JP / EN

Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

猫イメージ

「看護」の話題 その2

ブログそのものの間隔が開いてしまいました。夏風邪・・・自宅で検査した限りコロナではなかったのですが、ガボガボの咳が続き、約1週間、お休みと早退させていただきました。暑いさなかでしたが、発熱はなく、血中酸素濃度も下がらず、単にやかましい咳だけでしたが、とにかく、自分が流行りのウイルスか細菌=バイキンに取りつかれており、それを他の人々にまき散らす危険性があると思われるときは出勤しない、自宅で自己隔離することです。

それにしてもこの暑さ!40年近く前に滞在した灼熱の地パキスタンのペシャワールの53度に負けません。かの地の極限の熱波は、24時間、熱湯グラグラのお風呂場にいるような湿度と温度の高い日がありました。地元の、日干し煉瓦・・・土を練って乾かしたもの・・・の家の中は涼しいのですが、私のお借りしたレンガの家は、ピッツァの窯の中のようでした。

さてさて、皆さま、水分補給は必須ですが、水さえ補えば、あとは何をしても良いのではないのです。余計な活動は控え、無理な行動は厳禁、どうぞ、酷熱の時期をご無事にお過ごしください。

さて、そんなこんなで「その2」が遅れた看護の話題です。実は、こちらこそ云いたかったことなのです・・・

2025年7月16日に配信されたm3.com地域版の記事【東京】訪問看護の不正・過剰請求、指示書を書いた医師も無関係では済まない 第7回日本在宅医療連合学会大会レポート(5) にも取り上げられているのです。今後、一層必要となる在宅医療・看護の仕組みを、どう適正に護るか、そのためには関係者の意識が重要だと仰せになったと、私は思います。

この学会は、在宅医療関連の二つの学会が合体して、2019年に新たに生まれた、地域医療、保健の一大学会で、私ども笹川保健財団では、第1回から、スポンサードシンポジウムを持たせていただいています。今年の大会には、日本財団在宅看護センターネットワークの「ハラスメント研究会」が発表しました。(「ハラスメント研究会」の報告はささへるジャーナル「訪問看護におけるカスハラの実態。看護師たちが模索する、利用者やその家族との向き合い方」「専門家に問う、訪問看護におけるカスハラにどう対処する? 鍵は「チームワーク」と「毅然とした姿勢」」をご覧ください。)

日経新聞(2025年7月12日)記事より
日経新聞(2025年7月12日)記事より

さて、その第7回日本在宅医療連合学会大会シンポジウム「これでいいのか?これからの在宅医療~医療制度の視点からみた表と闇~」では、立川在宅ケアクリニック(東京都立川市)の院長であり、日本医師会や東京都医師会理事で保険報酬関連の委員を務める荘司輝昭先生が「診療報酬・介護報酬から紐解く在宅医療の闇」と題して、以下を解説発表なさいました。

地域包括ケアシステム構築前の最後のトリプル改定となった2024年度の診療報酬改定から1年経った今、在宅医の立場として現状報告、問題提起とともに、次回改定への提案をなさいました。荘司先生は、在宅医療の【闇の実態事例】を提示し、各種保険指導や監査にとどまらず、医療・介護提供者同士で適切なチェック機能を持った上で在宅医療を行うことを強く提言されました。

すなわち、【訪問看護レセプトチェック体制の強化】をしなければならない、それは関与するすべての関係者が、より適切な在宅医療・看護を確立し、利用者すなわち住民と地域の健康を護るためには必須のことだと仰せになったと、私は受け止めました。実際、世間では、大小さまざまな規模の病院の窮状が、毎日のようにメディアにでていますが、新たな地域医療構想では、とにもかくにも「在宅医療」が求められています。先生もご指摘ですが、個人の住まい・・・という隔離された環境に、単独で医療者が訪問することは、遺憾ながら検証し難いこともありうる・・・だからこそ、適正公正な在宅ケアをどう維持するかが問題と仰せでした。

そういえば、時折、訪問していないとか短時間しか滞在していないのにきちんとケアしたとの不正請求や必要回数以上の訪問やそもそも訪問をしていないのに訪問したといった過剰請求が報告されています。

先生のご報告では、年間訪問看護費は過去15年で約10倍(2008年が648億円、2023年は6,072億円)に増えている・・・件数は6.5倍なので1件あたりの点数増、つまり利用者一人当たりに以前より濃厚ケアが行われていることと、年間収入1,500万円未満(1か月収入125万円!)の小型訪問看護ステーションの増加率122%に対して、収入2.5億円以上(1か月2,000万円以上!)の大型事務所の増加率は1280%・・・10倍以上と指摘されています。

さらに詳しくは、レセプト(医療施設が保険組合に提出する月ごとの診療報酬明細書)1件あたり平均10万円未満の、つまり小事業所は136%しか増えていないのに、平均50万円以上の中大看護事業所はなんと717%に増えている、つまり、大型訪問看護事業所が激増していると指摘されています。

現在でも、訪問看護事業所は、たくさん新設されても、半分近くが短期間に閉鎖している現状もあり、安定して経営するのが難しい状況は変わっていません。私どものネットワークでは、現在、110名余の仲間が、190近い事業を運営していますが、スタッフ数50名以上の安定大型事務所は数か所です。事務を含めスタッフ数が10名を超えると、ちょっとホッとします。20名以上になると安心感が強くなります。私どもは、あくまで看護力を中心に安定した運営を目指していますが、大手のビジネス的組織の乱入!!は、ちょっと言葉が過ぎますが、目を覆いたくなることもあります。つまり病気、不健康をビジネスの対象にされると、弱小事業所は太刀打ちできないのです。

高知新聞社(2025年3月24日)記事より

そして不正や過剰な行為を行う事業所が増えれば増えるほど、結果として、ますます増える在宅医療ケアを要する住民が困ります。

在宅ケア・・・看護だけではないのかもしれませんが、レセプト審査のあり方が地域によって一定でないとも耳にします。

荘司先生のご報告では、訪問看護レセプトチェックに関する全国調査では、東京都だけが担当審査員が審査専用レセプト(書面出力)により目視確認を行っていた。その他の道府県では審査員の目視確認は行っていない(石川県と広島県では目視確認はしないが、審査員を決めて対応している)・・・先生によると、厚労省は指導監査を行うようですが・・・結果として、住民の利益を損なわないような方向・・・制度は難しいでしょうか。

荘司先生は、在宅医療における“闇”事例をご紹介されています。独居がん末期患者を、サ高住に入居させ、看護師が1日3回、ヘルパーが1日5回訪問し、ひと月で医療保険100万円、介護保険30万円を請求していた事例では、突合調査で指示書を書いた医師は実際に訪問していなかったと指摘されています。また寝たきり胃ろう装着の90歳女性に【アイコンタクトで本人の意思確認】して歩行訓練という事例や、新型コロナで【31日間にわたり連続訪問】し医師指示で点滴・・・医師は実際訪問していなかった・・・などなど、多数の不正な事例をお示しでした。

ご承知のことかも知れませんが、日本では、看護師の医療行為には医師の指示が必要です。そのことは看護師の立場や患者の安全を保障することに有用ではあるかもしれませんが、実際には、何度もきちんと診察しないままの指示もないわけではありません。医師にどのような指示を求めるかの責任は看護師にありますが、それを受ける側の医師の責任も大きいのです。したがって、荘司先生が指摘された不正請求や過剰請求の際には、非医療者が経営する企業の責任はもちろん、一人の人間の治療ケアにかかわる保健医療専門家の、社会的良識を含めた公正さが問題となりましょう。

ひとりひとりの人間に対して、最良のケアを行うことと、それがつもりつもって、国の予算に影響するほどの医療福祉経費となっていることを短絡して考えることは、なかなかに難しいことです。

ただ、ケアに関与するすべてのひとびとがすべて善意であるとの保証もなければ、病気や死といった個人の不幸ごとすらビジネス化する逞しい考えもあることは否定できません。しかし、不正は絶対にしない!ことだけを護ることは個々人でもできることではないでしょうか。

保健医療も一つのビジネスとして継続される世界です。ケアの垂れ流しでは制度が維持できませんし、知識のただ取り、安売り、サービスの垂れ流しは長い目で見ると社会の安定を保証しません。本格的超高齢社会の日本、国民一人当たりのお金持ち度GDPは世界の40位近くに落ちています。そして政治の・・・

でも、私は日本が好きです。
皆さまもそうだと信じます。

私たちのため、次世代そして次々世代のために。もう一度、保健医療分野のお仲間たち、頑張りましょう。