JP / EN

Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

猫イメージ

「イラン戦争」が世界に広げる「静かな衝撃」―日本との関係

今朝の東京は小雨ですが、本来の日本は麗しい春です。そんな時に戦(いくさ)の話題ばかりで恐縮ですがやはり心配です。

アメリカの有力新聞The New York Timesの2026年3月2日のコラムで、ジャーナリストの Katrin Bennholdが「これは世界大戦ではないが、多くの世界に影響する戦争だ」と書いています。その通りですね。実際の戦いの場が限定されていても、現代の世界では紛争は瞬時に経済や政治、そして私たちの日々の生活に波及します。じゃぁ、どうすれば良いの?と尋ねられても私に答えはありません。が、知っておくこと、そして考えておくことは、わが国で危険性が高い地震対策と同じではないかと思います。どうしたら良いかの答えではないですが・・・

で、日本との関係です。
まず、イランで行われている「戦争」はウクライナやパレスチナのガザと同じように「遠いところの戦争」です。ですが、ウクライナやガザよりも日本人の生活に関係が深いです。ただし私たちの生活に直接関係ないからウクライナやガザは無関心でも良いのではありません。戦争がもたらすものに何一つ良いことはないことは、幼児期の第二次世界大戦、大人になってからの紛争地の保健支援に従事した経験から声を大にして叫びたい、武力でもたらされるものに良いことは何もない、と。

ここしばらくのメディアでは、毎日、必ずイランの戦争が報じられます。が、ニュースを見ても、「中東の話でしょ」と思われている人も多いでしょう。確かに、イランは地理的にも心理的にも日本からは遠い国です。ですが、首相が石油の備蓄放出を決定されたり、日々、車のガソリンや暖房のための石油が値上がりしたりしていることから、この戦争が私たち日本人の生活に影響していることを実感されている方も多いでしょう。理由は簡単です。私たちの生活は、エネルギーも食料も海外依存しすぎているからです。

福島原発事故以来、日本の発電は石油頼り、その多くは中東から、やがて電気代にも影響が出るでしょう。昨今問題のStrait of Hormuz(ホルムズ海峡)はその石油輸送の重要ルート、中東で緊張が高まると、いつも石油輸送の「ボトルネック」呼ばわりされます。原油価格が上がり、輸送コストや保険料が上がり、結果としてガソリン代や電気代が上がり、物流経費に反映して物価が上がる。戦場は何千キロも彼方、わが国にミサイルが届くことはなくとも、戦争の影響は生活に出てきましょう。

わが国の春、4月は年度初め、色々なことが刷新されます。会計年や学校は4月始まりが多く、交通機関の値上げも春が多い・・・例えば食料価格もじんわり上がりつつあるようですが、メディアでは、温室栽培をなさっている農業者や家畜の生育環境に重油を使われている牧畜業の方々は異口同音に燃料費や輸送費が上がって運営が厳しいと仰せです。そして大量食料輸入を余儀なくされている現在の日本ではスーパーでの品々の値段に影響が出てくる危険性は大いにありましょう。

ホルムズ海峡(Wikipediaより)

日常生活と直接関係しないまでも、ある国の政治的変化が近隣諸国のバランスに影響することは十分考えられます。戦争はある国の軍事だけではなく、必ず、ある国とある国の力関係に変化を起こします。今の状況では、(中東からのオイル輸送が滞ることで自国のそれが買われる可能性がある)ロシアにとっては有利とされる一方、急激に工業化が進み、現在世界一のオイル消費国となっている中国にとっては厳しい状況とされています。

そしてわが国は、当然、外交や安全保障の体制に影響がありましょう。今のところは間接的のようですが、瞬時にエスカレートすることもあり得ます。ですが、どこかの国の為政者が独特の理由で戦争を始め、火が燃え広がってから、お前たちも手伝え!!という事態・・・そんなことで「ハイ!判りました。我々も戦います!」という国はありません。しかしボウボウと燃える火が迫ってきたらどうなることでしょうか?そして、実際に石油の輸入が断絶したらどうなるでしょうか・・・

1991年、第二次世界大戦後の冷戦構造下で一方の雄であったソビエト連邦が消滅、世界は民主主義と資本主義の下に平和で自由になるかと思われました。が、それまで米ソ二大国の軍勢下に覆い隠されていた多数の小ぶりの対立が顕わとなり、90年代以降は一国内での武力紛争が頻発しました。いわゆる「Complex Humanitarian Emergency(複雑な人道の危機)」時代が始まりました。同国民ながら、歴史的な民族的宗教的な違いを理由に小ぶりの、陰惨な紛争が続きました。その頃の、遠い地域の小ぶりの紛争は遠く広くは広がらず、比較的狭い範囲の「地域問題」で終始しました。しかし、現在はどの国も一国で成り立つ時代ではありません。世界経済は強くつながり、エネルギーも食糧も健康の保障も、貿易も金融市場も一体化しています。どこかで何かがあればすぐに影響が出ます。現代はどこかのどんな規模の戦いでも「世界の問題」になりやすいのです。

私たちには遠くに見えるイランでの戦争も実際にはガソリン代や電気代、そして食料価格・・・コンビニで買い求める小さなモノの値段につながっています。

最初に引用したのはニューヨークタイムス(NWT)紙の看板グローバル・ニュースレター・コラム「ザ・ワールド」のホストKatrin Bennholdカトリン・ベンホルドの記事です。彼女は2004年にタイムズ紙に入社、10か国以上で取材を行い、このコラムを担当する前にはNYT紙のベルリン支局長としてドイツ報道を統括し、ジェンダー、移民、テロ、2016年の英国ブレグジット(EU脱退)などについて執筆しています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの経済学修士、ハーバード大学でも研鑽したドイツ生まれ、現在は英国ウェールズ在住のジャーナリストで、ヨーロッパ情勢、民主主義の後退、極右などに力を入れています。グローバルなジャーナリスト・・・です。

遠いところの戦争、日本に住む一人の人間に何ができるのか、考えは出ませんが無関心ではおれません。あなたはどうお考えでしょうか?

The New York Times The Worldの記事