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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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これは「戦争」とは呼ばないのですか?

放送中の女性アナウンサーが慌てて移動する画面の後ろに、白い煙っぽいものが映り、何かのかけらが飛び散りました。住民に避難を呼びかけた・・・との報道の後、2025年6月17日(現地時間)の夜、イスラエルはイランの首都テヘランを爆撃しその一つの対象が国営放送局だったのです。(図1)

イランとイスラエルの関係は複雑とされますが、私は二つの時代に分かれるだけと思います。現在のイラン、すなわち1979年のイラン・イスラム革命以降のイランは、イスラエル敵対姿勢が露わとなり、ヒズボラ(レバノン拠点のイスラム教シーア派政治武装集団)やハマス(パレスチナ拠点のスンニ派イスラム原理主義政治・軍事組織)といったパレスチナの反イスラエル標榜の武装勢力を支援してイスラエルとの対立をあおっています。

(図1)「2025年6月17日(現地時間)、イスラエル軍がイランの首都テヘランのイラン国営放送局本部がある地域住民に避難を命じました。その後、イスラエル空軍航空機が同局本部を空爆しました。イラン・イスラム共和国放送のテレビの生放送では爆発音ともに女性アナウンサーが急いで逃げようとし、すぐに爆破の破片と煙が画面を覆い、スタジオの照明が消えました。同国メディアはスタッフ1人が死亡と報じました。イスラエル軍は「イラン政権の通信センター」が標的と述べ、イラン外務省は「この攻撃は戦争犯罪」と述べました。首都テヘランの多数住民は高速道路で北に避難しようとしており、交通渋滞が起きています・・・」(BBCより)

しかし1948年のイスラエル建国時のパフィラビ王朝モハマド・レザ・パーレビ国王治世下のイランは、前年の国連決議(パレスチナ分割案)には反対しましたが、イスラエル建国後、アラブ諸国が対イスラエル戦争に突入する中でパーレビ国王はイスラエルを国家として承認、非公式的同盟関係の下、イスラエルから兵器を購入したり農業分野の技術交流もありました。それが一転したのは1979年です。イスラム革命を率いたホメイニ師は米国を「大サタン」と呼び、アメリカ大使館人質事件を引き起こしたり、「イスラエルは消滅させねばならぬ!」とのプロパガンダが広がったりました。

古い話ですが、1948年5月14日にイスラエルが独立を宣言、それを承認し難い周辺アラブ諸国(アラブ連盟)のイラク、エジプト、シリア、ヨルダン、レバノンが翌15日に一斉に新興イスラエルに侵攻しました。この通称パレスチナ戦争(第一次中東戦争)はイスラエルでは「独立戦争」と呼びます。イスラエル軍はアラブ諸国の不統合に乗じ、各国と個別休戦協定を結び、それ以前に提案されていた国連パレスチナ分割案より広い領土を獲得した上、国際社会からの独立承認も得て国連加盟まで果たしました。以来、パレスチナにおけるイスラエル=ユダヤ人と周辺アラブ人の根深い対立が民族紛争様となってブスブス続いています。

最初の戦争(1948‐49)以降後、の第二次中東戦争(1956)ではイスラエル、イギリス、フランスとエジプトが戦い、第三次(1967)ではイスラエルがエジプト、シリア、ヨルダンと戦ってシナイ半島、東エルサレム、ゴラン高原と現在廃墟化しつつあるガザ地区を含む一帯を獲得しました。最後の第四次(1973)戦争では、エジプトとシリアがイスラエルを攻撃しすったもんだの挙句、軍事的にはイスラエルが、政治的にはアラブ側が点を稼ぎました。この後、先般亡くなられたカーター米大統領の仲介でイスラエルとエジプト(アラブ)間で和平交渉(キャンプ・デービッド合意)が行われ、エジプトが初めてアラブ国としてイスラエルを承認しました。さらに一部アラブ諸国(アラブ首長国連邦、バーレーンなど)もイスラエルと国交樹立しましたが、イラク政府はどの合意にも参加せず、同国一部民間人が呼びかけた「イスラエルとの和平会議」の際にはこれを強く非難し関与者を処罰しています。

現在のパレスチナ/ガザとイスラエルの問題は2023年10月7日のハマス奇襲に始まります。その日、ガザからロケット約3,500発が発射され、約6,000人の兵士が地上の障壁を破ってイスラエル側に侵入しました。イスラエル南部で多数の民間人や兵士が殺害され、240~250人もが人質となりました。翌日、イスラエルは正式にハマスに宣戦布告。以来、イスラエルからの空爆によるガザの保健医療施設襲撃が続く一方、病院の地下が要塞化されていたなどの報道もありました。

現在のイランはイスラエルが不法にパレスチナの地を占拠しているとし、本来の住民パレスチナ人の土地パレスチナを護ろうとする武装組織ハマスを支援しています。イスラムには大きく二派がありますが、シーア派の盟主イランが中東一帯の反米反イスラエル運動の中心、イスラエルはアメリカと緊密な同盟関係の下、イスラム教スンニ派サウジアラビアと連携を強めてきたのです。

さらに問題を複雑にしたのはイランの核開発です。イスラエルはイランの核開発を執拗に反対し、過去にもイラン核施設にサイバー攻撃なども行っています。そんな中、ガザをめぐる人道の危機の解決の目処も立たない中、アメリカ大統領は2025年6月21日(現地時間)夜、イラン国内のフォルドゥ、ナタンズ、イスファハン3か所にある重要な核関連施設を空爆し、立派な戦果を挙げたと自賛したのです。

NHKニュースより(2025年6月22日)
イスファハンの世界遺産 イマーム広場。1979年に世界遺産に登録されたサファヴィー朝時代の中心地。広場を囲むようにモスクや宮殿、バザールが配置されている。ジャーメ・モスクは、イラン最古のモスクの一つ。(Wikipediaより)

大統領は、これらの3施設・設備には核兵器製造の可能性がある、特にフォルドゥは地下数百メートルの施設はとても普通の攻撃では破壊できない・・・だから、アメリカは飛行察知されないステルス機が空軍最大級の爆弾MOP(Massive Ordnance Penetrator 大型地中貫通爆弾)を搭載して現地近くで発射するという超精密空爆計画を選択したと説明しました。

地中何十メートルにある標的を爆破できるMOPなる爆弾は私たちがディズニーワールドやマイアミ、キーウェストなど、観光で馴染んでいるフロリダ州ですが、いわゆる半島部分ではなく、フロリダ州の根っ子?がメキシコ湾に沿って西に延びたあたり、アラバマ州の下に当たる部分に位置するエグリン空軍基地で開発されました。この基地は、空軍の空中投下兵器や飛行体の航法、誘導システム、指揮統制システムと空軍特殊作戦司令部が管轄するシステムの試験や評価をする機能を持っている高度な兵器開発センターなのです。ため息!

そして、このMOPは私たちの誰かが毎日お世話になっている飛行機、737、777、787の機体を製造しているボーイング社が開発に関わっているのです。ウ~ん!私たちがお世話になる民間の航空機と軍需力がクロスしている・・・ウ~んです。

とにかく、地中深くに位置する強固な基地、要塞、軍司令部そしてそこにある弾道ミサイルを破壊する爆弾。それを目的地に誘導するのは、私たちが知らないところを訪問する際に利用しているGPS(Global Positioning System/Satellite 全地球測位システム)です。私たちの日常と戦争で使われる諸々が共通している。科学を活用するという点からは当然のような気もしますが、あまり気持ちはよくはありません・・・けど、そんな悠長なことを云えるは、私が戦争の地にいないからです。

当然のことながら、国連そして国際社会はアメリカを非難しています。アメリカ国内でも、この空爆を支持する共和党などの声もありますが、議会の承認を受けていないとか憲法違反などの批判もあります。国連や複数国は「国際法違反」とし、中東地域情勢をさらに不安定化すると懸念しています。日本の首相も、アメリカの行動を即支持するとの声明はなさっていません。

そしてイラン!!外交的な報復を表明し、米軍・民間に対するミサイルや代理勢力を使った攻撃を予告。イラン国外務大臣の対プレス会見ですが・・・

そもそもですが、イラクはアメリカに敵対しているかもしれませんが、軍備を使った対立はありません。最近、爆弾が飛び交ったのは執拗にガザを攻撃しているイスラエルであり、イランが攻撃したのもそのイスラエルです。そこにアメリカが割り込んだ・・・

BBCニュースより(2025年6月22日)

しかしです。第二次世界大戦終結後、世界に戦争を起こさないように話し合うためにつくられたはずの国際連合他様々な国際機関は戦争・紛争防止には本当に無力に見えます。そして、第二次世界大戦敗戦後80年、戦争に関わらなかった日本に生きていることをどう考えればよいのか、と思います。

アメリカ大統領は“Attacks on Iran ‘spectacular success’(イランへの攻撃は‘素晴らしい成功’)”フォルドゥを含む核施設を「完全に消滅させた」と強調されましたが、攻撃を受けたイラン側はフォルドゥや他施設の核材料は事前に避難済みであり、また、実際に放射能飛散は確認されていません。この攻撃はゴールではなく、もっとすごいこともやるぞ、と脅して外交圧力をかけ、譲歩をもとめ、より厳しい核制限を引き出し、イスラエルの安全保障を強化することが目標だそうです。

それにしても、今回の攻撃の経費はいかほどでしょうか?
国際社会のパワーバランスはよく判りませんが、何だかすっきりしない攻撃、一定成果があったとしても、「完全」な成功とは云えない・・・なら、結果としてイラン側に与する諸々の国々がさらにこっそり核開発に走ったり、9.11のような報復行動を起こしたりすれば、結果として世界の安全はかえって不穏になりましょう。

一度振り上げた拳〈こぶし〉は簡単には下せないでしょう。トランプ大統領は「さらなる、これ以上の攻撃も可能」とし、イランは核開発は継続するがNPT(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:核兵器の不拡散に関する条約)からは脱退するかもとも云っています。

対立や口論の激化から攻撃が拡大しさらに大規模紛争が起こる危険性もあります。核兵器を十分以上に持っている国が他の国の核開発阻止する矛盾もあります。
そして素直な疑問です。これは戦争でないとすれば何と呼ぶのでしょうか?