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連邦捜査官による射殺事件‐ミネソタで起きたこと

2026年1月、アメリカ中西部のミネソタ州ミネアポリスで、2人のアメリカ市民が連邦レベルの移民関税執行局、通称ICE(アイス アメリカ合衆国移民・関税執行局 United States Immigration and Customs Enforcement)の地域捜査活動中に銃撃され死亡する事件が起きました。

被害者のひとりアレックス・プレッティさんは37歳、退役軍人病院のICU(Intensive Care Unit 集中治療室)の看護師でした。プレッティさんは射殺される11日前にも捜査官ともめており、また、ピストルを保持していたそうで、当初、政府当局者は捜査官による正当防衛だと説明していました。しかし、公開された映像は政府の主張と矛盾しており、国民の不信を招いたのです。

実は、1月7日にも同様の射殺事件が起こっています。37歳のレネー・グッドさんもICE局員に射殺されています。報道によりますと、車を路上で横向きに停車したところ、ICE局員が車の周りを歩き、他の局員も近づいてグッドさんに車から降りるように命じたそうです。グッドさんは少しバックし前方に向かって動きだした・・・この時、車の左前にたっていたひとりの局員が通り過ぎようとするグッドさんにむけて銃弾3発を発射したそうです。これが全国的な抗議活動の原因となりました。

事件の現場(BBC News YouTubeより)

今回の事件の背景にアメリカ現政権の強硬な移民排除政策があることは否めないと思います。移民は何か良くないことを起こす・・・ことに不法移民は治安を脅かすから排除すべきという風潮も広がっているように思えます。もちろん事件そのものは現場の住民と政府捜査官の間のトラブルですが、国民に許されている銃の所持、住民と取り締まり側の緊張関係が続いていたこともありましょう。特にミネアポリスという土地はこのようなことに敏感というか、激しい抗議活動が起こりやすいのでしょうか。

事件への反発デモの様子(BBC Newsより)

ミネアポリスと聞けば、数年前の“Black Lives Matter(「黒人の命も大事だ」と訳されますが、もっと意味は深い)”の原因となった2020年のジョージ・フロイド事件を思い出します。白人警官による黒人男性への暴行死から全米規模の抗議運動が起こりました。今回の事件も警察・捜査機関と市民の間の不信感、溝の根深さからすれば、個々の出来事は単発偶発事件ではなく、残念ながら、アメリカ社会に潜在するなどと軽々しく云っては申し訳ないですが構造的問題のように思います。

市民や人権団体が連邦捜査官の行動は「過剰な武力行使」と批判し、透明性ある調査と責任追及を求め、地元市長や州知事は捜査官の部分的撤退や暴力エスカレーションを避けるべきと訴え、上院議員らはアメリカ合衆国国土安全保障省(DHS United States Department of Homeland Security)への連邦予算を見直すべきとし、オバマ前大統領夫妻は「痛ましい悲劇」と事件を非難し、公平で徹底した捜査を強く求める声明を出されています。

「事件」は「捜査中の死傷事故」の枠を超え、国の移民政策や連邦捜査機関の権限、人権と治安のバランスを巡る全国的議論となっています。民主主義と自由の地、世界中の人々があこがれて移民したアメリカ、色々の分野で数十年間は世界リーダーだった(過去形です!)アメリカで、なぜこんな事件が起きるのか?

オバマ元大統領の投稿(Facebookより)

他国のことを批判がましく書き連ねるのは気が進みませんが、MAGA(Make America Great Again メイク アメリカ グレート アゲイン アメリカ合衆国を再び偉大な国に!)を標榜する現政権の移民・治安政策強化で移民対策(入国を制限すること、国内で「気に入らないこと」を起こせば移送する)が変わりました。ICEなど連邦政府捜査機関に広範な権限が与えられ、特に不法移民対策を名目とする大規模捜査や全国的追及が行われています。今回のミネソタ射殺事件は、このような高圧的捜査の延長線上で起きたと思われます。警察や連邦捜査官と市民が接触する際に過度の武力行使があった可能性がある・・・数日後に出てきた映像証拠が政府側説明と食い違っていた。当然ですが・・・現政権の移民対策政策は支持層には高く評価され、人権団体や反対派政治家からは「人道的問題!」とされます。

でも、アメリカのダイナミックさ、そして善意の人々がたくさんおられることも事実です。数十年来の古き良きアメリカンである知人たちは悲しい・・・とメイルしてきました。

来日中のレディー・ガガのコメントにも感動しました。芸能界のニュースにはうといのですが、ウィキペディアによりますと、レディー・ガガ(Lady Gaga)はインターネット系ビジネスを行われている裕福なイタリア系アメリカ人家庭のお育ちですが、革新的なダンス音楽、独特のファッションやパフォーマンスの数々で世界的人気を博し、史上最も売れたアーティストのおひとり・・・世界的シンガーソングライター、音楽プロデューサー、女優、実業家ですが、それよりも慈善家であり、東日本大震災にも復興支援をなさって下さいました。有名なグラミー賞は14回も受賞、シングルとアルバムの世界総売り上げは1億7,000万枚以上、映画界最高のアカデミー賞では歌曲賞を受賞されています。ジェンダー差別やいじめの撲滅に向けた財団も設立されています。

来日公演中のレディー・ガガのステージ上のコメントです。
1月29日、東京ドーム公演中、演奏を一時中断し、ICEによる捜査やミネソタでの出来事に対する懸念と犠牲者家族への共感を表明されました。レディー・ガガは、ステージからこう語りました。
「私は今、アメリカにいません。でも心は現地の人々と共にあります。子どもたちや家族が苦しみ、恐怖の中にある人々のことを考えると、胸が張り裂ける思いです。安全と人間としての尊厳を取り戻すために、私たちは声を上げなければなりません」と述べ、国のリーダーたちに責任ある対応と慈悲を求めました。

レディー・ガガのコメント(Yahoo!ニュースより)

「アメリカがくしゃみをしたら日本が風邪をひく」とは、大昔云われた日米の緊密性を示す言葉です。ミネソタの事件は移民国家アメリカ固有のことでしょうか。人権と治安、公的権限と市民の安全、移民政策と社会的包摂・・・これまで単一民族的存在が許されてきた日本ですが、今後の急激な人口減少に対し外部者の移住をどうするのか、私たちの心がまえはどうなのか?住民間そして世代間のバランスはどう取るのか。言葉は簡単ですが、「法の下の平等」とか「透明で公平な捜査」って可能なのでしょうか?

財政が厳しくなり、社会保障が重荷になり、余裕がなくなったら、どの国、どの集団でも「排除の論理」が顔を出すでしょう。高齢者、外国人、貧困層、障害者、「経費がかかって役に立たない・・・存在」はいつでも排除の標的になり得ます。
もう少し格好をつけて申しますと「正義とは何か?」、「秩序とは何か?」、そして国家はどこまで住民を管理できるのか、しなければならないのか?
本当の強さとは決して力で押さえ込むことではないのですが、弱い立場の人を守りながら、社会の機能を適正に維持することがどれ程難しいことか・・・紛争地の避難民の支援で、少し経験しました。
「人道」と「正義」はどちらも簡単に説明はできませんが、本来、対立するものではないはずです。けど、事件は起こりました。アメリカの事件・・・はアメリカ社会の問題ではありますが、同時に、私たち自身の未来の姿でもあるように思えます。私には、この出来事が遠い国の他人事と片づけたくない気持ちと、どうすれば良いのか・・・混乱の中にいます。

犠牲者を悼むメモリアル(Facebookより)