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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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ヨーロッパを目指す人々の悲劇

報道では移民とも難民とも書かれていますが、ヨーロッパでは、中東や北アフリカから押し寄せる多数の人々への対応が深刻な問題となっています。

過去数年以上、北アフリカや中東からヨーロッパを目指す人々の流れが続いています。今年春、地中海で不法に多数乗客を乗せた船が転覆し700名以上の犠牲者が出たことで、確かEU首脳会議が開かれました。その後も、有効な手段が講じられないまま、同様の報道が続いています。8月末、オーストリア東部で放置保冷車からシリア人の遺体71体が見つかったこと、特にドイツを目指す人々が通過地ハンガリーの首都ブダペストに多数滞留し列車運行に支障が出たこと、そして9月3日、トルコ海岸に打ち上げられたシリア人幼児の遺体写真が報道されたことなどなど・・・。

命がけで人々がヨーロッパを目指す理由は、単に先進国で就業したいだけではありません。

かつて勤務した紛争地近傍のパキスタンの街で、いわゆるムジャヒディーン(本来の意味は聖戦士、実際にはゲリラの闘士)の青年から、「カラシニコフライフルを売ってお金を作るから、日本に連れて行って欲しい」と頼まれたことがありました。何年も何十年も続いている不穏な状態、絶えず誰かの、そして自分の生命を殺める戦い、先の見えない生活から抜け出したい・・・・平和というものを実感したことがないだろう青年の真摯な願いを無碍には断れないものの、銃を置いてNGOで働くことを勧めることしか出来ませんでした。アフガニスタンの紛争は、タリバン時代を経て、短い小康状態はあるものの、今も終わったわけではありません。再燃を見る度、あの青年はどうしているかしら、もう生きては居ないだろうと思うことがしばしばあります。

難民の規定は、「難民の地位に関する条約(Convention Relating to the Status of Refugees 通称難民条約)」にありますが、外務省では「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」としています。

この意味では、現在、ヨーロッパを目指している人々は、難民条約が云うような個人的迫害を受けているわけではありません。実際、8月27日に出た国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解でも、「難民か移民か―どちらが正確か?」とされているように、厳密には難民とはいえない状況でもありましょう。人々が求めているのは、私たちにはごく普通の穏やかな日々の暮らしでもあります。

命がけで他国を目指してくる人々を放置は出来ない一方、それぞれの国にも事情があって、ドンドン無条件に受入れは出来ない現実、例えば、自国民の就労機会を狭めることもあって、反「移民」感情が高まっている国もあります。ハンガリーが特に通過地になっているのは、この国はヨーロッパ内なら国境チェックなく移動できる「シェンゲン協定」に加盟しており、中東からドイツを目指す人々の中継点になっているのですが、あまりの流入増と反移民気運の高まりもあって、同国は、先般、セルビア国境沿いに170Kmもの有刺鉄線を張り巡らしたり、周りが海の日本では理解し難いのですが、少し南のマケドニアでも国境封鎖を行いました。

EU28ヵ国全体の人口は5億を超えていますが、最大大国のドイツですら人口は約8千万、以下イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ポーランドまでは人口3千万以上ですが、残りの大半の国は人口1千万以下なのです。今年8月までだけで、60万人以上が押し寄せていることを考えると、人道的だけでは解決できないことも理解できるような気がしますが、最大国ドイツのメルケル首相がEU域内の自由移動制限の検討を呼びかけられたことから、ヨーロッパを目指す側の人々の焦りも納得できます。

根本解決は何でしょうか?

現在、世界には国と国が対決する戦争はほぼありません。国内での地域紛争が、自国民が他国を目指して避難しなければならない最大の理由です。アフリカの紛争地で、明日の食物ではない、今夜の食物が心配・・・といわれたことがありました。紛争がないだけでも人々は安堵するはず、そして最低限の衣、食、住、つまり人間の基本的安全保障がまっとうされれば良い、そしてそれは膨大な戦闘力保持に比べると、簡単に実践出来そうな気がするのですが・・・