JP / EN

Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

猫イメージ

「多職間協調は面白いですか?」2025年度研究助成 研究者の発表会

笹川保健財団では、毎年、十数名への研究助成を行っています。1990年代に、財団法人笹川医学医療研究財団の初代理事長だった日野原重明先生のイニシアティブで医師と看護師の緩和ケア研修が始まりました。(2010年に笹川医学医療研究財団は当時の笹川記念保健協力財団と合併しました。)その最初の頃を経験したスタッフはもう存在しませんが、それは緩和ケア医や、通称、ホスピスナースと呼ばれる緩和ケア看護師の研修として続きました。看護師に関しては、このプログラムに登録してくださった方々は3千数百名にのぼります。と申しても、かれこれ30年、初期に研修を受けられた方々は・・・中堅を超えてベテランの域にあるか、既にご退職なさっている方も少なくないのです。

比較的早くに緩和ケアを目指され財団とのご縁があった約100名の緩和ケア医は、独自のネットワーク活動をなさっており、財団もその情報網の中に入れていただいています。一方看護系では、新たに、ちょっと偉そうですが、本格的!研修「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業を立ちあげました。

そして、その両方に足も手もかけているのが「研究助成事業」です。
といって、医師と看護師だけの緩和ケア研究助成を目的にしているのではありません。それも含まれますが、在宅医療・看護が中核である地域包括医療制度の中で活動されている多種多様な保健関連専門家・・・時には保健関係ではない方々も含めて、在宅での療養、地域の中のヘルスの維持向上に関わる研究を、数年来、「多職種」をキーワードに助成させていただいています。

数年前に、とてもユニークな研究をなさった横浜市立大学 地域医療・在宅医療学/総合診療医学 診療教授であられる日下部明彦先生(2020年に「終末期がん患者のセクシュアリティに対する医療者の立ち居振る舞いについてのガイドブックの作成」を助成)とグラナジア歯科医院院長下郷麻衣子先生(2021年に「緩和ケア患者における口腔の健康状態が予後とQOLに及ぼす影響:時間依存性ROC曲線法と機械学習を用いて」を助成)に発表グループ作成、発表会、その後の意見交換会&懇親会をコーディネートとしていただいております。

コーディネーターの日下部先生(左)と下郷先生

2025年度の報告会は、先週土曜日でした。
発表者は11人でしたが、とても興味深い、そして実践的な発表と、有意義な意見交換でした。


看護師の「特定行為」と多職種連携(千葉大学大学院 佐伯昌俊先生)
病院救急車(消防署の、ではなく)による患者搬送(順天堂大学医学部 門田勝彦先生)
在宅療養者の住環境整備(東大大学院工学系 筒井健介先生)
高齢者施設の感染症対策(岡山大学大学院 藤本要子先生)
呼吸器機能によるサルコペニア評価(湘南医療大学 森尾裕志先生)
小児科から成人診療科への移行対策のボードゲーム(都立北療育医療センター 大迫美穂先生)
在宅でのストーマ管理(兵庫県立大看護学研究科 西内陽子先生)
人間ドック受診者への運動療法(埼玉医大理学保健医療学部理学療法学科 新井智之先生)
精神疾患を有する母の訪問育児支援(㈱町コム 訪問看護・リハビリテーションセンター 小六真千子先生)
後期早産児・早期正期産未熟児への保健師支援(関西医療大学保健看護学科 森久仁江先生)
若年性認知症の家族介護者の精神的健康(東京医科歯科大学大学院 前田優貴乃先生)

短くしたご発表の演題を一覧しましたが、どれもこれも興味深いものでしたし、参加下さった方々、皆さま、ご自分の持つ専門性とは異なる観点を楽しまれたように思いました。

多職種が関与して・・・とは、どんな職業が関与してもOKですではなく、どの分野でも、思いもかけない専門性が、エッッッ!と思う効果、成果を出して下さることがあります。ので、皆さま、私には関係ない!ではなく、ご自分でつくっているバリヤーを超えて、あるいはぶっ壊して挑戦していただきたいのです。

たった数時間の集まりでしたが、例えば、建築学専攻の筒井健介先生は、ご自分のおばぁさまの在宅療養を研究の場に、チマチマとした留意点がどのように高齢者の生活改善・・・つまりQOL(生活の質)に関与し、ADL(日常活動能力)の低下を防いでいるかを発表してくださいました。後期高齢者の私自身、大いに参考になりました。筒井先生は、参加していた「日本財団在宅看護センターネットワーク」の仲間である「にじいろナースステーション」(吉祥寺)富樫明美代表の活動の場を見学される約束をとりつけておられました。

発表する東京科学大学大学院の前田先生

このような身近はめぐり逢いから、新しい研究のネタ、展開が生まれ、そして在宅看護への多職種的・・ここでは工学的視点の導入が生まれることをとてもうれしく思います。

来年度も研究助成は公募いたします。多職種・・・つまりどんな分野の方でも、在宅ケアに関わることならOKです。厳しい外部審査はございますが、どうぞ、挑戦してください。

活発な質疑応答もありました
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!