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10年ひと昔・・・「日本財団在宅看護センター」の仲間の歩み

過日、岡山の烏城(うじょう)で起業10周年を祝った仲間を取り上げましたが、(「烏城の宴 日本財団在宅看護センターネットワーク1期生の10年 その1」参照)実は、今年で起業して10年目のお仲間は8人、9年目が9人もいらっしゃいます。

2014年、初年度の研修を受けた岡良伸氏は、愛知県小牧市で一般社団法人「黒衣(くろこ)」を運営中、2020年には、「黒衣のかんたき(看護小規模多機能型居宅介護)」も開設されました。24時間365日、宮沢賢治の「雨ニモマケズ・・・」のご活躍です。しばしばエネルギー補給でしょうか、美味しそうなお料理の写真をFBにアップされていますが、時折は最大のサポーターであるパートナー慰労もなさっている優しいオジ看護師どのです(写真1)。

(写真1)黒衣の岡良伸氏

同じく2014年組ですが、研修当時は、在宅看護経験のない数名を「ピヨピヨ組」と命名して、すでに在宅看護経験ある他のベテラン組にしつっこく迫り、うるさがられながらも!在宅看護のノウハウを聞き出し続けていたのは、「日本財団在宅看護センター 街のイスキア 訪問看護ステーション」を東京都目黒区で運営し、今年9周年というイスキア通信を送ってくださった、街のイスキア所長 石川麗子氏です。(写真2)

イスキアという聞きなれない言葉は、イタリアのカンパニア州ナポリ湾にあるイスキア島の村の名前だそうです。麗子氏の師匠的存在の佐藤初女氏(さとうはつめ 1921.10.3 – 2016.2.1 福祉活動家、教育者。1992年、青森県岩木山山麓に「森のイスキア」と称する悩みや心身の不調を抱えた人たちを受け入れ、痛みを分かち合う癒しの場を主宰)の、いわばのれん分けです。ここでは佐藤初女流手料理、おむすびなどがもてなされていたそうで、その伝統を継いだ麗子所長は、スタッフ一同と時におむすび教室を開かれていました。私も、一度、参加しました。おむすびをむすぶことより、いただくことが目的でしたが・・・

(写真2)イスキアの石川麗子氏

さて、「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業10周年の昨年6月には、帝国ホテルで晴れがましくその節目に会を催させていただきました。(「『日本財団在宅看護センター』起業家育成事業 十周年成果報告会」参照)成果報告会ではありましたが、ご指導いただいた先生方、事業を支援くださった日本財団他の関係者、研修生の開業をサポート下さった関係者方への感謝を伝えるという趣旨もございました。

思い返せば、ほほえましいというか大丈夫かしらというエピソードに事欠かない研修の初期でもありました。最初の数週では、「お小遣い帖もきちんとつけられなかった・・・財務の貸借対照表!ウ~ん!」と看護師としては立派なベテランが悲鳴を上げていましたが、後期の研修では、「一般社団法人の営利型と非営利型では・・・」と、駆け出し経営者風の発言に替わったりして、講師のご苦労に感謝するとともにホッとしたものでした。

会計や法人設立に関する、馬目利昭先生の講義資料より

そもそも、研修の初期には、どんな重症の患者が担ぎ込まれてもチャッチャと対処できたであろうベテラン看護師たち、それまでの診療の現場で座る間もなく忙しく実務をこなしていたであろう中堅ナースにとっては、一日中、教室に座って講義を聞くことにお尻がもそもそしている様子、耳慣れない言葉を理解し、それをもとに議論する・・・身体よりも脳を動かすことが最初の高いハードルのようでした。

病院という治療専門の限られた組織では考える必要もなかった財務、法務や労務、地域社会との接触、交流のあり方、そして何より、管理者として事務所を運営するための実業家として心がまえ、そしてスタッフマネージメントのあり方、異文化との遭遇に事欠かない日々でありました。そして、多様な社会学系分野、率直に申して商売的、経営的には初心者である看護のベテランを手取り足取り、ご教示くださった先生方へは感謝の言葉以外にありません。そしてそれは開業後の時間が経つほど大きく深くなります。

現在、日本中には18,000弱の訪問看護事業所がありますが、そこで働いている看護師数は全看護師のわずか5%強にすぎません。看護師の大半は病院勤務です。それはそれでよいのですが、今後、地域活動を主体とする、つまり住民が住んでいるお宅に訪問し、在宅で必要なケアをきちんと受けられるようにするケースはますます増えましょう。病院がいらないのではなく、病気を治す医療施設での治療の後、住民は自宅で自らの健康回復に取り組む、また、健康を維持するための手段を実践する、それらを支援し必要な指導を行う看護師の関与が必要になる、と私は確信しています。そのためにも、しっかりした在宅看護の拠点をもっと増やす必要があります。

病院にも多様な専門家が働いていますので、当然、ある種の「多職間」連携‐看護師が看護以外の専門家と協力することは当たり前ですが、地域の看護師つまり在宅看護(訪問看護)に従事する看護師は、保健分野以外の専門家とも連携が必要です。

8か月の研修では、そのような社会との連携のあり方も大事な学習事項です。それらは、医療施設の中の看護の実践に比し、専門分野外の力量が求められる・・・「他職間」連携でもあります。が、それらとのつながりを通じて「看護師が社会を変える!」ための実践活動が積み上げられていることを、私は実感しています。看護師が看護することは不変ですが、地域活動を確実にするための叡智とノウハウ、それらは一言で申せばリベラル・アーツと総称されるものに属しましょう。私ども研修ではそれらが広く深く仕込まれている、単なる経営研修ではないと自負しています。

10年ひと昔の経験を終えた仲間たちは、皆、上等の社会的闘士・・・人々の支援者としての力量を備えています。そして、私は、彼女彼らによる新しい看護の時代が始まっていることを実感しています。

「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業10周年 成果報告会での集合写真