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まもなくハロウィーン。魔女とルーマニア

「魔女」というと何を思われますか?

中身は魔女についての考察が多いのですが、タイトルは『呪文の言語学』 副題が「ルーマニアの魔女に耳をすませて」とある、興味深い本を読みました。

まもなくハロウィーンです。
魔女とクロネコの出番ですが、もう一つカボチャのランタンもあります。そもそもハロウィーンは古代アイルランドの宗教的行事だったそうですが、今では、世界の多くの国々で毎年10月31日に行なう、ちょっとしたお祭りになっています。日本では、東京のそれも一か所だけかもしれませんが、大勢のおまわりさんの警備が必要なほど、失礼ながら、無節操なばか騒ぎにもなっています。でも、皆、ハロウィーンって何?は関心がない・・・

40数年前に滞在したアメリカ・ノースカロライナのチャペルヒル郊外の新しい集落では、今から申せば、古典的な子ども中心ハロウィーンが真っ盛りでした。奈良公園のような、松の木が多い新興住宅地、総勢117軒の山小屋風住宅が散在していました。どの家も、まだ若いカップルが多く、子どもたちもせいぜい小学生か年長組だったからかもしれませんが、ほぼすべてのお宅の前には柿色のでっかいカボチャをくりぬいて作ったランタン(ジャック・オー・ランタン〈ジャックのランタン・・・日本語風に申せばちょうちん〉)が置かれ、夕方になると、その中でローソクの炎が揺れました。窓々には魔女やクロネコが飾られ、そして子どもたちは魔女を含む色々なお化けなどに仮装してご近所を訪れ“Trick or Treat(トリックかトリート=いたずらするかお菓子をちょうだい)!”と唱えました。

私は70歳前の独居インテリ女性宅に下宿したのですが、いたずらをされないように、家主と一緒にちょっとしたお菓子を用意しました。小さな子供は、ママやパパに抱かれたまま、いっちょまえに“Trick or Treat!”と回らない舌で訴えました。少し、怖がってあげる方が嬉しいみたいでしたが、自分の仮装を見て怖がる幼児もいて、おかしくもあり、またかわいいものでした。また、こんなことが機会となり新たなご近所付き合いが始まったりもしました。

日本では、スイカでランタンを作りますと申しましたら、カウボーイ風のハンサムなパパさんは、スイカは食べる・・・と仰せでした。この“Trick or Treat”という遊びそのものはアメリカで始まったそうです。

それから10年ほど後、1992年に日本の留学生がホームステイ中のご一家の少年とご近所を回っていた際、強盗との勘違いされたのか、ある家のご主人が“Freeze(止まれ、動くな)!!”と叫ばれたのに突進し、銃殺されたことがありました。“Freeze”を“Please(どうぞ)”と聞き違えたとか・・・意味が判らなかったのか・・・議論はありましたが、銃の犠牲になったご令息を悼まれたご両親はその後、友人たちの協力で「アメリカの家庭からの銃の撤去を求める請願書」への署名運動を開始され、1年余で170万人筆を超える署名を集められました。1993年11月、当時の大統領ビル・クリントンに届けられたことでアメリカにおける銃規制の重要法案ブレイディ法が生まれたことも、ハロウィーンといえば思い出されます。

話がそれましたが、魔女(witch)という言葉・・・ジェンダー差別的単語のように思います。魔女に対する男性形は魔法使い(wizard)、魔術師(sorcerer)らしいですが、魔女とはちょっと感覚が違います。そういえば、女優に対する俳優とか、医師と女医・・・男医はいいませんね。

その魔女、魔女そのものの意味も時代によって異なってきているそうです。

そもそもは古来民間信仰などで何となく知恵のある人、ちょっと変わった賢い人・・・のイメージから中世ヨーロッパでのいわゆる魔女狩りで追われた悪魔の一味としての存在、そして現代のフィクションにおける漫画チックな愛すべきキャラクターもありますが、古典的魔女は西洋のやや古い時代に存在した、ちょっとした不思議な力の持ち主だったと、私は思っています。

角悠介著(発行:2025.7、ISBN:978-4-86793-104-2)

『呪文の言語学』の著者角悠介先生は、ルーマニア国立バベシュ・ボヨイ大学文学部西洋古典学科 「実践ロマニ語」担当教師であらせられます・・・といっても、バベシュ・ボヨイ大学をご存じの方っておいででしょうか?

ロマニ語・・・ムムムです。ロマニ語はロマ(Roma)の人々の言葉ですが、そのロマの人々とは、インド北西部が起源とされている、かつて「ジプシー(Gypsy)と呼ばれた「民族」です。この言い方は差別的だとされ、現在は「ロマ」なのですが、現在では1000万から1200万人が全世界に散らばっているとされています。1000年をかけて世界に散らばったロマの人々は、中世ヨーロッパでは移動生活をするが故に迫害を受けた・・・迫害されるからまた移動する、そして行商や移動旅芸人となった人々も多かったそうです。しかし、定住するのが当たり前になった民族からはどこでも「異民族」として差別迫害を受け、奴隷とされたり、追放や強制同化させられたりの被害を受けました。第二次世界大戦時のナチス・ドイツの主にユダヤ人迫害の際には、ロマの人々も含まれています。現在は、約50万人が虐殺されたとされていますが、ユダヤ人に対する虐殺ホロコーストに対して、ロマへの迫害は「ポライモス」と呼ばれています。そして、それから80年も経た現在なのに、ヨーロッパでは、依然としてロマに対する差別はあって、特に東ヨーロッパ一帯では貧困、教育や住宅、就労の困難そして差別があるとされています。

この『呪文の言語学』の後半は、ほとんど理解できない呪文の解説です。とりわけ、言葉にうとい私がなぜ、こんな難しい本を読もうとしたかと申しますと、最初の数ページで、ちょっと声を出して笑いました。

幼稚園の頃、「ひゃっくりとまらなかったの。100回ひゃっくりすると、ちぬの」とギャン泣きしている友人、「長靴」とコード名を付けた仲間との対話です。しゃっくりという発音もできないガキの頃のお話、何ともいえないにおかしさに魅せられたのですが・・・半分以上は、意味不明の呪文でした。
が、その後、幼き日の悠介先生がしゃっくり・・・ひゃっくり発作を起こされた時には、先生のご祖母様が落ち着いた声で「呪文を唱えなさい〈だいずととうふ〉〈だいずととうふ〉〈大豆と豆腐!!〉そして息を止めてごらん」と。それで悠介先生はいのちをとりとめられたのですが、そうなら、悠介先生のご祖母様も魔女!!ですね。

長じてルーマニアでご研鑽され、バベシュ・ボヨイ大学日本文化センター所長もご兼任ですが、この本の後半には、何とすぐ近く、武蔵野市に25年もご在住の山田エリーザさんとおっしゃる魔女との対話が載っています。

魔女!!ルーマニアには魔女はいっぱいいるそうです。そういえば、7、8年ほど前、ルーマニアのハンセン病療養所を見学したことがありますが、その時の新聞に、国家公認の魔女業があり、きちんと管理されているが、何度もミスると免許?はく奪と書かれていました。

魔女が出る映画といえば、私はスタジオジブリの『魔女の宅急便』、『千と千尋の神隠し』もそうだと思っていますし、観てはいませんが『魔女がいっぱい』とか、古いところでは『オズの魔法使い』や『メアリーポピンズ』も魔女の一味かもしれません。大きな月の前を自転車で飛んで行ったのは『ET』でしたが、あれも宇宙時代の魔女、魔人でしょうか?

魔女・・・夢がありますね。AIと対決するとどうなるのでしょうか?