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認知症の予防

認知症dementiaとは、認知障害の一種です・・・などという説明は要を得ていませんね。私が医学生だった半世紀も昔ですが、レントゲンによる影(像)と脳波による電気的活性しか脳の中を知る手段はありませんでした。もちろん、対話による理解度や自発的あるいは指示に従って行われる行動を観ることもありましたが、今風にいうエビデンス(科学的証拠)としては確立していなかったように思います。しかし、それ以来、脳神経系、精神科学分野の発展はめざましく、検査手段の発達とともに、実に色々なことが判るようになりました。そして同時に高齢社会、何かのめぐりあわせでしょうか?

その認知障害の一種である認知症は、後天的な(生まれた後で生じる)脳の器質的(体の器官組織に物理的に認められる異常が存する)障害で、いったん正常に発達した知能が、不可逆的に(どう治療しても元に戻らない)障害を受けた状態です。簡単に申しますと、正常だった認知力が、年齢に相応しくない程度に低下した状態と申せます。が、実のところ、低下するのは単に知能だけでなく、記憶、見当識(今が何年何月何日か、や、自分が今何処にいるかを把握していること)を含む学習力、記憶力、理解力そして問題解決力の障害であり、時には人格変化もある・・・ひとつの症候群(多様な症状からなる健康障害状態)でもあります。

正確には、認知能力(memory:記憶力、attention:注意力、judgement:判断力、language:言語力、problem solving:問題解決力)の各パートが年令相応以上に低下していると云えますが、年齢相応は、人によっても時代によっても多少異なるので、また、ややこしい。が、今の時代の人が見て、認知能力が低下しているということが重要でしょう。

英語の語源は、ラテン語で、やはり認知能力の衰えを云ったそうですので、古代からこの病気があったのでしょう。

先般、平成28年に認知症が原因とみられる行方不明者が1万5千人を超えた(届け出ベース、警察庁発表資料より)という報道をみました。この統計がとられ始めた平成24年以降、認知症行方不明者数は年々増加しており、行方不明者全体に占める割合は2割近くに上っているとか。

世界でも、認知症が問題なのは同様です。
認知症は、21世紀の保健社会福祉にとって世界最大の問題だ:現在、世界中で約5千万の人々が認知症を患っているが、その数は、2050年までに3倍になると予測される。Lancet誌の認知症委員会は、利用可能な最善のエビデンスを検証し、最良の管理、予防に関する提言をすることを願っている(Dementia is the greatest global challenge for health and social care in the 21st century: around 50 million people worldwide have dementia and this number is predicted to triple by 2050. The Lancet Commission on dementia aims to review the best available evidence and produce recommendations on how to best manage, or even prevent, the dementia epidemic.)との解説付きで、この度、世界5大医学誌のひとつとされる週刊医学雑誌Lancetが、この病気を取り上げました。

アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2017.7.16~20、英国ロンドン)で発表された24名の認知症国際研究グループによる分析が62ページにわたる論文になりました。チョット、読むのはシンドイですが、認知症の1/3は、予防可能だとしています。

これによりますと、① 教育レベルの低さ(15歳以降に教育を受けていない)、② 中年期(45~65歳)の聴力低下、③ 高血圧、④ 肥満、⑤ 65歳以上の高齢期の喫煙、⑥ 抑うつ、⑦ 運動不足、⑧ 社会的孤立、⑨ 糖尿病という9の要因についての対策を講じれば、35%の認知症が予防可能だとされました。

ちょっと、ビックリは、「低い教育レベル」と「中年期聴力低下」と「高齢期喫煙」が三大要因というのです。昔、多くの人々の教育レベルが低かった頃はどうだった、と思いますが、そんな昔の平均寿命は短かった・・・ですね。直ちに、現在と比較するのは意味がない、難しいですね。

ですから、すべての人々が15歳以降も教育を受け続けるようになれば、認知症の8%が予防できる、中年期に聴力低下をきたした人々を全て治療すれば9%が、そして高齢者のすべてが禁煙すれば、5%は予防できるなどなど、合計35%の認知症は予防可能、としています。反面、これまで、認知症のリスクとされてきたアポリポ蛋白E(ApoE)を牛耳るとされる遺伝子型(ε4 アレル)の対策は、予防効果は小さいとしています(10例中1例未満:7%)。

大事なことは、多くの認知症は、通常、年をとってから診断されるが危険要因は、若年時から一生を通じて存在する、つまり発症までの潜伏期が長い病気として対応すべきだと説明していることを肝に銘じて、出来るだけ長く学校に通い(留年ではなく、少なくとも高校まで卒業する、①対策)、子どもの間から、規則正しく、適正な食事運動を心がけ(③、④、⑤、⑦、⑨対策)、友達と仲良く、また、職場や地域など周囲の人々との良い関係を保ち(⑧対策)・・・中年期の聴力低下は、それが原因で周囲との疎通性が無くなる・・・かも。そして、抑うつ対策はどうすればよいやら・・・ちょっと考えます。
ご参考になりましょうか?

Executive Summary:Dementia prevention, intervention, and care(The Lancet)