツと同じ年齢、来年70歳、45年問題の2045年に90歳、どんな世界を想像されていたでしょうか・・・

2024ノーベル物理学賞の背景を述べた委員会の文書 にはこうあります。

「二人の学者が開発した先駆的手法と概念は人工ニューラルネットワーク(ANN)分野を形成する上で重要な役割を果たしている。ヒントンはより深く密なANNの発展のための指導的役割を果たし、物理学に立脚した方法で突破口をみつけ、私たちがコンピュータを活用して社会が直面する多くの課題に取り組む新しい方法を示した。簡単に云えば、彼らのおかげで人類は今、良い目的に使うべき新たな手段を道具箱に加えた。ANNに基づく機械学習は、すでに科学、工学、日常生活を革命的に変えつつある。この分野は既に未知の機能をそなえた資材を見つけるなど、持続可能な社会のための突破口を見つけつつある。将来、ANNがいかほど有用かは既に多様な分野で活用されているこの強力なツールを私たち人間がどのように使うかにかかっている。」

人工知能学会会長の栗原聰慶応大学教授は、「人間の神経細胞をまねした人工的なネットワークを構築することで、機械でも人間と同じように記憶や認識ができるという考え方があって、この分野で顕著な成果を上げた最初の草分け的な存在がこの2人だ。まさに人間の脳でやっていることを機械的に物理的になしえることを証明した・・・」

「ノーベル財団が公表した受賞研究の説明資料で、この分野における日本人の貢献について触れられていることについて、「福島邦彦先生はヒントン先生が実証した画像認識する際に使う技術を最初に考えた方。ほかにも甘利俊一先生はニューラルネットワークの基本的な理論や仕組みをまとめ発展させた方で、貢献は非常に大きく、日本の研究者はAIの草分け的なところがある」と話していました。