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近代文化の中の浪人

その昔、太閤秀吉の治世の「大坂」は文化、それも町人文化の中心でした。と同時に、豊作不作で価格変動する米の、いわゆる先物相場のはしりであったそうです。なんでも、世界初の取引所が、今のベルギーのアントワープに設立された頃(1531年)には、既に、大坂の淀屋という民間業者が、今の大阪市北区淀屋橋あたりを拠点にコメ取引を扱っていたとか。昨今の円高ニュースを見ながら、先を読むビジネス感覚鋭いご先祖のDNAは何処に、と思います。

秀吉より先に、信長が天下統一を目指していますが、この方は、バンバン人を殺しています。対する秀吉は、後年、後継ぎへの溺愛もあって、相当数の家臣らを死に追いやっていますし、天下統一までは、日本の地域紛争の種をまいた方でもあり、また、二度にわたる朝鮮出兵もあり、決して平和主義者とは申せませんが、巷では刀狩り、大名間では私闘を禁じる令とかも出しています。そして、大河ドラマの「真田丸」に物語られる豊臣家の滅亡後、徳川家康が征夷大将軍に任じられ(1603<慶長8>年)、所領の江戸に幕府を樹立して以来、1868(慶応4/明治元)年の江戸城明け渡しまで、265年間、わが国はさしたる内戦はなく、外敵にも攻められない、平穏な時代が続きました。

現在の大阪です。歯科医ながら江戸時代のお役人を主人公にした時代小説家 上田秀人氏がいらっしゃいます。宿題を忘れた言い訳みたいですが、高校時代は世界史に熱中しました。で、日本史を選択しなかったためか、時代小説は長く馴染めませんでした。国際保健分野に入って以来、それぞれの国の歴史を読むにつけ、日本の近代化国際化の幕開けである明治維新への関心が沸いたのはもう二昔以上前になります。その後、前職(日本赤十字九州国際看護大学)では、近代看護の祖ナイチンゲールの時代が世界の近代化と重なり、そしてそれは日本では、幕末であり、日本赤十字社の誕生から国内最後の内戦西南の役への激動の時代でもありました。そして、世界=西洋 の中に、東洋の小国、異質なジパングが顕わに見えてくる時期でもあり、現在に至る日本の基礎が作られた時代でもあります。

フィクションながら、あったような江戸時代の色々な役職のお役人を主人公にした上田作品は、読みだしたら止められないのですが、その最近作は、浪人が主人公の「金<カネ>の価値」です。

浪人といったら、私も1年経験した受験浪人、二浪、三浪経験者は少なからずですが、知人には、五浪という猛者がいます。近頃では、難民と云う言葉にも置き換えられますが、就職浪人、就活難民から終活浪人、終活難民・・なども予測される時代です。

上田氏によると、浪人とは、主君のいない武士で、主君を求め全国を放浪した、そして、身分は、町奉行管轄下の庶民でありながら、帯刀を許された武士の扱いを受けるという、宙ぶらりんというか蝙蝠的な不思議な存在だそうです。つまり、江戸時代の秩序であった士農工商では、士には属しておらず、さりとて農工商のどれでもない・・・武士と非武士である庶民の身分差を崩す存在であったと。

世界各地で発生するテロ。いわゆる国家間戦争が無くなったにもかかわらず、あるいは国家間戦争が無くなったために、生活圏で発生するテロで失われる生命が増えていると云っても良いのかも知れません。かつてのアフガン戦争時のムジャヒディーン(聖戦士)、その後のタリバン運動、アルカイーダ勃興からイスラム国/ISIS、さらにローンウルフとも呼ばれる孤発性のテロ。世界の、各国の、そして古来の文化が保持してきた秩序からはみ出した近代文化浪人とでも名づけたいような人々への対応は、武器をもってしても有効でないのかもしれない、と上田小説を読みながら思いました。

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