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保健医療分野の教育と研究の中断 アメリカで起こっていること

最近目にした雑誌に、アメリカでは、2022年に2年続いてIMR(Infant Mortality Rate 乳児死亡率)が上昇したとありました。

IMRとは、ある年に、生きて生まれた(死産は含まない!)赤ん坊1,000人のうち、何人が生後1年以内に亡くなるかの数で表す健康の指標です。対1,000なので、単位は「‰(パーミル)」、亡くなる赤ちゃんの数は少ない方が良いことは歴然としていますが、平均寿命とともに、国の発展、特に健康状況の改善を示す重要な指標です。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が2024年7月に発表した米国人口動態統計報告では、2022年の同国乳児死亡者の実数20,577人は、上記IMR5.61にあたり、2021年から3.1%増加でしているうえに、2022年はアメリカのIMRが2年連続で増加していました。ちなみに日本の2022年のIMRは1.8です。アメリカのIMRは日本の3倍以上です。(“Infant Mortality in the US—Sounding the Alarm” JAMA Network

「無能で腐敗した官僚を全て排除」 トランプ氏、政府縮小へ トランプ米大統領は2月22日、ワシントン近郊で開かれた会合で、連邦政府を縮小するため「無能で腐敗した官僚を全て排除する」と述べられたそうです。
新組織「政府効率化省」を事実上率いる実業家マスク氏もX(旧ツイッター)で、過去1週間の仕事の説明を全連邦職員に求め、返答がなければ「辞職とみなす」と迫った。

毎日新聞 2025/2/23 より

スッゴイ!!と思います。が、どうなるのかしら??と少し心配になりました。

さて、他国のことをとやかく申すべきではないと思いますが、アメリカの保健医療や教育分野に連発されている大統領命令には絶句します。

少し、記憶しているものを羅列します。
まず閉鎖または縮小された政府機関です。大統領就任数日後の1月24日には来年のことではありますが、世界保健機関WHOからの脱退宣言。同時に、米国国際開発庁(USAID、日本のJICAのような組織)の行う国際援助のほぼ全面的凍結、続いてUSAIDそのものの閉鎖。実際に1,000名以上のスタッフが解雇されたり一時的に解雇されたりしています。次は教育関係。3月3日、日本の文部科学省相当の教育省に新長官着任・・・しかし大統領は、新長官に教育省閉鎖を指示した上、20日には、教育省閉鎖と教育権限を州や地方自治体に移管する大統領令に署名。着任先がなくなった長官はどうなさるのか・・・

トランプ大統領は以前から、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に反対の立場でしたが、1月21日にはそれから離脱する大統領令に署名されていました。その一環でしょうか、2月27日には海洋大気庁(NOAA)の職員880名が解雇され、続いて1,000名が失職する計画が出ました。気象情報や宇宙関連の研究に影響が出ることは必至です。そしてその影響はほかの国にも及びましょう。

そして保健医療分野です。助成金が削減されたのは、まず、世界最大の保健医療研究組織であるアメリカ国立衛生研究所(NIH、1887年設立のアメリカ最古の医学研究機関、27研究所で20,000人以上の専門家が研究)への政府助成金が大幅カットされ、大学への間接経費(研究そのものの経費ではないが、研究実践を支える諸雑費)は上限15%に限定された結果、多数の研究が資金不足に陥っています。

大学です。その最初はコロンビア大学(ニューヨーク)でした。トランプ政権が、パレスチナ問題で嫌がらせを受けているユダヤ人学生を守らなかったとしてコロンビア大学に対する助成金などの一部を取り消すと、司法省や教育省などが3月7日に合同声明を発表しました。一部・・・といっても約4億ドル(590億円)相当の助成金や契約を取り消すと発表し、今後、他大学も対象にするとの警告も。(NHKニュース 2025年3月8日
その後、ジョンズホプキンス大学(ボルチモア)が3月13日、USAIDから数年間で8億ドル(約1,188億円)の補助金を受けられなくなり、世界で2千人以上の職員を解雇すると発表しました。(産経新聞 2025/3/14

Columbia University in the City of New York

スタンフォード大学では、NIH資金が削減され新規採用を中止し、ベイラー医科大学では大学拡張計画と院生募集を縮小しています。エモリ―大学公衆衛生学部では、「潜在的に大幅な調整を要する」としています。

色々ありますね・・・と他人事ではいけません。トランプ政権による科学研究予算の削減を受けて、アメリカの大学ではPhD課程の入学枠を縮小する動きが広がっています。一部の大学では入学許可の取り消しや出願保留が行われ、将来の進学を目指す学生たちが宙に浮いた状態に置かれていますし、私どもが行っているSasakawa看護フェロ―たちの留学先がもろに影響を受けているから、ホント他人事ではないのです。(“US universities curtail PhD admissions amid Trump science funding cuts” 27 February 2025

また、このような圧迫の結果、“ネイチャー(Nature)”誌によりますと、NIHでは、現在進行中の研究プロジェクト数百件への助成金を打ち切る方針であることが明らかになり、その決定は、当然ですが、研究者コミュニティに大きな衝撃を与えています。(“Exclusive: NIH to terminate hundreds of active research grants” 06 March 2025

そしてこのような教育研究界への、あえて申しますと圧力から、アメリカ国内の多数の科学者・・・同誌の調査に回答した1,600人以上の科学者(全回答者の4分の3)がアメリカを離れることを考えている、ヨーロッパとカナダは移転の上位の選択肢の一つとしていると報じています。(“75% of US scientists who answered Nature poll consider leaving” 27 March 2025

さらにさらに、さすがアメリカ・・・といってはいけないかもしれませんが、トランプ政権がコロンビア大学に対しておこなった大幅な資金削減に対して、同大学の2つの教職員組織が訴訟を起こしました!!(“Trump administration sued over huge funding cuts at Columbia University” 25 March 2025

基礎的な科学や教育は、明日に結果が出るものはありません。でも、それがないと、1年後はまだしも、10年後や20年後の世の中に対する保証はできないと、私は思っています。
かの国で起こっていることを彼岸の火事としてではなく、私たちの麗しい国に起こさないように、何をすればよいのか、考え、行動したいと思います。