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『土と生命の46億年史』いのちの歴史の前の話

総務省が先日発表した、わが国の2024年10月1日現在の人口推計による総人口は1億2380万2000人と前の年より55万人減りました。14年連続の減少です。外国人を除く日本人人口は前の年から89万人あまり減少し過去最大の減り幅です。それでなくとも、わが国は世界最速の超高齢化、国中が高齢者一色になるのではないか・・・みたいな報道もあります。

その高齢化です。
ひとりひとりが150年も200年もの長寿を全うするのではなく、平均的に65才、75才以上の高齢者が増えている、そして子どもや若者が少ないということです。平均寿命100才超え・・・そんな時代が来るのでしょうか?人口問題の権威である国立社会保障・人口問題研究所や国際的な開発問題を扱っているOECDは、22世紀つまり2100年までには平均寿命が100歳になる可能性は低いとみなしています。とはいえ、その頃の日本人女性の平均寿命は95歳前後にはなりそうですから、現在10代の女性の相当数は100歳近くまで生存可能です。が、まだ先は長いと怠けてはいけません。為すべきことをきちんとしておかないと長生きはしたが・・・の日々になるかもです。

ではさらにその先は、ですが、現在のところ生物学的限界として、人間の自然寿命と申しますか、最大限に生きられる年月は115~120才とされています。なら、私も、あとウン十年ある!!ではなく、如何によく生きるかを考えねばなりません。

でも、あなたは後300年生られますよ、といわれてハッピーでしょうか、ね。

では、私達が生活を営んでいる地球、その地球を含む宇宙はいつ始まったのでしょうか?
ご承知のように、宇宙の始まりは「ビッグバン」理論(非常に、非常に小さくとてもとても高温高密度な状態だったモノ〈宇宙の素?〉が突然膨張した)によると、約137億年前とされています。初期の宇宙は非常に熱く、高密度状態で、その後、さらに、さらに膨張し続け、星や惑星が形成されたそうです。誰も見ていませんが・・・

そして地球は約46億年前に形成され始めました。太陽系の原始的星雲から惑星が生まれ、地球もその一部だったのです。初期の地球表面は火山爆発や彗星の衝突でデコボコし、やがて海ができました。そして約38億年前に、生命の始まりがありました。生物学的には、初期の生命は海中に生まれた単細胞生物でした。そして、そしてまたまた長い進化過程を経て、多様な生態系が発展しました。多細胞生物、陸上生物がそして現代の生命系が形成されました。などと、これは地球の歴史、生命の歴史の受け売りです。でも、本当のところ、まだまだ解明されていないことがありましょう。

さて、最近、とても興味深い、超長い歴史をとても面白く解説されている本に行き当たりました。
土の研究者、国立研究開発法人「森林研究・整備機構 森林総合研究所」の主任研究員 藤井一至(ふじいかずみち)先生のBLUEBACKS『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』です。

46億年ですから、地球の誕生からの話ですが、先生の広範なご趣味による解説がとても面白く、一気読みしました。でも、びっくりしたり、エエエッとなったりして何度も読み返したところもありました。

「はじめに」にありますが、人工知能でしょかAIでしょうか、情を込めずに分析一途に働いてくれる機械でしょうか、手段でしょうか、子分でしょうかが増えて、色々な分野に影響力を発揮していることはその通りです。便利を超えて、私は空恐ろしい気がしていますが、そられ全知全能をもってしてもつくれないものが二つある。それは「生命」と「土」なのだそうです。

生命がつくれないことは、その昔、高血圧に関係する酵素レニンの遺伝子を解明された村上和雄先生(1936‐2021、分子生物学者)とある国連の講演会でご一緒したことがありますが、村上先生は、「生命はダーウィンの進化論だけでは説明不十分、サムシング・グレートと呼ぶべき何かが必要です」と仰せでしたから、科学がどんなに進歩しても生命は作れないのは納得していましたが、「土も、へぇぇぇ」とびっくりしました。(「村上和雄」wikipedia参照)

講談社「土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る」

そもそも「土」とは何?ですか。
藤井先生の解説です。「土とは岩石が崩壊して生成した砂や粘土と生物遺体に由来する腐植の混合物」だそうです。で、重要なことは腐植が生物(動物や微生物)に由来することで、地球上に生命が誕生する40億年前まで、つまり陸上に植物が上陸する5億年前までの地球には腐植はなく、土はなかったのだそうです。(「藤井一至のホームページ」https://sites.google.com/site/fkazumichi/home 参照)

コンクリートばかりの都会に住んでいると、土を触るのは植木鉢の花や観葉植物の土台になっている、それも人工的に作られた土もどきくらいですが、その生物の誕生前には、粘土が現れ、それが生命と土が生まれる下ごしらえをしてきたそうです。粘土・・・といえば、紙粘土・・・しか知らない子どももおいでかと思いますが、2マイクロメートル(2㎜の1/千)以下の粒子を粘土というそうです。

そして土も年をとる・・・土の老化の話もあります。土なんて、いつも同じと思うのは地球環境に関心がないだけでなく、少々ではなく、大いに愚かなのですね。土が老化すると栄養分が無くなるのだそうです。若い土が美味しいのではなく、土で育つ植物にとって良い土、良い栄養分があるということです。若い土はスメクタイト(膨潤性の粘土鉱物の総称。また下痢やいわゆる“食あたり”などの原因物質を吸着し腸内環境を正常化し下痢を収める薬剤)やバーミキュライト(土壌改良用の土のひとつ)などなど・・・どちらも植木や園芸店の土売り場で見る名前!ですが、そして雲母など粘土鉱物が多く、ケイ素、アルミニューム、ケイ素の三層からなる結晶構造や荷電が保持されているが、ケイ素が流出するとネオンの結晶構造が崩壊し、徐々に劣化するそうです。そしてこの過程でリンが重要な役割を果たす・・・・植木の手入れで馴染みの物質です。

面白くためになる科学新書です。図がたくさん載っているものの、後期高齢者の私にはちょっと細かくてみにくいですが、細菌やウイルスとの関連もあってとても勉強になりました。

同類の本で『土の文明史』もあります。こちらは、アメリカ・ワシントン大学の地球宇宙科学科の教授が、地形や地形と生態系と人間社会の成り立ち、農産物の育成、干ばつ、広域自然破壊の関係、生態系を脅かす経済発展の弊害について書かれたものです。食糧のほとんどを供給しているのは土壌なのに、それを忘れたような活動をしているのは私たち人間です。人為的な環境破壊などを流行りの地政学的観点からも記載された興味深い、ちょっと難しいというかため息がでる本です。

土の上に成り立ってきた私たちの生活・・・私たちの生存の基盤をもう一度見直すべきでしょうか。

築地書館「土の文明史ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話」