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WHO(世界保健機関)総会 結核とハンセン病

先週は、例年のWHO総会の週でした。第32回となるWHO笹川健康賞の贈呈とともに、まだ、ハンセン病が相当数残る国々の保健大臣ら関係者と面談される日本財団笹川陽平会長(WHOハンセン病制圧大使でもあります)のお供で、毎年、この時期はジュネーブです。

総会と申せば、昔、WHO本部勤務の折、少々の裏方仕事を手伝わせて頂いたことがあります。その年、ヒラリークリントン氏が、アラブ首長国連邦からの賞を受けられる一方、WHO50周年を期しての賞を受けた一人が、当時はアメリカと国交を持たないキューバのフィデル・カストロ首相でした。会場で両者は同じフロアの両端に座し、お互いの講演を聴かれました。

すべてが終わった後、何が起こるか・・・と裏方達は、ホール3階の天井桟敷席から身を乗り出して、固唾をのんで見守りました。豈図らんや(アニハカランヤ)、儀式が終わると同時に、両者の真ん中にどっと係員が割り込み、片や左、片や右のドアから、接触なく出てゆかれました。

今年の第69回総会は、来年、二期10年を終えられるマーガレット・チャン事務局長が、アクティブに方針表明される最後の機会でもありました。お話は、2000年来のUNMDG(国連ミレニウム開発目標)の成果から始まりました。子どもの死亡の減少、アフリカでのマラリア死の減少とその成果から、現在問題となっている環境汚染、気候変動、食料や水の安全性、薬剤耐制や医薬品の過剰使用、さらに頻発する避難民発生とその背景の紛争へと話題が広がりました。そして、数年来のエボラやSARS、現在ブラジルで広がっているジカ熱、といった感染症問題をかなり時間をかけて解説されました。

直接地名は出ませんでしたが、時期同じくしてわが国で開催された伊勢志摩サミットの話題もあり、わが国が先導しているUHC(Universal Health Coverage,ユニバーサル・ヘルスカバレッジ。全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態)や健康そのものをどう保障するか・・・わが国の健康政策として既に発表されている健康2035に近い解説がありました。

今回印象深かかったのは、やはり感染症問題、特に結核でした。
日本など先進国でもやや増えてはいますが、それでも対策はきちんとしています。が、世界全体の結核死は、2014年度に150万人を越え、長らく死者数トップであったエイズを越え、最大脅威の感染症となっていること、および結核治療には、通常数種の薬剤を使いますが、それらのすべてに抵抗性を持つ、いわゆる多薬剤耐性結核菌が、中国やインドに広がっていることが発表されました。結核患者数は、すべての感染者の中で最多だそうですが、問題は新規感染者の40%弱にあたる360万人もが治療を受けられていないとされることです。前記、薬剤耐性は、中途半端な、不適切な治療により生じますが、今後も大きな問題だと指摘されています。

私どもが取り組んでいるハンセン病は、結核と同じ種類の好酸菌とよばれる仲間の細菌です。結核が再興しつつあることは、同じ仲間のハンセン病にどう影響するのだろうか・・・結核もハンセン病も、エボラやエイズのようなウイルスと違って、感染=発病ではなく、病気が成り立つまでにかなりの年月を要します。ハンセン病は、とても、とても弱い細菌(らい菌)の感染症で、滅多に感染もせず、また、感染後も滅多に発病せず、さらに発病するまで(潜伏期)が長く、10年以上かかることもありうるのです。その意味では、結核の再流行という現象を、どう考えればよいのか、ハンセン病制圧には、まだ新参者ですが、チャン事務局長の講演とあわせ、今後のハンセン対策をチョット難しく考えたりしました。

チャン事務総長の講演

 

WHO笹川健康賞受賞 ”Federation of Medicus Mundi”会長Dr Langarica(右から2人目)、副会長 Mr. Mediano(同3人目)と記念撮影