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日中の医学交流の歴史「日中笹川医学奨学金制度」

今年も恒例の「日中笹川医学奨学金制度」第46期研究者認定式及び笹川同学会の活動紹介が、2025年4月16日、日本財団ビルで開催されました。

この制度の詳細は、(公財)日中医学協会ホームページ(https://www.jpcnma.or.jp/)に譲るとして、その歴史と広がり、そして私事ですが、中国との関係を想いました。

「日中笹川医学奨学金」は、近代化を目指す中国との交流が始まったばかりの1980年代中庸、私ども笹川記念保健協力財団(当時)の笹川良一会長、日中医学協会理事長であり、また、私ども笹川記念保健協力財団の理事長でもあった石館守三博士、そして中国側は衛生部(日本の厚生労働省)陳敏章副部長の間で合意され生まれた制度です。

 日中笹川医学奨学金制度 第46期研究者認定式

その年の4月、私は日中国交正常化のシンボル的に、日本の支援で北京に設立された中日友好医院(中国では、病院ではなく医院)に着任していました。それは、私のその後の国際保健業の最初でした。たった40年弱ですが、時代は大きく変わりました。そして、個々の国がそれぞれの特異性を振りかざして対立しても、何も良いことはありません。地理的に国の大小を云々しても意味はないと思いますが、歴史を踏まえた適切な交流こそが私たちの使命のように思います。

医学だけでなく科学全体でもそうだと思いますが、学問的な大きな発展には、19世紀の微生物学の多数の発見が顕微鏡の発明に基づくように、人間の「知能」「知識」・・・優れた学者と、行動と活動を拡張する「道具」「機器」・・・の組み合わせが必要だと思います。日中の医学合作が、地球を良い方向に向けること、それがこの制度を作られた先達のご意向だと思います。

当時の中国、私がめぐり会ったのは中日友好医院関連の方々でしたが、現地にも優れた学者がおいででしたが、日本ではどこにでもある試薬や簡単な機器がないために研究が滞っているという状況もありました。1960年代に医学部を卒業した私が、日本でも経験した同じようなもどかしさがありました。判っている・・・道具、機器そしてほんの少しの試薬があればできることがたくさんありました。検査室で勤務した私は、若い検査医、技師たちと、たくさんの実験を行いました。ある日、当時、北京にない試薬が天津なら入手できると判って、夜明け前に、二人の若い仲間が列車に乗り込みました。夜、皆が待っていると、何らかの書類が必要だった・・・と手ぶらで、疲労困憊して帰ってきました。そんなこともあった中日友好医院は、今ではわが国の多くの病院を凌駕する検査を当たり前に実践しています。

認定式では、2025年度留学が認められたポストドクターコースの7名と学位取得コースの10名の、中国の若き研究者の決意表明をうかがいました。とても新しい、斬新なそして難しい研究ばかり。真剣にうかがいましたが、「ハイ!判りました」と言えるものは一つもありませんでした。が、それぞれの研究は、日本各地の大学の先生方がご指導なさいます。日中の医学交流が深まり、発展することは確実です。

式典には、中華人民共和国駐日本国大使館科学技術部 祝学華公使参事官、日中医学協会 小川秀興会長、跡見裕理事長、日本財団 尾形武寿理事長、また、この奨学金制度で研鑽された方々の同窓会である笹川同学会趙群先生らがご列席でした。喜多も制度の創設を担った財団創設者の栄誉を受け継いで、毎回、懇親会で一言ご挨拶をさせていただいています。

 第46期研究者認定式 日本財団 尾形理事長のご挨拶

式典は3時間近く、お歴々の有意義なご祝辞のあと、各研究者の難しいお話が続きましたので、頭の中はいっぱい、そしてかなり疲れます。留学生たちは、少し緊張もありましょう。

美味しそうなお料理を前に、懇親会の挨拶は短い方がよろしい・・・かと、入念に準備したご挨拶を端折って、短くご挨拶申し上げました。

実は、式典では、祝学華公使参事官も尾形理事長も、若い世代による、日中の人的そして新たな文化学術交流の重要性をお話下さいました。式典の合間に、断片的に、短い言葉を交わした中国の若き研究者は、日本の若者とほとんど同じ気がしました・・・Z世代、以降でしょうか。多分、彼らは日本の研究室に、難なく溶け込まれるでしょう。文化的に、この世代には日中の隔壁はないかもしれません。

必要な文化交流は、国籍の如何を問わず、後期高齢者の私が、これから研究者の入り口をくぐろうとする若者間とするべきものかもしれませんね。

笹川保健財団でもいくつかの若者主体の研修がありますので、その仲間と、この中国からの若者たちの交流も始めてみたい・・・私世代がついて行けるかどうかは別として・・と夢が膨らみました。

懇親会でのご挨拶